『たゆたえども沈まず』あらすじ・ネタバレ感想文|ゴッホ「星月夜」と弟テオドロス|原田マハ
- 『たゆたえども沈まず』あらすじと感想文
- 情熱的な画家・ゴッホ
- フィンセントとテオ
- 表紙を飾る「星月夜」
- 歌川広重「大はしあたけの夕立」
- タイトルの意味
史実に基づいた程度のネタバレあります。
ゴッホの情熱
原田マハさんのアート小説『たゆたえども沈まず』感想です。フィンセント・ファン・ゴッホについての知識ゼロで読んでいたら、あまりの切なさに後半は号泣でした。
『たゆたえども沈まず』を読んだあとにゴッホの絵をみると、奥深さが増します。
アーティストの人生を追体験することで、絵画に込められた情熱が理解できるんですよね。
面白かったよ。
『たゆたえども沈まず』あらすじ
ゴッホが身近に感じられる!
19世紀末、パリ。浮世絵を引っさげて世界に挑んだ画商の林忠正と助手の重吉。日本に憧れ、自分だけの表現を追い求めるゴッホと、孤高の画家たる兄を支えたテオ。四人の魂が共鳴したとき、あの傑作が生まれ落ちた―。
情熱的な画家・ゴッホの波乱な人生
ゴッホと聞いて思い浮かべたのが向日葵の絵でした。全く絵画に詳しくないのだけど、カラフルで力強い絵を描く画家さんのイメージです。
彼が描く黄色が好き。
本を読むまで、彼がどんなふうに生きて、どんなふうに描いて、どんな人たちと関わって人生を終えたのかを知りませんでした。
弟のテオとの関係や最後は自殺(?)して生涯を終えたこと。テオもそのあとにすぐ亡くなってしまったこと。
後半は切なさのオンパレードです。
だれも描いたことがない全く新しい絵。情熱をすべて絵に注ぎこんだフィンセントの姿が脳裏から離れません。
絵を描くシーンは情熱的だった。
精神を病んでいるフィンセントを見ていると、狂気すらも感じました。・・・想像ができてしまうんですよね。原田さんのアート小説は今回もすごかった。
『たゆたえども沈まず』ネタバレ感想文
舞台は19世紀のフランス・パリです。
当時のパリは、印象派と呼ばれる画家たち(エドガー・ドガ、ポール・セザンヌ、クロード・モネ、ピエール=オーギュスト・ルノワールなど)も活動していました。まさに芸術の都ですね。
『たゆたえども沈まず』は、パリでたゆたっている4人を主軸にした物語。
日本に憧れる画家と彼を献身的に支える弟、日本の浮世絵をパリに広めようとする画商たち。彼らの心が共鳴したとき運命の歯車がまわり出すのです。
いちばんの友だち、フィンセントとテオ
心に刺さったのが、フィンセントとテオの心のすれ違いでした。
幼い頃からフィンセントに憧れを抱いていたテオ。フィンセントも彼のことを「弟でありながら友だち」と、可愛がっていました。
やがてフィンセントは絵を描きはじめ、テオは生活費、画材費、その他もろもろの面倒をみることに。
兄の才能にいち早く気づいた人物、それがテオです。
献身的なんだ、彼は。それに比べて兄の生活は自堕落そのもの・・・。
タンギー爺さんへの飲み代のツケを払わずに、お金をお酒につぎ込んでしまうフィンセントには顔をしかめてしまいました。
フィンセントは弟を想うがゆえに自殺を図り、残されたテオは重い十字架を背負うことになります。そして後を追うように・・・。
これは切ないな。
表紙を飾る「星月夜」
小説の表紙を飾るのはフィンセント・ファン・ゴッホ「星月夜」です(裏表紙にはもう一つ絵画が掲載されていました)。
明るい、どこまでも明るい夜空。それは、朝を孕んだ夜、暁を待つ夜空だ。(中略) かくも清澄な星月夜、けれどこの絵の真の主人公は、左手にすっくりと立つ糸杉だ
↑「星月夜」を表した文章です。フランスサン=レミ=ド=プロヴァンスの精神病院で療養中に描かれたもの。
実はフィンセントが描くシーンが書かれているんですよね。彼の「星月夜」に込められた熱い思いが伝わってきました。
原田さんのアート小説は、何度も表紙の絵を眺めてしまいますね。(←もはやお決まりのパターン)
「星月夜」をじかに見てみたい。
フィンセントの気持ちになって、あるいは弟テオドロスの気持ちになって絵画を鑑賞できそうです。
どっしりとまっすぐ天に向かって伸びる孤高の糸杉。・・・まるでフィンセントを表しているかのごとく力強く描かれていました。
歌川広重「大はしあたけの夕立」
裏表紙に掲載されたもう一つの絵画は、歌川広重「大はしあたけの夕立」です。
橋の上を行き交う人々、そして雨・・・。
日本の浮世絵ってあまり興味がなかったけど、原田さんの文を読みながら絵画を鑑賞するのが楽しいんですよね。
ほんとうに動いて見える!!
林忠正らにより、パリではあまり知られていなかった日本画が広まっていく様子は爽快でした。
『たゆたえども沈まず』タイトルの意味
パリを表す言葉として「たゆたえども沈まず」という表現があります。
「Fluctuat nec mergitur」揺れても沈まないという意味。
セーヌ川の氾濫、戦争や革命が続いても生き抜いてきたパリの人々の力強さを象徴しています。
もともとは船乗りが使う言葉だったようだよ。
激動のパリの中で生きるテオや、林忠正、重吉、そしてフィンセント・ファン・ゴッホ。この言葉はまさに彼らを示しているかのようでした。
パリは、たゆたえども沈まない。フィンセントやテオも、荒波の中でたゆたいながらも決して沈まない。
フィンセントは精神が壊れながら絵を描き続けます。ほんとうに画家になるために生まれてきたような人です。
『たゆたえども沈まず』はゴッホの絵が身近に感じられる小説
『たゆたえども沈まず』は、ゴッホが歩んできた人生を垣間見ることができる小説です。
心の底から兄を愛し、時には憎み、それでも最後まで支え続けた弟テオに感情移入しました。
ゴッホの絵は彼ひとりの作品ではなくて、テオとの二人三脚の末に出来上がったものなんですね。
登録人物たちが身近に感じられた一冊。