- 辻村深月さんの小説『青空と逃げる』あらすじと感想
- 家族の成長と再生
- 早苗と力の逃避行
- 逃げることも必要
- 失われた昨日と新たに作る明日
少しだけネタバレあります。
もう少しだけ、2人で逃げよう。
辻村深月さんの小説『青空と逃げる』感想です。母と子どもの逃避行物語でした。人の温かさにふれて泣けてきました。
『青空と逃げる』あらすじ
家族の成長と再生の物語。
1本の電話が2人の日常を変えてしまった。母と息子は、現実から逃げ続ける。壊れた家族が新たに歩み始める、再生の物語。
『青空と逃げる』感想
辻村深月さんの小説って、ラストの展開がものすごく良いですね。・・・もちろんダークな作品もありますが、最近 読んだものは特にそうです。
『かがみの孤城』『ツナグ』『スロウハイツの神様』そして本作『青空と逃げる』。
はじめの方はあまりハマれませんでした。でも最後を読むと 「あー、良い本を読んだ」 となるんです。
家族の成長と再生の物語

家族って良いなと思いました。
テーマは 家族の成長と再生です。
本条家を襲った悲劇。ある事件により劇団に所属する父・拳が失踪。母・早苗と、息子・力 (ちから) が逃げ続ける物語でした。そんな中で 早苗と力が成長していく。
母と子、極限の中でお互いを守り合う姿は心が揺さぶられます。
母親が子どもを護る姿は容易に想像できるのですが、早苗もまた 力がいるからここまで強くなれたんだなと。家族の絆ってすごいです。
最後には、失踪した父親の拳も また2人を守っていたんだと感じました。離れていても繋がっていたんですね。
逃げる!!
早苗と力は逃げ続けます。拳との不倫が疑われ自殺した女優が所属するエルシープロの人たちから。東京から北海道までの逃避行でした。
東京 → 四万十 → 家島 → 別府 → 仙台 → 北海道の大空町。
なぜ逃げ続けるのかの理由がはっきりしませんでした。だから違和感がありました。
でも中盤くらいに、逃げ続ける理由と拳が失踪した理由が想像できる箇所があって、やっと腑に落ちました。その理由のひとつに早苗が発見したものがあります。
力の部屋のクローゼットの中にあった血のついた包丁。
彼女は これは何なのかと息子に聞けないんです。とっさに 夫か息子を疑ってしまう。
力か、拳か。どちらかが罪に問われる前に、逃げよう。
エルシープロの人たちから逃げてもいるけど、早苗はこの現実からも逃げていたんですね。やっとしっくりきました。
逃げることも必要

時として、逃げることも必要です。
「逃げる」 と聞くとあまり良いイメージはないかもしれませんが、 「時間が必要」 ということです。
混乱している時は特に。焦ってもあまり良い結果に結びつかないことがあります。
とりあえず逃げて、気持ちが落ち着いたら向き合えばいい。
最後に早苗は力と向き合います。必死で逃げてきたけど、そこで過ごした 「時間」 は 彼女にとって必要なものだったと感じました。
逃げている間も時は流れていて、早苗も力も成長してるんですよね。最初は頼りないなと思いつつも、最後にはドシっと強い思いがあふれていました。
失われた昨日と、新たに作る明日
心に響いたのは 仙台での写真館のお話。
仙台の『樫崎写真館』。早苗たち親子は少しの間 お世話になります。ある家族が写真を撮りに訪れました。震災で父親を亡くした2人の娘と母親です。
彼女たちと、写真を撮るときに並べたもう1つの無人の椅子・・・。そこにいるのは亡き父親でした。無人の椅子の上に置かれたひび割れた眼鏡。
「お父さん、ヒロミが成人式だって。信じられないねえ」
涙があふれました。優しく亡き夫に語りかける妻が そうできるまでの間には様々な想いがあったはずです。それをこの一言から想像できてしまう。
様々な想いを抱えながら、それでも “あした” を向く覚悟をした人たち。忘れられない過去と一緒に明日を生きていく。そこにはたくさんの想いが交差しています。
『青空と逃げる』は 人の優しさを実感できる小説
ラストに伏線が回収されます。辻村さんの小説は 安心して読むことができる。
- 血のついた包丁の謎。
- 拳はなぜ失踪したのか。
気になったのは この2つです。・・・壮大なネタバレになるので書きません。
『青空と逃げる』は 人の優しさを実感できる小説です。逃避行の中で、早苗と力はたくさんの優しさにふれます。周りの人がみんな優しい。心がホワホワしました。
助けてもらうことは、恥ではありません。ひとりではどうしようも出来ないことがあります。そんなときは 「助けて!」 と言う勇気も必要。
周りの人の優しさにふれると心が満たされる。・・・私も誰かに優しさのお返しがしたいなと思うくらいの愛を感じました。


