- 川上弘美さんの短編『幕間』あらすじと感想
- トラ猫と楽しいドラゴンクエストの世界
- 永遠を生きる男の子
- 訪れる別れ
少しだけネタバレあります
第11話、川上弘美さん『幕間』
「100万分の1回のねこ」11話目のレビューは、川上弘美さんの短編です。実は 短編集を読む前から楽しみにしていたお話。『幕間』は、ある大人気ロールプレイングゲームを舞台にして描かれています。
ドラゴンクエストⅤです。
『幕間』あらすじ
ドラゴンクエストⅤの世界!!
本の評価
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク
【あらすじ】
目覚めると 前世の記憶を持った猫は船の上にいた。そこには男の子と父親がいて・・・。あの大人気ロールプレイングゲームをイメージした、川上さんが描くトラ猫の運命は?
『幕間』感想
ドラクエ好きの私としては見逃せません。読んでいる途中も楽しくて楽しくてしょうがなかったです。しかも私の1番好きなⅤ。
ドラクエのトラ猫

主人公、船の上で目覚めたネコは前世の記憶を持ったあのトラ猫です。佐野洋子さんの絵本「100万回生きたねこ」の。
もしかしてベビーパンサーのこと!? ・・・と勝手に思っていたのですが違いました。ネコは単なるバグということです。
なるほど。ゲームをしていると稀にフリーズしたり「バグ」が起きたりすることってありますからね。
それにしても、ドラクエとあのトラ猫を絡めちゃうなんてすごい。ワクワクします。でも楽しいだけではないんです。じんわりと切なくなりました。
楽しいドラゴンクエストの世界
何が楽しいかって?
ドラクエのシーンが頭の中を駆けめぐることです。ドラクエが好きな人の方が何倍も楽しめる物語ですね。
例えばこんな記述があります。
家じゅうのタンスや樽を調べてるまわる。入っているものはもれなく取り出し、父親の持っていた袋にしまいこむ。
タネや装備品が入っているとラッキーって感じです。小さなメダルも嬉しい。これはみんなやりますよね? そしてだれ彼構わず話しかける。
共感しました。文章で書くとちょっと非常識な行動のようにも思えますが、この世界では至って常識です。
ドラゴンクエストの中で1番好きなのは、小説の舞台にもなっているⅤです。
可愛いモンスターも仲間になるし、主人公の男の子が幼少時代から青年になり、果ては結婚をして子供が2人・・・と、まるごとの人生をプレイできる。
パパスの最後のシーンを思い出してジーンとしてしまいました。この短編には パパス (←男の子の父親) も登場しているんです。
・・・と、楽しい話はここまでで次は少し切なくなったことです。
永遠を生きる男の子
ロールプレイングゲームをやっていると主人公の成長が楽しかったりします。
ドラクエやFFが好きな理由にもなるのですが、モンスターを倒して経験値をもらったり、強力な武器防具を装備することでキャラクターは強くなっていきます。その過程が楽しいんですよね。
でもこの小説を読んでいたらゲームの中の主人公の気持ちを考えてしまいました。彼の悩みがチクリとします。
どうして生まれてきたのか。
ゲームの中で永遠を生きる男の子。生きる意味を失ってしまったようです。ゲームをやる側の私はそんなこと考えたこともありません。
ドラクエの主人公は、たとえ死んだとしてもまた教会で生き返るんです。ゲームをやめても彼は死なない。
「永遠」という言葉がとても重く感じた瞬間。『幕間』というタイトルに、男の子の絶望がにじみ出ている気がして切なくなりました。
やがて訪れる別れ
猫と男の子との別れの時が訪れます。
バグが消えてしまう。トラ猫は ここでも死ぬ運命にあるんですね。男の子を残して・・・。
物語の余韻は切なさが残ります。前半はとても楽しかったけど。今度ドラクエをやるとき、主人公やゲームの中のキャラクターに愛おしさを感じてしまいそうです。
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