- 『オービタル・クラウド』あらすじと感想文
- 神の杖とデブリらしきもの
- オービタル・クラウドの正体とタイトルの意味
- スマーク親子救出作戦
- テロの目的
- 宇宙への憧れ
ネタバレあります。ご注意ください。
四万のスペース・テザー……。まるで、軌道の〈雲〉ね
藤井太洋さんの小説『オービタル・クラウド』上下巻の感想です。・・・内容、半分くらい理解出来なかったけど面白かった。特に後半は一気読みです。
人物も魅力的ながら、物語も宇宙がらみで壮大でした。読み応えたっぷりです。
もくじ
『オービタル・クラウド』あらすじ・評価
世界を揺るがすスペース・テロ
本の評価
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク
【あらすじ】
流れ星の発生を予測するWebサービス〈メテオ・ニュース〉を運営するWeb制作者・木村和海は、イランが打ち上げたロケットブースターの2段目〈サフィール3〉が、大気圏内に落下することなく、逆に高度を上げていることに気づく。オフィス仲間である天才的ITエンジニア沼田明利の協力を得て、〈サフィール3〉のデータを解析する和海は、世界を揺るがすスペーステロ計画に巻き込まれて・・・。
『オービタル・クラウド』上下巻 ネタバレ感想
スペーステロを扱った『オービタル・クラウド』。本格的なSF小説です。
・・・にもかかわらず、面白く感じたのはすごい。分からずに読んでいても胸が熱くなりました。
神の杖とデブリ (宇宙ゴミ) らしきもの

〈メテオ・ニュース〉の運営者・木村和海は、イランが打ち上げたロケットブースターの2段目〈サフィール3〉が、高度を上げていることに不信を抱きます。
和海だけでなく、『オービタル・クラウド』に登場する人物はみんな優秀。仕事仲間の明利や、JAXA職員・関口誠、CIAのクリスやブルース、北米航空宇宙防衛司令部のダレルも・・・。
和海や明利が不信に思った〈サフィール3〉が 発端になり、スペーステロに巻き込まれていきます。高度を上げたのは、周りにあるデブリ (宇宙ごみ) らしきものの影響ではないかと。
誰にも知られていないデブリなんてものが一万もあれば、人工衛星や宇宙ステーションにとって極めて危険なことになる。
一方、〈サフィール3〉を観測していたアマチュア天文写真家オジーは、「Rods from God (神の杖)」 と名づけ、自分のブログで公開。
CIAに目をつけられ、さらに和海や明利も巻き込まれていく。スピーディな展開、ミステリー要素もあって楽しめました。
〈サフィール3〉の高度を上げた 「デブリらしきもの」。それはいったいなんだろう?
それにしても、和海が働いている〈メテオ・ニュース〉は 流れ星を予測したりするんです。二行軌道要素なるものを使って。
面白そう・・・と、そちらの方にも興味津々です。
オービタル・クラウドの正体|スペース・テザーとタイトルの意味

タイトル『オービタル・クラウド』は 軌道の〈雲〉、ジャムシェドが考案したスペース・テザーを指しています。
中盤、〈サフィール3〉の高度を上げた 「デブリらしきもの」 の正体が明かされます。
「俺の……。俺の〝スペース・テザー〟だ。なんで軌道を飛んでるんだ」
「デブリらしきもの」 の正体は、テヘラン工科大学宇宙工学科助教授・ジャムシェドが考案したスペース・テザーでした。
導電性テザーシステムの一種で、宇宙空間、特に磁場のある惑星の軌道上で使う推進方式。
『オービタル・クラウド』は 全部理解しようと思わず、雰囲気だけつかめれば良い・・・という結論に至りました。
考案したのはジャムシェドですが、それを作って飛ばしているのは違う人物。テロの実行犯・白石蝶羽と北朝鮮の工作員・チャンスです。
「四万のスペース・テザー……。まるで、軌道の〈雲〉ね」
軌道の〈雲〉オービタル・クラウド。これがテロに使われようとしています。
宇宙へ飛び立ったロニー・スマークと、その娘・ジュディが乗っているロケットに、オービタル・クラウドが近づいていたのです。
宇宙へ飛び立ったスマーク親子救出作戦

後半は 和海や明利、JAXA職員、CIAなどが一丸となって、スマーク親子救出作戦を決行。スペース・テザーを排除するために作戦を練ります。
最新型のロケット〈ロキ9〉で宇宙へ飛び立ったスマーク父娘。
怖いはずなのに元気な振りして頑張っているスマーク父娘を見ていると、助かってほしいと願わずにはいられなくなります。
難しい用語が多いけど、これから何を成すべきか道筋は理解できるから楽しめるんですよね。
テロの目的|犠牲を強いてでも成し遂げたいこと
テロを計画した白石蝶羽とチャンス。そしてそれを引き継ごうとしたジャムシェド教授。
テロをおこすのにも目的があります。それは宇宙開発の大跳躍 (グレート・リープ) なるものでした。
- スペース・テザーで事故を増やし、人工衛星を運用している国家の宇宙開発に取り組む意欲を削ぐ
- 北朝鮮が宇宙開発へ投資を発表して 優秀な科学者、エンジニアを集める
- 北朝鮮と同盟国イラン、パキスタン、アフリカの小国や、小さな団体が宇宙開発の本場になる
優秀な人たちだったけど、テロを起こした彼らの考えは 最後まで理解できませんでした。
宇宙開発の大跳躍は大きな目的なのかもしれません。でもそのために、宇宙にいるスマーク父娘が犠牲になろうとしています。
それを良しとする白石やジャムシェド教授の考え方についていけず、何言ってるの、この人たちは・・・と思いました。
宇宙への憧れ|スペース・テザーで見る地球
テロに使われたスペース・テザーですが、発明自体は素晴らしいものでした。
見てみたいのは、スペース・テザーのメガピクセル・カメラ、8万個で撮影した地球の映像です。
息を呑むほど美しい海の模様、水平線に分厚い積乱雲の渦が見える。そして虚空には小さいが明るく輝く白い点がひとつ
何時間か前の地球の3D映像。写真を重ねていき、立体的な地球を作り上げたものでした。
白石は スペース・テザーにカメラを搭載していたのです。データも重くなり、バッテリーも喰うし、通信が暴露する可能性がある中で・・・。
なぜ白石はカメラを搭載したのか。明利の言葉に納得しました。
「そんなこと、決まっているじゃない。地球を見たいからよ」
スペース・テザーを作った白石。テロというやり方は間違っていたけど、彼の中にも純粋な情熱があるんだと、しみじみしました。
宇宙に憧れる気持ちです。
そういう気持ちを垣間見ると、白石もジャムシェド教授も嫌いになれない。
『オービタル・クラウド』。ラストは 宇宙にロマンを感じられる小説でした。おすすめです。


