- 誉田哲也さんの小説『プラージュ』あらすじと感想
- 訳ありばかりのシェアハウス
- 記者とAは誰?
- 過酷な現実と社会のあり方
少しだけネタバレあります
罰があるのは、ゆるす前提があるから―。
誉田哲也さんの小説『プラージュ』訳ありばかりのシェアハウス感想です。誉田さんの本は久々に読みました。
『ストロベリーナイト』の姫川シリーズ、ジウシリーズは読んだことがあって。何年か前に読んだ時は、グロい描写が苦手で敬遠していたのですが、これは良い物語ですね。
『プラージュ』あらすじ
あるシェアハウスに住む、厄介者たちの物語
たった一度の過ちから全てを失った貴生。やっとの思いで見つけたシェアハウスで暮らし始めるが・・・。
『プラージュ』感想
とても良い物語なんじゃないでしょうか。最後は泣けてきました。
サクサクと読める小説

この小説は 前科持ちがシェアハウスで生活して、自分の罪と現実に向き合うお話です。
・・・いえ、決して軽くはないですね。社会に出ることの大変さなども描かれていますし。ただこういうテーマって、東野圭吾さんの小説が深いです。
『手紙』を連想しました。

犯罪者の家族が描かれている小説。そちらが逸品だったので、申し訳ないのですが物足りなさを感じました。
誉田さんの『プラージュ』は 最後がとてもよかったです。重いテーマなのにサクサク読めたのは、シェアハウスで生活する人たちの家族のような温かさを感じたから。
訳ありばかりのシェアハウス
魔がさして覚醒剤に手を出した主人公の貴生。
バカだなぁと思います。たった1回の過ちで前科がついてしまうのだからシャレになりません。元受刑者を受け入れているシェアハウスで暮らすことになります。
長澤まさみさんのドラマ「ラストフレンズ」でもありました。ここで描かれているのは 前科者たちが一つ屋根の下で暮らすお家。シェアハウス「プラージュ」、この本のタイトルにもなっています。
フランス語で「海辺」という意味です。海と陸の境界。1階はカフェで、2階が居住空間。そして各部屋にはドアがない。
楽しい情景が伝わってくるから読み手も心地よくなってしまう。部屋にドアがないなんてイヤだ・・・と思いますが、経営者・潤子の元受刑者へのある想いがあったんですよね。心が温かくなりました。
記者とAは誰?

一つ屋根の下で暮らすうちに 登場人物たちの罪が明らかになっていきます。覚醒剤、殺人・・・。彼らはどんな過去を持っているのかと気になりました。
- 潤子 (プラージュの店主)
- 貴生 (主人公、覚醒剤の前科)
- 彰
- 通彦
- 友樹
- 美羽
- 紫織
- (記者とA)
潤子を含め、プラージュの住人は7人。様々な登場人物の視点で進んでいくのですが、「記者」の視点が気になりました。
ある事件で有罪となり二審で無罪となった「A」と、その事件を追っている「記者」が、実はシェアハウスの中にいました。
「記者」は名前を偽り、無罪になった「A」の罪を暴こうとハウスに潜入します。
謎は最後に明かされます。あの人?・・・と、想像はついていたのですが、それよりも「記者」の告白にびっくりです。
この2人の人物当てに注目すると 面白く読めます。時間枠が少しだけズレていたりするので混乱しますが・・・。
過酷な現実と社会のあり方
罪を償った元受刑者の過酷な現実が描かれています。テーマとも言える本筋。
覚醒剤使用で逮捕された貴生は 就職先を探すも ことごとく失敗。魔がさしただけ・・・と言っても社会の風当たりは相当に厳しいです。
そして何かあると前科持ちというだけで真っ先に疑われる。とてもイヤな気分になりました。
大切な娘を殺された伸介おじいちゃんが印象に残りました。
死刑は賛成でも反対でもないけど、犯人の両腕を切り落としてしまえば重犯罪は行えないと語る伸介さんの考えが斬新。罪を赦す社会のあり方を語っています。
罪を償った人が真面目に生きるなら、社会は無条件に受け入れるべき。
たとえ殺人を犯していたとしても。・・・でもこれはどうだろう。理想としてはそうありたいけど、気持ち的には なかなか難しい。
真面目に更生するのは良いことだけど、正直、殺人を犯した人の側には近寄りたくないと思ってしまいます。
現実や社会が厳しいのは、それもひっくるめてその人の犯した罪なんだからしょうがない。再犯率を考えるなら、受け入れる社会の方が下がるかもしれませんね。
優しい結末
結末がステキです。仲間っていいなと思ったり。シェアハウス、ムリだと思う一方で 短期間だったら住んでみたいかもと思ったり。
このラストのおかげで、良い物語を読んだという気になりました。優しさを感じて涙がぽろり。登場人物に感情移入しながら読んでいたので、ホッとしたのかもしれません。



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