- 小川洋子さんの小説『最果てアーケード』あらすじと感想
- 『最果てアーケード』本の目次
- 「衣装係さん」と「雑用係さん」に感じる静謐な寂しさ
- 「百科事典少女」(ネタバレあり)
- 愛情いっぱいの「モノ」と思い出
- 父親との思い出
少しだけネタバレあります
思い出を求めて・・・。
小川洋子さん『最果てアーケード』感想です。寂しくて、優しい・・・。小川洋子さんの本を読むと「モノ」と向き合いたくなります。そう言えば、前に読んだ絵本『ボタンちゃん』でもそんな気持ちになったっけ。
『最果てアーケード』あらすじ
記憶のかけらが集まった、小さなアーケード。
本の評価
おすすめ
かんどう
いがいさ
サクサク
【あらすじ】
様々なひとたちが思い出を探しにくる小さなアーケード。ちょっぴり切なくも美しい物語。
- 衣装係さん
- 百科事典少女
- 兎夫人
- 輪っか屋
- 紙店シスター
- ノブさん
- 勲章店の未亡人
- 遺髪レース
- 人さらいの時計
- フォークダンス発表会
『最果てアーケード』感想
小川さんの物語は 独特の世界観がありますね。それがたまらなく好きなファンも多いんじゃないかな。
『最果てアーケード』は 1人の女の子が愛犬べべと共に亡くなった父親の面影を追いながら成長していく物語です。
短編集のようになっていますが、全て少女の視点で書かれていました。
「衣装係さん」と「雑用係さん」に感じる静謐な寂しさ

それも静かな静謐なものです。心がほわりと温かくなる一方で残酷なところもある。そんな世界観が魅力の作家さんです。
本書を読んで心に刺さった言葉がありました。2人の人物の言葉なんですが、とても切なさを感じます。
1人目は「衣装係さん」
かつて映画の衣装を作っていた彼女は、たびたびアーケードのレース屋さんに来ます。自宅で独りせっせと衣装を作るのですが・・・。
誰も着ない衣装を作り続ける「衣装係さん」
・・・なぜ?
心がチクリとしました。彼女はレースにある思い入れがあったんですよね。それを読むと一心にレースを買い漁り、誰も着ることのない衣装を作り続ける気持ちが理解できたような気がしました。
2人目は「雑用係さん」です。
自分で自分に絵葉書を送る「雑用係さん」
切なさが込み上げてきて、そのまま読めずに思わず天井を見上げて小休止しました。
百科事典少女

1番好きなのは「百科事典少女」です。
女の子の友達のRちゃんが登場します。アーケードにある図書室で本を読む2人。Rちゃんの愛読書は 10巻までの百科事典でした。
・・・え!? と思うかもしれません。愛読書というのは珍しい。でもこの章を読むと百科事典をペラペラめくりたくなってしまうんです。
この世界では、し、ではじまる物事が一番多いの。し、が世界の多くの部分を背負ってるの。この釣り針みたいな頼りない一文字が、実はひそかに一生懸命がんばってくれているんだよ。
ここで描かれている百科事典は10巻までのものです。5巻目は、まるまる「し」で始まる言葉でした。
でも世界は「し」だけじゃなくて、その他の文字もあわせて成り立っています。百科事典には この世界の全てが入っているんです!思わず事典をめくりたくなってしまいました。
少しネタバレ
実はこのRちゃんは重い病気で死んでしまうんです。そしてその後、ある紳士がアーケードを訪れます。Rちゃんのお父さんです。
彼は娘が読んでいた百科事典を丁寧に書き写していく。何日もかけて黙々と。辞書を通して娘の思い出を辿っていくんです。胸が熱くなりました。
愛情いっぱいの「モノ」と思い出
小川洋子さんの本を読むのは2冊目です。以前に絵本『ボタンちゃん』を読みました。2冊を読んで感じたことがあります。
小川さんの「モノ」に対しての愛情です。
『最果てアーケード』は 何かしら大切な人を失った人々が出てきます。衣装係さんや、Rちゃんの父親、兎夫人・・・。彼らはみんな小さなアーケードに思い出の品を探しに来るんです。
こじんまりして昔ながらのアーケード。そこは人々が悲しみの果てにようやくたどり着いた場所なのかもしれません。
使用済みの絵葉書、義眼、徽章、発条、玩具の楽器、人形専用の帽子、ドアノブ、化石・・・。
アーケードの店主たちは それらを大切に扱っています。小川さんは「モノ」と「ヒト」との思い出を愛情いっぱいに描いているんですね。・・・切ないけど温かい。
使い古しのレースでも使用済みの絵葉書でも 思い出が詰まっていて。それらと向き合う時間はとても静謐。他人が土足で入ってはいけないような静かな時を感じました。
父親の面影を求めて
アーケードを通して 女の子は様々な人の喪失感や悲しみを見ていきます。時系列がバラバラなんです。
父親が生きていた頃と火事で亡くなってしまってからのこと。お客さんを尾行して、その背中に父親の面影を見ていたり・・・。
この物語は 1冊を通して父親との思い出が描かれているんです。
温かい、寂しい、温かい、寂しい、温かい・・・。そんな感情が交互にわきあがってきます。心が静かに澄み渡っていく物語でした。
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