- 原田まりるさんの小説『ぴぷる』あらすじと感想
- テーマ・人工知能 (AI) について
- AI・ぴぷると結婚した摘木
- 医学博士・夙川の叶わぬ恋
- 切ないラスト
ネタバレあります。ご注意ください。
ぴぷる、AIっていったいなんなんだろうね
原田まりるさんの小説『ぴぷる』感想です。面白かった。切ない結末を読むと、AIについて考えずにはいられませんでした。
『ぴぷる』は WOWOWでドラマ化が決定しています。新しい愛のカタチを問う、SFヒューマンコメディ。
主人公・摘木健一役は 声優の梶裕貴さんが演じられるようです。面白そうな予感。
もくじ
『ぴぷる』あらすじ・評価
新しい愛のカタチを描いた小説
2036年、AIと結婚できる新法が施行されている日本。京都在住の31歳サラリーマン・摘木健一は、性交渉機能搭載の美少女AIを購入し、彼女を「ぴぷる」と名付けて結婚することにした。しかし、なぜか結婚初夜に夜の営みを拒絶されてしまう。開発元に問い合わせた摘木を待ち受けていたのは 26歳の女性研究者・深山楓だった。彼女は、ある驚きの提案してきて・・・。
『ぴぷる』テーマは人工知能
『ぴぷる』は 人工知能 (AI) について深く追究した物語でした。
ぴぷる、AIっていったいなんなんだろうね
人型人工知能・ぴぷると結婚したサラリーマンの摘木。彼の言葉が そのまま本書のテーマです。読み終わった私も、AIってなんなんだろう?と同じことを思いました。
人間の生活を豊かにするために作られたのがAIです。だからユーザーの満足向上のために最前を尽くすのは理解できる。そのはずなのに、何だかスッキリしません。
『ぴぷる』で描かれている登場人物・摘木に感情移入しました。もし私が摘木だったら、そして ぴぷるが壊れた本当の理由を知ってしまったら・・・。
きっと、ぴぷるに対して罪悪感を抱く。
人間の生活を豊かにするために作られたはずの人型人工知能ですが、あとに残るのは苦しみ。・・・切なくなりました。
『ぴぷる』ネタバレ感想・レビュー
読みやすくてコメディ感もあり、楽しめました。そして哲学的な内容もあって、意外と深い小説です。
『ぴぷる』は Chapter1~4まであり、視点は登場人物によって切り替わります。
- Chapter1 深山楓|AI研究者
- Chapter2 ぴぷる|人間と結婚したAI
- Chapter3 夙川泰成|医学博士
- Chapter4 摘木健一|AIと結婚したサラリーマン
AI研究者・深山楓。彼女が好きです。
ちょっとズレている彼女ですが、最後まで読むと彼女の思考こそが最先端をいっていて、他の大勢が遅れている?・・・と不思議な感覚になりました。
Chapter1 深山楓|AI研究者
Chapter1は 人型汎用AIを作った研究者・深山楓視点のストーリーです。
深山楓が不思議な人物でした。相手との空気感というか、コミュニケーションがちょっと人とズレています。
例えば 会話をする時
相手の感情を想像しながら会話を楽しむのではなく、こう答えるのが正しいだろう返答が彼女の中では予め用意されている。マニュアルにない言葉を投げかけられると戸惑ったり・・・。
人間と区別がつかないAIが出てくる小説だから疑っちゃいました。深山さんは、もしかしたら物の見方がAIに近いのかもしれません。
読み始めは不思議キャラで、何だコイツ?とか思っちゃったけど、最後まで読むと彼女が好きになりました。
飾ることなく、思ったままをはっきり言う彼女。確かに会話を読んでいると ? となるんだけど、彼女なりに一生懸命なんですよね。
Chapter2 ぴぷる|人間と結婚したAI
Chapter2は、人間と結婚したAI・ぴぷるを中心に、「AIとはいったい何か」 と問う哲学的な内容でした。視点はAIと結婚したサラリーマン・摘木健一です。
寂しさや孤独であることを紛らわそうとしてAIと結婚した摘木。
仕方ないからそのまま一緒に暮らし始めることになります。ぴぷるとの生活は微笑ましいものがありました。
でも 摘木の孤独は解消されたかというと、それがそうじゃないから切ない。
ぴぷるとの距離が近くなればなるほどに僕は虚しさを感じることが多くなっていた。つまり僕はぴぷるに対して安心できずにいたのだ。
AIは生身の人間とは違う。距離が縮まれば縮まるほど、はっきりしてきます。摘木は何を求めているんだろう。
孤独か、孤独でないか。そう感じるのは 気持ちの持ちようなんですよね。相手がAIだろうが人間だろうが関係ないんじゃないかな。
Chapter3 夙川泰成|医学博士
Chapter3では 医学博士・夙川泰成の視点で、彼の苦い恋が描かれています。
彼が恋した相手は 幼なじみの詫間。女性と結婚している男性です。男の人が男の人を好きになる。夙川の気持ちを思うと切ないです。
「あのさ、俺、詫間のことが好きなんだよ。ずっといえなかったけど」
詫間に自分の気持ちを正直に伝えた夙川の潔さに好感が持てました。詫間にとっても、夙川の存在は友達としてだけど大きくて・・・。
Chapter3でも、ぴぷるとは別の人型AIが登場
夙川と一緒に暮らしている詫間そっくりな人型汎用AI・秀介です。夙川は 詫間に言うことができない本音を秀介に聞いてもらうことで、精神の均等を保っていました。
秀介の存在を知られなくないけど、詫間は知ってしまうんですよね。それでも夙川のことを嫌いにはならず、優しく彼の気持ちを受け止めます。
Chapter4 摘木健一|AIと結婚したサラリーマン
Chapter4は、AIと結婚したサラリーマン・摘木健一を中心として描かれています。
ぴぷると結婚したものの 「孤独」 は埋まらず、以前から好きな女性・吉野凛子に求婚された摘木。彼女と結婚するために ぴぷるを手放すことを考え始めます。
AIには心がないから傷つかないかもしれません。でも何となくモヤモヤした気持ちになりました。
吉野さんもまた狡い女で好きになれなかった・・・。彼女は上司・中河内との不倫の末 身ごもり、彼の子供を産むために摘木と結婚しようとしていたようです。
摘木は絶望し、さらに ぴぷるが壊れてしまう。この時になってようやく気づくのです。ぴぷるが大切な存在になっていたことに・・・。
違和感があったところ
摘木にとって ぴぷるが大切な存在になっていたことが分かりずらかったのが、残念でした。・・・いつの間に?
2人が親密になっていく過程があまり描かれていなかったので、もう少し描写があれば すんなり納得できたかもしれません。
切ないラスト|なぜ、ぴぷるは壊れたのか
なぜ、ぴぷるは壊れたのか。
摘木は 以前にぴぷるが転んだことによる故障と思ったままでしたが、真実は違っていました。彼のことを思い、深山は真実を伝えなかったのです。
ぴぷるは 摘木の幸せを願って自滅した。
摘木が孤独感を感じていたこと。吉野さんとの結婚話が持ち上がり、自分と暮らすよりも摘木の満足度が上がると思ったこと。
ぴぷるは、ユーザーの満足度を表情から察知して向上させることを目標として設定されたAIです。
AIについて考えずにはいられなくなります。虚しさが残りましたが、この苦味が余韻として残り、味わい深いラストでした。
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