- 川上弘美さんの短編『幕間』あらすじと感想
- トラ猫と楽しいドラゴンクエストの世界
- 永遠を生きる男の子
- 訪れる別れ
少しだけネタバレあります
「100万分の1回のねこ」より『幕間』は、川上弘美さんの短編です。
『幕間』は、大人気ロールプレイングゲーム「ドラゴンクエストⅤ」を舞台にして描かれている一話。
実は、短編集を読む前から楽しみにしていたお話なんですよね。
『幕間』あらすじ・評価
ドラゴンクエストⅤの世界

目覚めると、前世の記憶を持った猫は船の上にいた。そこには男の子と父親がいて・・・。あの大人気ロールプレイングゲームをイメージした、川上さんが描くトラ猫の運命は?
『幕間』ネタバレ感想文|ドラゴンクエストⅤの世界
ドラゴンクエストⅤの世界が描かれた『幕間』。
ドラクエ好きの私としては見逃せません。読んでいる途中も楽しくて楽しくてしょうがなかったです。
ドラゴンクエストはスクエア・エニックスより発売されているロールプレイングゲーム。大人気ですよね。
ドラクエのトラ猫
主人公、船の上で目覚めたネコは前世の記憶を持ったあのトラ猫です。佐野洋子さんの絵本「100万回生きたねこ」の。
でもⅤにはネコは登場しないんですよね。もしかしてベビーパンサーのこと!? ・・・と勝手に思っていたのだけど違いました。
ネコは単なるバグということです。
それにしても、ドラクエとあのトラ猫を絡めちゃうなんてすごい。ワクワクしますね。
楽しいドラゴンクエストの世界
何が楽しいかって?
ドラクエのシーンが頭の中を駆けめぐることです。ドラクエが好きな人の方が何倍も楽しめる物語ですね。
例えばこんな記述があります。
家じゅうのタンスや樽を調べてるまわる。入っているものはもれなく取り出し、父親の持っていた袋にしまいこむ。
タネや装備品が入っているとラッキーって感じです。小さなメダルも嬉しい。これはみんなやりますよね? そしてだれ彼構わず話しかける。
共感しました。文章で書くとちょっと非常識な行動のようにも思えるのだけど、この世界では至って常識です。
ドラゴンクエストの中で1番好きなのは、小説の舞台にもなっているⅤです。
可愛いモンスターも仲間になるし、主人公の男の子が幼少時代から青年になり、果ては結婚をして子供が2人・・・と、まるごとの人生をプレイできる。
パパスの最後のシーンを思い出してジーンとしてしまいました。この短編にはパパス(←男の子の父親)も登場しているんです。
・・・と、楽しい話はここまでで次は少し切なくなったことです。
永遠を生きる男の子
ゲームの中の主人公の気持ちを考えて、切なくもなりました。彼の悩みがチクリとします。
どうして生まれてきたのか。
ゲームの中で永遠を生きる男の子は、生きる意味を失っていました。ゲームをやる側の私はそんなこと考えたこともありません。
『幕間』というタイトルに、男の子の絶望がにじみ出ている気がして切なくなります。
ドラクエの主人公は、たとえ死んだとしてもまた教会で生き返るんです。ゲームをやめても彼は死なない。「永遠」という言葉がとても重く感じた瞬間でした。
やがて訪れる別れ
やがて、猫と男の子との別れの時が訪れます。
バグが消えてしまうんです。トラ猫は、ここでも死ぬ運命にあるのですね。男の子を残して・・・。
物語の前半はとても楽しかったけど、読後の余韻は切なさが残りました。今度ドラクエをやるとき、主人公やゲームの中のキャラクターに愛おしさを感じそうです。




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