『夜のピクニック』あらすじ・ネタバレ読書感想文|一夜限りの「歩行祭」恩田陸
- 『夜のピクニック』あらすじと感想文
- 「歩行祭」 が特別な理由
- 貴子の賭け
- 成長した融
- 小さな謎と魅力的なキャラ
ネタバレあります。ご注意ください。
みんなで夜歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう
恩田陸さんの小説『夜のピクニック』読書感想文です。以前に1度読んでいたのですが、また読みたくなりました。
『夜のピクニック』は、「歩行祭」を通して描かれる青春小説です。
歩くイベント「歩行祭」は、さまざまな感情があふれていて面白いですね。ただ歩くだけなのに心が揺さぶられる・・・。恩田さんの心理描写はすごいです。
一緒に歩きたくなったよ。
『夜のピクニック』あらすじ
永遠の青春ストーリー
高校生活最後のイベント「歩行祭」。全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて歩行祭にのぞむ。3年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために―。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。
『夜のピクニック』ネタバレ感想文|一緒に歩いている気持ちになれる!
『夜のピクニック』は、ひとことで言うなら青春小説です。
思春期の高校生たちが「歩行祭」を通して今まで言えなかったことをぶつけて成長していく。
歩くだけの小説と侮るなかれ。そこには深く切実な思いが描かれています。
ボクも彼らと一緒に歩いてる気持ちになれたよ。
恩田さんの小説は彼女独特のアクが強いもの (誉め言葉) が好きなのです。でも『夜のピクニック』はそんなにアクを感じませんでした。
ちなみに私が言うアクとは、一癖も二癖もあるキャラと心理描写が描かれたもの。『木曜組曲』『三月は深き紅の淵を』『MAZE』『消滅』など。独特のキャラが好きなんですよね。
「歩行祭」 が特別な理由|信頼できる友だち
『夜のピクニック』で描かれている高校の伝統行事 「歩行祭」。ただ歩くだけなのに、そこにはドラマがあって青春を感じました。
「歩行祭」 は、全校生徒が夜を徹して80キロを歩き通す大イベント。
最初はクラスごとの団体で、後半は仲の良い友だちと夜をまたいで歩き通します。
みんなで、夜歩く。ただそれだけのことがどうしてこんなに特別なんだろう
本当にこの言葉通りで、ただ みんなで歩くだけの地味なイベント。でもこれが面白いんです。
みんなが 「歩行祭」 を特別なものに感じているのが充分に伝わってくる。普段言えないことも言えたり、明日を生きるきっかけになっていました。
ただ歩くだけなのにね。何だろ、この特別感は。
「歩行祭」 が特別に感じられるのは、隣に信頼できる友だちがいるからです。そして一夜限りの行事だから。
ときどき走ったり、足を挫いて休んだり、また歩き出したり。嫌になるくらい長い道のりです。
「歩行祭」 は人が歩む人生の道のりそのもの。苦しいこともあるけど、ほんの些細なことで幸せを感じたりもする。
その道のりを、たとえ一時でも一緒に歩んでくれる人がいたら嬉しくて特別な気持ちになりますよね。
貴子の賭け
甲田貴子と西脇融の視点で進む『夜のピクニック』。彼らは異母きょうだいでクラスメイトです。
でも2人の心は複雑・・・。
お互いを意識しながら言葉を交わすことなく過ごした高校生活3年間。最後にクラスメイトになりました。
あたしは、彼と普通に話ができるようになりたい。あんな目で見られずに、笑い合えたらそれで充分だ
異母きょうだいとは言え、何も言葉を交わさないのは悲しい。
貴子の真摯な思いに胸が痛みました。このまま卒業してしまえば、もう会うことすらもないかもしれない。
だから彼女は小さな賭けをしたのです。もし賭けに勝ったら、彼と面と向かって自分たちのことを話合おうと。
彼女の賭けは、融に話しかけて返事をしてもらうこと。
簡単なようにみえるけど、貴子にとってはとても難しいことなんだろうね。
日常だったらムリだったかもしれません。でも今は彼女たちにとって特別なイベントの最中です。
「歩行祭」 マジックではないけど、それは普段言えないことを言う勇気を与えてくれるもの。
読み終わってみると、未来へと繋がるきっかけが生まれる 「歩行祭」 がとても尊いものに感じました。
「歩行祭」 を経て成長した融
貴子と言葉を交わすことで、融の気持ちにも変化が訪れます。
脇目もふらず、誰よりも速く走って大人になるつもりだった自分が、一番のガキだったことを思い知らされたのだ
彼の中では様々な思いが駆けめぐっていたんだね。
貴子への苛立ち、自分自身への苛立ち・・・。彼女と異母きょうだいだということを誰にも話せずに苦しんでいました。
彼女を無視しているはずが、1番気にしていた。それは貴子も同じ。
「歩行祭」 が始まったときと終わりに近づいたときでは、融の気持ちが180℃変わったのが印象的です。
青春だねー。
人の (本の登場人物だけど) 青春を見ると、私ももっと青春しとけば良かったかなと思ってしまう・・・。
過ぎ去りし日々を思いなおしました。
小さな謎と魅力的なキャラ
恩田さんの小説って小さな謎がところどころに散りばめられています。それも気になるから読むのが止められなくなる。
特に気になったのは・・・、
- 貴子に宛てた杏奈のおまじない
- 去年紛れ込んでいた見知らぬ少年
友だちを大切に思う杏奈と姉が好きな弟。心が温まってホロっときます。友情や恋愛、そして貴子と融の気持ちに寄り添いながら喜怒哀楽を感じました。
貴子と融は友だちに恵まれてる。
2人のキャラ以外にも『夜のピクニック』には魅力的なキャラがたくさんいます。
貴子の親友の美和子 (みわりん)、融の親友の忍。夜になると元気になる光一郎。
大人になって社会に出ると、なかなか親友って作れない。学生のときの仲間って良いですね。
高校生のときは見える世界も小さくて。みんなそれぞれ悩みを抱えていました。
大人になると、あの頃抱えていた悩みはちっぽけに思えたりする。
でもあの頃はあの頃で精一杯悩みながらも一生懸命。『夜のピクニック』は、そういう学生時代の頃を思い起こさせてくれました。
『夜のピクニック』は 「歩行祭」 を通して描かれる青春ストーリー
『夜のピクニック』は青春ストーリー。「歩行祭」 のしんどくて辛い気持ちと、やり切った感が味わえる小説です。
貴子と融の心理描写が詳細に描かれているから切なくなるけど、読後はスッキリと爽快な気分になりました。
登場人物たちと一緒に、「歩いている」 気持ちになるのが心地よかったです。
学生が読むのと大人が読むのとでは感じ方が違うかもね。