- 三島由紀夫さんの小説『命売ります』あらすじと感想
- 死に損なった男・羽仁男
- 何だかカラッポな、すばらしい自由な世界
- 三島の皮肉
- 羽仁男の命と死生観
少しだけネタバレあります。
三島が描く命と皮肉―。
三島由紀夫さんの小説『命売ります』感想です。インパクトあるタイトルですね。三島由紀夫さんの小説を初めて読みました。
『命売ります』あらすじ
ユーモアあり、驚きあり!?三島の皮肉を存分に感じた1冊。
「命売ります」 新聞の広告を見た人たちが、羽仁男の元を訪れる。彼らは羽仁男の命を買おうとするのだが・・・。三島の皮肉とユーモア溢れた物語。
『命売ります』感想
三島由紀夫さんの著作を読んだことあったかな?・・・ひょっとしたら教科書とかで読んでいるのかもしれませんが、(覚えがないので とりあえず) 初めてです。
もっと難しくて読みにくいのかと思いきや、スラスラと読めてしまいました。
三島由紀夫が描く命と皮肉。
それについて羽仁男を通して見えてくるものがありました。
死に損なった男・羽仁男

ある日 新聞の活字がゴキブリに見えてしまった羽仁男。生きていても仕方がないと思い、自殺を試みます。
でも未遂に終わり、死ねなかった羽仁男にとって “何だかカラッポな、すばらしい自由な世界” がひらけました。
そして、「命売ります」 と新聞に広告を出し、自室のドアに 「ライフ・フォア・セイル 山田羽仁男」 とレタリングした紙を貼る。
最初に読んだとき、彼の気持ちがよくわかりませんでした。
- なぜ 彼は死にたくなったのか
- “何だかカラッポな、すばらしい自由な世界” とは
でも何回か読むうちに彼の気持ちが理解できたような気になりました。
何だかカラッポな、すばらしい自由な世界
自殺も自殺未遂もしたことがない私には、羽仁男の気持ちは分かりません。
心が “カラッポ” 状態で、自分が無敵になったような妙な錯覚に陥ります。「なんでも来い!」 「どうとでもなれ!」 という感じで根拠なく強気になる。
これが “すばらしい自由な世界” でしょうか。(つまりは自暴自棄?) そんなときに、彼は死に取りつかれてしまいます。
この小説を読んで、そういうときって死が隣にいるのかなと怖くなりました。
三島の皮肉

主人公の元には 命を買いに様々なお客が来ます。でも、命はなかなか売れません。
彼は死にたいのに死ねない。
運よく (?) 生き延びてしまう。三島の皮肉を感じます。
この小説は 様々なストーリーが詰まっている連作短編集のような感じでした。
一つ一つのストーリーが面白かったです。るり子の話、治験の話、吸血鬼の話、にんじんの話、ACS (アジア・コンフィデンシャル・サーヴィス) という秘密組織・・・。
吸血鬼の女と一緒に暮らし始める羽仁男は彼女を愛し、にんじんで暗号を解読するシーンは頭が良い。
命を買おうとするお客と接するうちに、彼の心は少しづつ変化していきます。
羽仁男の命と死生観
本のテーマは 羽仁男の命と死生観です。
全体を通してそれが描かれていました。様々なお客と出会ううちに、彼は命に執着するようになります。
突然 死ぬのが怖くなるんです。あれだけ命を粗末にした彼が・・・。不思議な気持ちになりましたが、その心の変化が面白いです。
父が言ったひとことを思い出しました。
「朝、目が覚めて自分が生きていることが嬉しい」
そのときは そんなものかなと聞き流していたのですが、この小説を読んでいたら そう言えばと頭をかすめました。
生きている喜びは 私よりも父の方が何倍も強いのかもしれません。
人生は終わりがあるから輝かしい・・・とよく言いますが、全くその通りだなと思います。終わりを考えたとき生きていることが幸せに思える。
1日1日を楽しく生きていきたいですね。
どんでん返しと皮肉な結末
ラストはどんでん返し的なものがありました。スピーディな展開にギョっとします。羽仁男を狙うのは・・・!?
そして最後にキツイひとことが待っています。ぜひ本を読んでみてください。
著者・三島由紀夫の皮肉を存分に感じました。死にたいと思う時には死ねず、生きたいと思った時には命を狙われる。
皮肉な結末でした。



