- 『ドクター・デスの遺産』あらすじと感想文
- ドクター・デスのモデル
- 安楽死が欧米で認められている理由
- 犬養刑事の葛藤
- 捕まえられなかった罪
- 安楽死を扱った小説おすすめ
ネタバレあります。ご注意ください。
犬養隼人シリーズ4
中山七里さんの小説『ドクター・デスの遺産』読書感想です。刑事・犬養隼人シリーズ『切り裂きジャックの告白』『七色の毒』『ハーメルンの誘拐魔』に続く4作目。5作目『カインの傲慢』も出ていますね。
刑事ものとして楽しめることはもちろん、テーマがテーマだけに苦味が残る読後感でした。
キャストは、綾野剛×北川景子。映画も楽しみでなりません。
もくじ
『ドクター・デスの遺産』あらすじ・評価
犬養隼人シリーズ4
警視庁にひとりの少年から通報が入る。捜査一課の高千穂明日香は、犬養隼人刑事とともに少年の自宅を訪ねる。すると、少年の父親の通夜が行われていた。少年に事情を聞くと、見知らぬ医者と思われる男がやってきて父親に注射を打ったという。日本では認められていない安楽死を請け負う医師の存在が浮上するが、少年の母親はそれを断固否定した。次第に少年と母親の発言の食い違いが明らかになる。そんななか、第二の事件が起こり・・・。
『ドクター・デスの遺産』ネタバレ感想文|テーマは「安楽死」

犬養隼人シリーズ『ドクター・デスの遺産』、テーマは「安楽死」です。
海外で安楽死が認められている国は、スイス、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダなど。現在の日本では認められていませんね。
安楽死を望む人々の苦悩、それを行っていく「ドクター・デス」と名乗る犯人、刑事・犬養隼人の葛藤・・・。さまざまな人々の思いが描かれていて興味深く、胸が痛みました。
答えの出ない問。ほとんどが患者のためを思って悩んで出した決断だったから、苦しかったです。
『ドクター・デスの遺産』は、安楽死だけでなく、推理やどんでん返しなどのミステリーとしても楽しめました。
死の医師ドクター・デス|モデルは実在の人物
犬養刑事が追うのは、安楽死を請け負う謎の人物・ドクター・デスです。手口は、塩化カリウム製剤を患者に投与して死に至らしめるというものでした。
実はここで描かれているドクター・デスは実在の人物をモデルにしているんですよね。
モデルになっているのは、アメリカの病理学者ジャック・ケヴォーキアン。
ジャック・ケヴォーキアンは、アメリカの病理学者、元医師。末期病患者の積極的安楽死の肯定者で、自作の自殺装置を使った自殺幇助活動で「死の医師(ドクター・デス、Dr. Death)」と呼ばれ有名になった。1999年に殺人罪で服役するが、仮釈放後も亡くなるまで安楽死・尊厳死の啓蒙活動を続けた。―Wikipediaより
七里さんの小説で描かれているドクター・デスは、医師のような白衣を着て看護師とともに現れます。
「妙な話なんですけれど、印象があまりないんです。わたしと同じ背格好だったから背が低かったのは確かで、頭の天辺も禿げてました。でも顔の形とか目鼻立ちがはっきりしていなくて……」
似顔絵を作成しようにも、証言が曖昧で進まない。後半まで本名も分からず、捜査は難航していました。
犬養刑事はドクター・デスが関与していると思われる過去の案件を、相棒の高千穂明日香とともに洗い出していきます。
安楽死を望む人々の思いと、欧米で認められている理由

見逃されていた過去の複数案件に、ドクター・デスの影がチラホラと・・・。問い詰める犬養&明日香ペア。
ドクター・デスと接触した家族の苦悩に心が痛みます。
痛がって、苦しんで、わたしに向かってお願いだから殺して欲しいとまで懇願したんですよ。だけど、わたしには、そして主治医の先生もどうすることもできなかった。最後の最後まで苦痛と絶望に塗れた死でした
小説では安楽死を望む人々の思いと、欧米で認められている理由についても書かれていました。
ドクター・デスのモデルとされているジャック・ケヴォーキアンの主張「死ぬ権利」。
彼の主張は独善に満ちていて到底肯えるものではないが、一つだけ共感できることを言った。誰にでも死ぬ権利がある、と
欧米で安楽死が認められている理由の一つとして、キリスト教文化圏では個人の自己決定権(死ぬ権利)を尊重していることが挙げられていました。
無意味な治療で本人を苦しませるのは形を変えた虐待や拷問に過ぎないという考え方。
日本と欧米の文化の違いもありますね。日本では、どんなに患者さんが苦しんでも生きてほしいと願う風潮があるような気がします。
一番大事なのは患者さん本人の意思。
もしも、もう治らない病気で本人が延命を望んでいなくて苦しむのが辛いなら、延命治療は周りの人のエゴなのかなと考えてしまいました。
刑事・犬養隼人の葛藤
刑事でありながら、難病で苦しむ一人娘の父親でもある犬養隼人。ドクター・デスを追いながらも、悩む彼の葛藤も描かれています。
もし病状が今よりも悪化し沙耶香が自ら死を望んだとしたら、自分は安楽死を選択肢の中に入れる勇気があるのか──。
父親としてはドクター・デスの行いを完全に否定できないけど、刑事としては逮捕しなければならない。
「娘が生きているだけで救われる」と、犬養刑事の素直な気持ちも描かれていてジーンとしました。
大切な人が生きていてくれてるだけで、救われる思いもある・・・。沙耶香も父親の気持ちを理解していて、父娘のやり取りは心が温まります。
もしも今後、沙耶香の病状が悪化して苦しんだとしても、彼女は安楽死を望まないだろうな。そして父親の犬養も・・・。
捕まえられなかった罪と苦い結末|ドクター・デスの正体は?
ラストは思わぬ展開でした。逮捕のときに起こったハプニングは、さすがの犬養刑事にも予測不可能なこと。最後に彼は刑事としての選択を迫られます。
犯人は捕まえたが、罪を捕まえられなかった
捕まえられなかった罪。刑事失格と言われても仕方なくて、苦味が残りました。でも「安楽死」を扱う上では避けては通れないことです。
終盤、犯人の過去が描かれていて、犯人がどのような思想で安楽死を行っているのかも明かされます。
ドクター・デスの正体は、七里さんの小説を読み慣れた人だと、途中で想像がつくんじゃないかな。
安楽死を扱った小説おすすめ

最後に、安楽死を扱ったミステリー小説で、過去に読んだものを紹介します。軽めと重めの2冊。どちらも面白かったのでおすすめです。
『十二人の死にたい子どもたち』冲方丁
軽めを読みたいとき
冲方丁さん『十二人の死にたい子どもたち』は、「議論」をしていく中で起こる心境の変化が面白かったです。安楽死については、そんなに深く描かれてないけどドキドキでした。

『神の手』久坂部羊
重めを読みたいとき
久坂部羊さん『神の手』は、安楽死について深く描かれています。久坂部さんはお医者様で、リアル感がありました。法制化の裏で暗躍する人々・・・。ミステリー感もあり楽しめます。


