- 井上荒野さんの小説『ある古本屋の妻の話』あらすじと感想
- もし生まれ変わるとしたら
- 冷えきった夫婦
- 一通の遺書
- 妻の賭け
- 見えない言葉のやりとり
少しだけネタバレあります。
佐野洋子さん「100万回生きたねこ」に捧げるトリビュート作品集、4回目のレビューは井上荒野さんの短編です。初めて読む作家さんでした。
『ある古本屋の妻の話』あらすじ
優しさと愛を感じる1話
本の評価
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク
【あらすじ】
夫は古本屋だ。買い取ったダンボールの奥に入っていた一通の手紙。それは遺書だった―。冷めきった夫婦間に嫌気をさしていた古本屋の妻は、ある賭けに出るのだが・・・。
『ある古本屋の妻の話』感想
「あっ、優しいな・・・。」と感じました。他の作品を読んでいないので、今回の話に限って言うと井上さんの物語は優しさと愛が詰まっています。
実は物語を読む前からこの作家さんが好きになってしまったんです。どうしてかと言うと、冒頭に書いている「100万回生きたねこ」に寄せる思いを読んだからです。
もし生まれ変わるとしたら

冒頭に それぞれの作家さんが「100万回生きたねこ」に寄せる思いが書いてあります。井上さんのがまたイイんですよね。
もし生まれ変わるとしたら、白ネコよりも100万回生きたネコ (トラ猫) になりたいと願う井上さん。そこにはある想いがありました。
そばに いても いいかい―。
この言葉に温かさを感じます。相手を愛している気持ちと、だからそばにいたいという思い。ストレートな言葉にキュンとしてしまいました。
冷えきった夫婦
長年連れ添うと夫はそっけなくなり、妻は不満が溜まっていく。
妻の立場になって読んでいました。会話という会話などなくいつもムッツリ顔の夫。「こんなのイヤだな・・・」などと呟きながら。
前は再読をよくしていました。気持ちが掻き乱されるのがいや・・・ってことはないのですが、前に読んだことのある本って安心感があるんですよね。
一通の遺書
買い取ったダンボールから出てきた一通の遺書。妻は宛名の人に届けに行くのですが、受け取ってもらえませんでした。そして思いついた、ある賭け。
彼女は夫との関係を終わらせるか続けるのか、賭けにでます。
ところで、この物語にもやはり猫が登場します。
カオルちゃんにそっくりなトラ猫。妻はそのネコにエサをやり、癒しを求めていました。でもある時からパッタリ来なくなってしまいます。
妻の賭け

このお話の最大の山場は彼女の賭けにあります。返された遺書を夫がどうするのか。
結果がもしも「捨てちまえ」だったら、この家から出ていく。
でも違う答えだったら・・・?
夫が何と答えたのか。それは書かないでおきます。
見えない言葉のやりとり
読み終わったあとに 冒頭の「そばに いても いいかい」を読み返すと 夫と妻の気持ちが重なるように感じました。
妻の賭けの夫の答え。それはたったひとことの言葉なんです。でも・・・
- 夫「そばに いて ほしい」
- 妻「そばに いて あげる」
書かれていないけど、そんな見えない言葉がかわされているかのようです。お互いの優しさが感じられて私の心も温まりました。
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