- 帚木蓬生さんの小説『受難』あらすじと感想
- 作者の悲しみと怒り
- 春花のレプリカ
- 生きる喜び
- 少女の運命と切ない結末
少しだけネタバレあります
iPS細胞で蘇生した少女の運命は・・・。
帚木蓬生さんの小説『受難』感想です。
このお話の前に『受精』『受命』があるんですね。前2作をすっ飛ばして読んでしまいました。本作だけでも充分に面白かったです。
『受難』あらすじ
セウォル号の転覆事故を題材にした『受難』
本の評価
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク
【あらすじ】
大型フェリー「世月号」が沈没。その頃、韓国の細胞工学治療院に運ばれた少女の遺体・・・。iPS細胞と最先端の3Dプリンターで蘇生した少女の運命は・・・。
『受難』感想
『受難』は まだ記憶に新しいセウォル号の転覆事故を題材にして描かれています。
そしてもう1つ、iPS細胞と3Dプリンターによって蘇生した少女・春花 (チュンファ、津村たちはハルカと呼んでいます)。
彼女の運命と韓国のフェリー事故がどう絡んでくるのかが気になり、後半は一気読みでした。
作者の悲しみと怒り

2014年に起きたフェリー転覆事故。
ニュースを見て感じた悲しみと怒りを思い出しました。前に読んだ帚木さんの著作『悲素』でも実際に起きた事件を取り上げていて作者の怒りを感じました。

今回もまず感じたのは作者の怒りです。
2014年4月16日、韓国の大型旅客船セウォル (世越) が全羅南道珍島郡の観梅島 (クヮンメド) 沖海上で転覆・沈没した事故。
船に取り残された高校生たちの最後のメールには、思わず涙が流れ、救助活動も満足にされず終い。ずさんな社会の体質が明らかになりました。
この小説では 世月 (セウォル) 号となっています。
実際の世越 (セウォル) 号のオーナーである兪炳彦 (ユビヨンオン) 、本書では兪兵彦 (ユビヨンオン) として描かれています。彼が変死しているのは疑わしい。
春花のレプリカ

麗水 (ヨス) 細胞工学治療院に依頼が舞い込みます。
高校2年生の春花 (チュンファ) の蘇生です。
滝壷に落ちて亡くなり、冷凍保存された少女のレプリカを作ってくれというものでした。
再生医療に役立つと言われているiPS細胞。そして3Dプリンターの登場です。
春花のレプリカが誕生しました。アポジ (祖父) の元で第2の人生を歩み始める彼女と、治療院の人たちのやり取りが優しくて微笑ましかったです。
それにしても韓国読みの名前が、わんさか出てくるのでちょっと読みずらい。カタカナが苦手な私は一苦労です。
春花は世月号の事故に興味を抱きます。そして徐々に蘇るおぼろげな記憶。彼女とセウォル号には、ある繋がりが・・・。
蘇生した喜びもつかの間、春花の皮膚に亀裂が入りはじめます。せっかく伸び伸び暮らしていたのに彼女はどうなるんでしょうか?
3Dプリンターと言えば
ネットで調べていてすごい記事を発見しました。
ボストンでプリンターで卵巣をつくり、マウスに移植させたところ無事に出産したと。
生きる喜び
生きる喜びに共感
春花と祖父の京都への旅行や、ヨス治療院の人たちとの済州島 (チエジユド) 旅行。美味しそうな食べ物もたくさん書かれていました。
ヨス治療院の津村や佳代など、みんな温かく優しいキャラ。彼女たちと一緒に旅行しているかのようなリアルな描写は楽しくなってきます。
本の登場人物なのに 生き生きしているのが印象的でした。
少女の運命と切ない結末
読み終わって考えたのは春花の運命でした。切ない結末なんですよね。彼女がそのために生き返ったとは、どうしても思いたくありません。
彼女はセウォル号に関して調べるうちに、ある事実に気づく。そして再び、祖父と母の故郷である済州島へ・・・。
結末は悲しかったけど、中盤は読むのが楽しかったです。春花や周りの人の喜びが伝わってきました。
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