『荒地の恋』あらすじ・ネタバレ感想|詩人・北村太郎の恋と結末|ねじめ正一
- 『荒地の恋』あらすじと感想文
- 荒地派の詩人
- 北村太郎の恋
- 大人な関係
- 儚き人生の終焉と穏やかな結末
少しだけネタバレあります。
恋に落ちた詩人・北村太郎
ねじめ正一さんの小説『荒地の恋』感想です。詩人・北村太郎を描いた本格的な恋愛小説。豊川悦司さん主演でドラマ化されました。
家庭を捨てて禁断の恋に走る情熱的な男と女が描かれています。
何だ、この人たちは!!登場人物がみんな個性的で面白すぎる。
くっついては離れて、またくっついて・・・。今で言うところの不倫です。何歳になっても人は恋をするものなのですね。そしてそれは盲目。
『荒地の恋』あらすじ
詩人・北村太郎の恋と地獄
北村太郎、53歳、詩人。親友の妻と恋に落ちた時、彼らの地獄は始まった。詩神と酒神に愛された男・田村隆一。感受性の強いその妻・明子。そして、北村太郎は明子に出会って家庭も職場も捨て、「言葉」を得る―。
『荒地の恋』ネタバレ感想文
1998年、宝島社の新聞広告で刺激的なキャッチコピーが掲載されました。
そこに登場していたのが、詩人・田村隆一です。荒地派の代表的な詩人。田村の妻を奪った男がいました。北村太郎、本書の主人公です。
舞台は1970年代後半から80年代。ここに出てくる人たちは、みんな実在するんですよね。荒地派と言われる戦後の代表的な詩人たちです。
実在の人物だから興味深かった。恋は盲目・・・。
荒地派の詩人
荒地派の詩人をみて思ったのは、みんな自分に正直・・・ということ。
そうじゃないと家庭を捨ててまで恋に生きることなんて出来ないんじゃないかな。このお話に出てくる人たちは、主に『荒地』という同人誌のメンバーです。
53歳の男が恋に落ち、多くの人を傷つけても自分に正直に生きる。少し自分勝手な気もするけど、そこに至るまでの葛藤と人間関係が面白いんです。
自分勝手だけど世間に愛されている男、北村に魅力を感じたよ。
北村太郎、恋に落ちる
恋に落ちるのはいつも突然です。
北村は、友人でかつて同人誌のメンバーであった田村の妻・明子 (ドラマでは鈴木京香さんが演じてる。実名は和子) に恋をします。
友人の奥さん・・・って。
絶句しました。さらに悪いことに、彼は自分の妻に正直に打ち明けてしまうんです。こんなに正直すぎていいの・・・と、あ然としますね。
でも一度燃え上がったものは止めることができない・・・。やがて北村は家庭を捨てて明子と暮らし始ることになります(結局その恋にも終わりがくるのだけど)。
そこまでの過程が泥沼状態で、当事者だったら耐えられないかも。
大人な関係
興味深かったのは、それぞれの大人(奇妙?)な関係です。
北村は明子と暮らすけど、明子の夫であり彼の友人でもある田村との交友関係は続いていました。
2人の展開を大まかに言うと こんな感じです。
- 北村→明子と付き合う→別れる→阿子という女性と付き合う(モテモテですね)
- 明子→北村と付き合う→別れる→田村とよりを戻すが、北村の世話を焼く
主人公が田村の妻(明子)をとったのに2人の友情はそのままで。結局、彼女とは上手くいかなくなり別れる。その後、主人公に新たな恋人(阿子)が出来ても明子が世話を焼きにくる。
へんな関係。でもそれが人間なのかな。周りから見たら理不尽なことも、当人達にとっては普通のことなのかも。
北村の明子への気持ちにも変化が生じます。愛している気持ちは変わらないけれど、それがいつしか恋愛から妹に抱くような愛情に変わっていく・・・。
愛にも様々なかたちがあるものだ。
『荒地の恋』儚き人生の終焉と穏やかな結末
『荒地の恋』を通して見えてくるのは、1人の男の人生です。
恋愛を中心として描かれている物語と思いきや、決してそれだけではないんですよね。友人の死と元恋人の自殺騒動があったり、主人公の病も発覚したり・・・。
多発性骨髄腫。後半で描かれているのは「死」です。
どんなに楽しい人生を過ごしても、辛い時を送ってても、死は平等に訪れるとしみじみしました。
人の生に儚さを感じたけど、結末は穏やかなものだったよ。
不倫の果ては地獄
『荒地の恋』に「愛」と「地獄」を感じました。
不倫で始まる恋が愛になり、果ては地獄へと続いていく。妻と子供との関係や、明子との甘い生活から地獄へ・・・。
まさに荒地ですね。それでも一緒になりたいと願う気持ちは正直わからなくもないけど。
夫婦って何だろう。夫の一言で簡単に崩れてしまう絆の儚さ。
切ない気持ちと恋をする気持ちと半々で読んでいました。でも、なぜか主人公を憎めないんですよね。