- 町田康さんの短編『百万円もらった男』あらすじと感想
- 才能の値段
- 百万円の使い道
- 宝のもちぐされ
- 努力と信念
- その後の主人公と猫
少しだけネタバレあります。
「100万分の1回のねこ」6話目は、町田康さんの短編『百万円もらった男』のレビューです。狐につままれたような不思議なお話でした。
『百万円もらった男』あらすじ
100万円で才能を売った男の話

ギター弾きの男は評判が良かったのですが、劇場のマネージャーに嫌われていたため、あまり仕事を貰えませんでした。ある時、電話で仕事の依頼がありました。彼は待ち合わせの喫茶店に行くと、「あなたの才能を買いたい」と1人の男に言われるのですが・・・。
『百万円もらった男』感想
佐野さんの絵本『100万回生きたねこ』のトリビュート作品集なのに 猫が出てこないじゃないか。
町田さんの小説は初めて読むのですが、クスっと笑ってしまうようなユーモアを持ち合わせた作家さんです。
よくわからない曖昧なところがまた良いんですよね。想像力が掻きたてられて、読めば読むほど深みにハマりそうです。
才能の値段

もしも才能があったら
それに値段をつけるとしたら、いくらになるでしょうか? いくらだったら、それを手放せますか?
才能を売るだなんてとんでもない!! ・・・そんな声が聞こえてきそうです。
主人公のギター弾きの男は、ぐうたらとした生活を送っていました。ある勘違いから才能を100万円で売ってしまうんです。
彼はまさか本当に才能を売ってしまうことになるなんて気づきもしない・・・。かなり能天気な主人公ですが、町田さんが描く彼はどうも憎めません。
主人公の人生は狂い始めます。
百万円の使い道
唯一の才能を売ってしまった彼。ちょっと胸に引っかかりを抱えながらも楽しく読めました。
もし百万円もらったら・・・と、考えながら読んでいたからかもしれません。
町田さんはお金が減っていく様子を細かく書いていました。減っていくのは切なくなってきます。
宝のもちぐされ

本書を読んで感じたことは、才能って持っているだけではダメなんだということです。
主人公の男から才能を買った八甲田は、ミュージシャンとして成功します。音楽は大ヒットし、ダンサーとの結婚話も・・・。
本当は彼が歩むべきだったはずの成功の人生です。
以前と同じような感じであったのなら・・・。宝のもちぐされ、です。八甲田が成功した裏には「努力」があったはずです。
成功のカギは努力と信念
ぼったくりバーで出会った男の言葉が素敵でした。
どんなよい畑でも耕し、種を蒔き、水を撒かなければなにも稔らんよ。
「才能」を「畑」に例えています。畑を耕し、種を蒔き、水をやる。主人公は それを怠っていたから芽が出なかったんですね。しかも100万円で才能を売ってしまった・・・。もったいないことをしたものです。
才能は あれば嬉しいけど、努力しないと宝の持ち腐れになってしまうもの。成功している人は努力を怠らない人。
トリビュート作品集の枠をこえて自由気ままな作品なのに意外と深い町田さんの短編。
その後の主人公と猫
その後、彼は姿を消してしまいます。
「荒地に行って種を蒔いてきます」と言い残して。才能という良い畑を売ってしまったあとに残るのは作物の育たぬ荒れた地。
それでも種を蒔くという決心をして頑張ろうとしているんだなと思ったのですが・・・。
実は3回くらいこの小説を読んだのですが、よくわからない。その曖昧さが良いのかな。
最後にどこからかピアノの音と混ざって呻き声が聞こえてくるんです。呻き声 (?) には、動物が威嚇するときに出す声との意味もあるようですね。
これって、ひょっとして猫?




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絵本『100万回生きたねこ』に捧げるトリビュート作品集 「100万分の1回のねこ」。
