ミステリー・サスペンス

心の闇を描いた『坂の途中の家』角田光代 / そこにあるのは家族愛と恐怖

家

彼女はもう1人の自分かもしれない―。

角田光代さん『坂の途中の家』
重い・・・。なかなかガツンとくる心理サスペンスでした。

こんな人におすすめ!

  • 心理サスペンス好き
  • WOWOWドラマを見るぞ!と意気込んでいる
  • 子育て奮闘中の人、子育てを妻にまかっせっぱなしの旦那さん

・・・ただAmazonのレビューを読むと、子育てしている方の意見は割れていました。共感できる人と、共感できない人とで。

角田さんの本は、以前に短編を読んだことがあります。佐野洋子さんの絵本のトリビュート作品『100万分の1回のねこ』の中の1話、「おかあさんのところにやってきた猫」 です。

『おかあさんのところにやってきた猫』角田光代/100万分の1回のねこ「100万分の1回のねこ」5話目のレビューは、角田光代さんの短編です。 この物語は「ねこ」目線で描かれていました。読んでいると、私...

とても温かな、ふわふわの物語だったので、そのイメージのまま読んでいたら、180度雰囲気が違ってびっくりしました。

少しだけネタバレあります。

『坂の途中の家』あらすじ

心の闇を描いた心理サスペンス

『坂の途中の家』
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク

【あらすじ】
子どもの虐待事件の補充裁判員に選ばれた里沙子。自分も幼い子どもを育てる母親だった。裁判で証言を聞くうちに、いつしか被告と自分を重ねて見ていることに気づくのだが・・・。

『坂の途中の家』感想

心がささくれる・・・。心理サスペンスと謳っているだけあって、本当にズシリときます。面白くて、気づくと夢中になって読んでいました。でも一旦本をおいて、次に読み始めるまでが長く、読み終えるまで時間がかかってしまいました。

気になったのは、3つ

  • 主人公の被害妄想ぶりが凄まじい
  • 裁判員裁判、なんだか大変そう
  • この家族、これからどうなるんだろう?

特に最初から最後まで、主人公・里沙子の心の闇が描かれていて、共感ができなかったです。

危うい精神バランス

里沙子が、なんだか可哀想に思いました。

夫がいて、愛娘がいて、一見すると穏やかで幸せな家族。でも里沙子の心の中はボロボロでした。夫に怯えてビクビクしながら子育てをする毎日。終いには、本当に娘を愛せているのかわからなくなる。

ひだまりさん。
ひだまりさん。
彼女の精神バランスが危うい・・・。

ひだまりさん。は 子育ての経験がありません。お子さんを持つ人が読んだら共感する部分もあるのかなと思いながら読んでいました。

危うい状態のまま、物語は進んでいきます。

彼女はもう1人の自分かもしれない

里沙子は、虐待事件の補充裁判員に選ばれてしまいます。被告である水穂が、娘を浴槽に沈めて死なせてしまった事件です。

裁判員裁判は、大変ですね。
しかも里沙子は、裁かれている水穂の境遇に似ていました。幼い子どもがいて、夫にビクビクしていて、自分の母親とも折り合いが悪くて・・・。

証言を聞くうちに、被告と自分を重ね合わせてしまうのもムリはないのかもしれません。その描写が痛々しい。いつか精神が壊れてしまうのではないかとハラハラしました。

彼女はもう1人の自分かもしれない―。

想像してしまいました。もしも、私が裁判員に選ばれて、裁かれている人が私と似た境遇だったら・・・。里沙子のように、私も被告に肩入れしてしまうのかな。自分を庇うように。

少しボタンをかけ違えただけで、立場が変わるかもしれない恐怖を感じました。ひとつ間違えば、向こうに立っているのは私かもしれません・・・。

ここで裁かれているのは被告

裁判

水穂に自分を投影させて彼女を庇う発言をする主人公を見ていて、連想した作品があります。三谷幸喜さんの舞台『12人の優しい日本人』です。

こちらも裁判員制度を描いた作品。裁判員に選ばれた12人が有罪・無罪を話し合う。陪審員2号の役を生瀬勝久さんが演じておられます。

『12人の優しい日本人』では、生瀬勝久さんが被告に自分の妻を投影させていました。でも最後に気づくんですよね。ここで裁かれているのは自分の妻ではなく、被告だということに。

その瞬間の生瀬さんの悟った表情。そして本書『坂の途中の家』の里沙子を重ねて見てしまいました。理性ではわかっているはずなのに、自分の妻や自分自身が裁かれているような感じになってしまう。

ひだまりさん。
ひだまりさん。
裁判員に選ばれるなんて思いもしない。非日常なわけだから、こういうのも理解ができる。

しかも被告の量刑を決めなければいけないという重圧・・・。なかなかハードだなと思います。

裁かれているのは被告。自分じゃありません。

いくら自分を重ねて見ていたからって、被告と里沙子は やはり違いますよね。実際のところ、本当の心の内なんて本人にしか分からないわけで。そう考えると、裁判で量刑を決めなければならない難しさも感じました。

テーマは家族愛

私は、果たして、文香を愛しているのか?

裁判員になって被告と自分を重ねてみている主人公が、もしかしたら私も愛娘を・・・と考えたりするところに危うさを感じました。

里沙子の愛娘・文香 (あーちゃん) は2歳10ヶ月。仕事で忙しく帰りが遅い夫・陽一郎との3人暮らしです。その中で子育てに奮闘する里沙子。帰り道、ぐずったあーちゃんから離れていたところを陽一郎に見られてギクシャクしたり・・・。

裁判員裁判、子育て、夫とのやりとりを通して最後に見えてくるのは、確かに存在する 「家族愛」 でした。

やはり子どもは可愛いもの。自分の分身です。最後は愛を感じて、ほっとしました。

でもそれまでが少し長い・・・。
子育ての描写、あーちゃんのワガママぶりが目立ちます。子どもに愛しさを感じている描写が少ないので、この辺りは少し違和感を感じてしまいました。

そして陽一郎がちょっと威圧的。なんでも否定されるとヘコむかもしれませんね。里沙子の気持ちが離れていく・・・。

家族は修復不可能? 気になる結末

ラストは、もやもやしたまま終わってしまいました。裁判員を引き受ける前と、裁判が終わったあとでは、変わってしまった里沙子の気持ち。・・・前のようには、もう戻れないと思う彼女に切なさを感じました。

ひだまりさん。
ひだまりさん。
この家族、これからどうなるんだろう? 修復不可能なんでないかな・・・。

家族って、空気のような存在のように感じるけど、決してそうではないのかもしれません。そこには愛があるけど、些細なことで壊れてしまう脆いもの。・・・だから尊く思えました。

WOWOWドラマ、主演は柴咲コウさん

『坂の途中の家』は、WOWOWドラマ化が決定しています。主演は、柴咲コウさん。里沙子を演じます。

小説は心にかかる負担が大きいけど、ドラマになるとどうなんだろう。楽しみです。

ABOUT ME
ひだまりさん。
ゆるりと本をよんでいます。ミステリー、ホラー、SF、ファンタジー、何でもよみます。ほとんど小説、ときどき絵本。→ 詳しいプロフィールはこちら
こちらは読んだ?

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA