- 『スクラップ・アンド・ビルド』あらすじと感想文
- 3世代のすれ違い
- 無理解がもたらす歪み
- 苦痛のない穏やかな最期
- 注目すべきポイント
少しだけネタバレあります。
テーマは老人介護。
羽田圭介さんの小説『スクラップ・アンド・ビルド』感想です。芥川賞を同時受賞した又吉さんの『火花』も面白かったけど、羽田さんの『スクラップ・アンド・ビルド』もすごい。引き込まれますね。
現代社会に通じる「老人介護」。それを軸にして生じる3世代のすれ違いを描いていました。
もくじ
『スクラップ・アンド・ビルド』あらすじ・評価
第153回芥川賞受賞作!
「早う死にたか」毎日のようにぼやく祖父の願いをかなえてあげようと、ともに暮らす孫の健斗は、ある計画を思いつく。日々の筋トレ、転職活動。肉体も生活も再構築中の青年の心は、衰えゆく生の隣で次第に変化して…。
『スクラップ・アンド・ビルド』ネタバレ感想文
『スクラップ・アンド・ビルド』読んで、息苦しさと可笑しさを感じました。
描かれていたのはキレイごとではない感情です。決して無視できるものではないですね。
3世代のすれ違い

羽田さんの言葉が印象的です。
作品の出発点は介護に対する問題意識ではなく、異なる世代が互いに抱く憎しみや無理解といった部分でした。
世代が違うと考え方や物の見方などが違ってきますね。私も働いて色んな年齢の人と接して、そう思うことが度々ありました。
『スクラップ・アンド・ビルド』主な登場人物は3人です。健斗と、母と、祖父。
そして、テーマは「老人介護」。一つ屋根の下に暮らす3世代が、介護する側とされる側となり様々な感情を抱く・・・。高齢化社会の今に通じる小説でした。
87歳の祖父は戦争を経験しています。一方、健斗は就職活動中の28歳。若い年齢の人にとって、戦争を経験している世代というのは理解し難いところがあるかもしれません。
そんな2人が一つ屋根の下で長時間を過ごすことになるのです。2人の間に生じる微妙なズレが徐々に大きな歪みになる。・・・ヒヤリとしました。
無理解がもたらす歪み
早く死にたい。
祖父の口癖です。介護を必要とする祖父のその先にあるものに思いを馳せました。健斗なりに彼の言葉を聞き、あることに思い至ります。
今までは聞き流してきたけれど、弱い者の声を無視してきた自分は自己中ではなかったか?
彼が行き着いたのは、苦痛や恐怖心さえない穏やかな最期を迎えさせてあげること。・・・ここに、祖父と健斗とのズレを感じました。
祖父は「早く死にたい」わけではないのではないか。
それなのに健斗は、穏やかな最期を迎えさせてあげることを前提にして祖父に接するのです。
果たして、祖父が本当に望んでいるものは・・・?健斗が考えを正当化し追求していく過程に危機感を感じました。
苦痛のない穏やかな最期

毎日のように同じことばをくり返す祖父。介護というのは、する側もされる側も心の負担が大きいものですね。
祖父の言葉から感じ取れるのは「生への執着心」。
だいたい本当に死にたい人は、こう何度も言わないものです。言葉の裏には孫や娘への甘えがあるんじゃないかな(そこが少し可愛いのだけど)。
でも28歳の健斗は、言葉通りに受け取ってしまう・・・。杖を突きながら慎重に歩く祖父を見て、痛くない苦しくない死を望んでいるのだと思うのです。
社会復帰するための訓練機会を奪うべく、自ら進んで介護していく健斗。介護の目的が徐々にズレていくのが危うい感じがしました。
全ては尊厳死のために。
『スクラップ・アンド・ビルド』注目すべきポイント
『スクラップ・アンド・ビルド』を読むときに、ここに注目すると楽しめるポイントをまとめました。
- 孫と祖父のやりとり(淡々と物語は進んでいくけど、2人のやりとりに思わずクスリと笑ってしまう。ユーモラスに描かれているのが面白い)
- 対照的に描かれた生と死(健斗からは生が、祖父からは死が感じられる)
- 健斗の心の変化
いつか自分にも訪れる老人介護。・・・だから真剣に読んでいました。

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