- 畑野智美さんの小説『タイムマシンでは、行けない明日』あらすじと感想
- 忘れられない過去
- 無数に存在するパラレルワールド
- 僕がいない世界
- 失ってから気づく大切なこと
- 出会うべく人
少しだけネタバレあります。
切ないSF恋愛小説
畑野智美さんの小説『タイムマシンでは、行けない明日』感想です。新鮮・・・、こんな展開もありなんですね。
『タイムマシンでは、行けない明日』あらすじ
もう一度、会いたい!
本の評価
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク
【あらすじ】
高校生の丹羽光二は恋をしていた。相手は同級生の長谷川葵。初めてのデートの日、彼の前から永遠に姿を消してしまった彼女。彼女を救うため、タイムマシーンに乗って過去へと急ぐ光二だったが・・・。
『タイムマシンでは、行けない明日』感想
面白かったです! 括りでは SF恋愛小説ですが、それだけでは終わらない深さがありました。
物語の展開が新鮮です。こういうのもあるのかと唸ってしまいました。
もしも、過去に行けたなら

誰しも1度は過去を変えれたらと願ったことがあるのではないでしょうか? あるいは未来に行ってみたいと思ったり。
もしも、あの時ああしていたら、今とは違った未来が訪れるかも。
私も思うときがあります。後悔したときに。そう願う時って今がどん底で、過去をかえたら今よりも良くなると思っている。
でも決してそうではないんですよね。もしかしたら、過去を変えることで取り返しのつかないことになるかもしれません。
忘れられない過去
主人公・丹羽光二には忘れられない過去がありました。目の前で好きな人が事故死する。彼はタイムマシンで過去に行くんです。長谷川さんを救うために。
まだ好きという気持ちを伝えていないまま彼女はいなくなってしまったから。
彼の引きずる気持ちは理解できます。この展開はよくあるパターンですが、それだけでは終わらない新鮮さがありました。
無数に存在するパラレルワールド
ここが面白い!
面白いところは、タイムマシンで過去に行った僕のその後の展開にあります。
長谷川さんを救うはずが・・・、長谷川さんのかわりに僕が死んでしまうのを目撃します。混乱の末、元の時代に戻ろうとする光二。
たどり着いた場所は 彼が死んでいる世界でした。
展開が新鮮で面白かったです。私にとっては予想外で、でも過去を変えてしまったら確かにこんな展開になるのかもと1人で納得していました。
世界には無数にパラレルワールドが存在しているのかもしれません。そう思うと不思議な感覚になります。
でも無数の世界は別々に進んでいくから認識することはありませんよね。光二はタイムマシンを使って、それをねじ曲げてしまいました。
僕がいない世界

僕がいなくて、長谷川さんが生きている世界。
あの事故から光二がいない世界だから、あの事故の後も生きてきた光二から見れば全く別世界です。
大学で知り合った魚住さんもいなければ、友達もだれもいない。・・・実際には同じ世界に生きているんだけど、魚住さんは光二の知らない人生を歩んでいます。
そして、光二は死んだことになっている・・・。
想像すると恐ろしいです。長谷川さんを救いたい一心でかえた過去が、とんでもない事態をひきおこしてしまいました。
こういうこともあり得るんですよね。彼はこれからどうするんだろう?と、読むのを止められませんでした。
失ってから気づく大切なこと
タイムマシンを発明した井神教授、付き人の夜久くん、魚住さん、遊佐くん・・・。
個性溢れるキャラは温かみがあって楽しく読めます。そして SF恋愛小説に留まらない深さがあるんです。
過去をかえる前はわずらわしく感じていた人間関係も、今思えば愛に溢れていて幸せだった。
この世界に来て彼が気づいたことです。時の流れからはみ出してしまった光二ですが、それによって周りの人たちの思いに気づきます。
大切なことは失ってから気づく。
切ないけど、すごく実感がこもっていて心に刺さりました。
出会うべく人
いたる所に伏線がちりばめられていて、最後には全てが1本の線でつながっていく。描き方がとても上手いです。
人だけじゃなくモノも。三島由紀夫の『美しい星』や、黄色い星のキーホルダー。最後に戻るべくところに収まったときには嬉しくなりました。
魚住さんのおにぎり、食べたいです。
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