- 江國香織さん『生きる気まんまんだった女の子の話』あらすじと感想
- 温かさと切なさ
- 女の子のコッコロ
- 生きることの喜び
- 夫を愛していた女の子
少しだけネタバレあります
「100万分の1回のねこ」より江國香織さん『生きる気まんまんだった女の子の話』感想です。
佐野洋子さんの絵本『100万回生きたねこ』を読んだら、こちらの本も読んでみたくなりました。トリビュート短編集です。
「100万分の1回のねこ」は、13人の作家さんが描く13の物語。
『生きる気まんまんだった女の子の話』あらすじ・評価
誰も好きにならないと決めた女の子の物語

両親を早くに亡くし、叔母さん夫妻にひきとられた女の子。生きていることが楽しくて、誰も好きにならないと心に決めるのだったが・・・。
『生きる気まんまんだった女の子の話』ネタバレ感想文

『100万分の1回のねこ』を読むと、もう1度『100万回生きたねこ』を読みたくなりました。
さすがトリビュート作品ですね。江國さんの短編はトップバッターにぴったりです。
温かさと切なさ
この物語を読んで抱いた想い。それは佐野さんの絵本『100万回生きたねこ』を読んだ時とまったく同じでした。
温かさと切なさです。
あの絵本を読んだことがある人は、わかって頂けるかな?
他者を愛して生きる実感が持てたことの温かさと、愛する白ネコが死んでしまったことの切なさです。
あの猫のように100万回生きたいがために人を好きにならないと決意した主人公。けれどいつしかダメな夫を愛していた温かさと、夫を失った切なさ。
女の子のコッコロ
主人公の女の子が可愛いんです。誰も好きにならないぞっ!と決意する気持ちには、ある理由がありました。
だれも愛さなかったから何度も生きられた―。
『100万回生きたねこ』を読んで、そう信じて疑わない女の子。彼女は「生きる気まんまん」なのです。ちょっと思い違いをしているけれど微笑ましい。
気になった言葉がありました。「コッコロ」です。
不器用だけど一生懸命さを感じて「心」と書くよりも温かさが伝わってきますね。可愛らしい表現で、主人公の女の子に似合う。
佐野洋子さんの小説で『コッコロから』というのがあるようです。読んでみたくなりました。
生きることの喜び

主人公から、強い「生」への執着が感じられました。
花屋の叔母さんの元でたくさんの植物の名前を覚えたり、長距離ドライバーの叔父と一緒に、たくさんの土地を旅したり・・・。
ワクワクする気持ちが伝わってきて楽しくなりました。江國さんが抱く「好き」がたくさん書かれています。
この世界にはたくさんの素敵なモノがあるんだと気づきます。風景だったり匂いだったり・・・。案外、身近にあるものなんですよね。
夫を愛していた女の子
女の子は絶対好きにならない人と結婚をするんです。彼はいわゆるダメ男でした。怠惰で卑屈で小心でいばり屋。おまけに無職です。
人を好きにならないモットーがある彼女には最高の人なんでしょうけど・・・。夫が亡くなってからあることに気づくのです。
彼女は夫を愛していた。
そっかぁ・・・、と切なくなりました。
その後は毎日、夫のお墓にお花を供えにいく彼女。あの絵本の猫のように、もう100万回生きることはできなくなってしまったけど、後悔なんて微塵も感じられません。
読後は穏やかな気分になりました。きっとこれからも彼女のコッコロは夫を想いながら一緒に生きていくんだろうな。




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