残酷な嘘と真実
清水杜氏彦さん『うそつき、うそつき』
表紙のイラストが可愛いのに、中身はとても残酷。初めて読む作家さんでした。
少しだけネタバレあります。
『うそつき、うそつき』あらすじ
近未来を描いたディストピア小説
【あらすじ】
首輪型嘘発見器で国民を管理する近未来。少年・フラノは、首輪を除去する仕事をしていた。でもそれは違法・・・。ディストピア世界で必死に生きる少年の物語。
『うそつき、うそつき』感想
すごく残酷なお話でした。ラストが・・・。面白くて読むのを止められなかったのですが、救いがなくてショックを受けました。
ディストピア青春ミステリ
まさにディストピア青春ミステリ。最初 SF なのかなと思って読み始めましたが、ミステリー感が強かったです。ここで描かれている世界が斬新でした。
国民が嘘発見器 「首輪」 で管理されたディストピア社会。
首輪を付けるのを義務化されて、人々は心の内を他人に知られることを余儀なくされる・・・。
- 嘘なら → 首輪は赤。
- 真実なら → 首輪は青。
嘘がバレバレですね。心の中が相手に知れてしまう社会。『うそつき、うそつき』では、喋らなければ首輪が赤く光ることはありません。でもそんなことムリです。
恐ろしいことに外そうとすると首輪が締まる設定になっていて、首輪によって殺されてしまう人たちも続出します。こんな不便で恐ろしい世界は絶対ありえないけど、すんなり物語に入れました。
首輪除去技術を持つ少年・フラノ
主人公はフラノ、首輪除去技術を持つ少年です。
こういう社会では、必ず首輪を外したくなる人たちが出てくる。非合法ですが、フラノは除去技術で生計を立てていました。
首輪を外したいと願う人も、外してあげるフラノも危険と隣り合わせです。一歩間違えれば2人とも死んでしまう可能性もあるから。失敗した時の、人を死に至らしめてしまった時のフラノの心情が痛いほど胸に刺さりました。
首輪には種類があります。
- ルル・・・4歳~中学生まで。
- ブルーノ・・・中高生~中年まで。
- パルファン・・・70歳以上の高齢者など。
- ロールシャハ・・・前科者や犯罪者予備軍。
- レンゾレンゾ・・・謎が多い。時限装置付き。
その中でも、ある特定の人にしか付けてない 「レンゾレンゾ」 。滅多にお目にかかれない、そして外すことが不可能な首輪です。
フラノには願いがありました。
ある人のために 「レンゾレンゾ」 を外す技術を身につけること。
その思いがあったからこそ、彼は首輪除去をし続けていたのですね。
出会いと別れ
ピッピと出会ったフラノは疑心暗鬼にかられます。
父親はあの男に殺された?
後半は少し混乱しました。・・・みんな嘘ばかりです。ピッピも、師匠も、サクラノさえも。嘘の中にも真実があったりするからタチが悪い。
どれが嘘でどれが真実なのか、わからなくなりました。クールハースとフラノのひとときは、真実に満ちていたと思います。彼らが 「レンゾレンゾ」 のカラクリを解き明かそうとしているシーンは、心温まりました。
嘘と真実
嘘は必要不可欠なもの。
嘘がない世界になんて暮らしたくないです。心のうちを読まれてしまうなら、ひだまりさん。の接客業なんて成り立たないかも・・・。人間関係もギクシャクしそうです。
三谷幸喜さんの舞台 「君となら」 を連想しました。
主人公・あゆみを竹内結子さんが演じておられました。1つ嘘をつくと、辻褄を合わせるためにたくさんの嘘をつき続ける。その連鎖を面白可笑しく描いたお話です。
嘘をつく時って、たいがい自分のための嘘ですね。でも、人のためなら構わない (・・・と思っています) 嘘があふれた世界では、本当のことを知りたいと願う。たとえ嘘だったとしても、最後の最後までつき続けたものは、真実になり得るんです。
哀しい結末
ラストは 賛否両論かもしれません。
ひだまりさん。は ショックを受けました。フラノが行っていたことは非合法で、人殺しで、倫理から外れています。でも、それを言うならこのクレイジーな世界はどうなの? と。
国民を 「首輪」 で支配するディストピア。こんな世界では暮らしたくない。哀しい結末でした。