『瞳の中の大河』ネタバレ感想文・あらすじ|壮大な歴史大河ファンタジー|沢村凜
- 『瞳の中の大河』あらすじと感想文
- 完璧じゃない英雄
- アマヨクの正義
- アマヨクの信念の元
- カーミラとのラブロマンス
- シュナンとの旅路
ネタバレあります。ご注意ください。
おまえは、私を殺しに来たのだったな
沢村凜さんの小説『瞳の中の大河』読書感想です。壮大な大河ファンタジー。面白くて、中盤あたりから一気に読みました。
内戦を背景に、ひとりの男の生涯を綴った物語です。
アマヨク・テミズが良い男なんですよね。はじめはあまり好きじゃなかったのだけど、愛着の持てるキャラに成長していきました。
後半は泣きながら読んだよ。
沢村さんの本は『黄金の王 白銀の王』と『リフレイン』に続き3冊目です。この2作品に劣らず、『瞳の中の大河』も重厚なストーリーでした。
『瞳の中の大河』あらすじ
歴史大河ファンタジー
悠久なる大河のほとり、野賊との内戦が続く国。理想に燃える若き軍人が伝説の野賊と出会った時、波乱に満ちた運命が幕を開ける。「平和をもたらす」。その正義を貫くためなら誓いを偽り、愛する人も傷つける男は、国を変えられるのか?
『瞳の中の大河』ネタバレ感想文|英雄アマヨクの魅力と正義
『瞳の中の大河』は、国軍と野賊の内戦を描いた物語です。
過激な描写があって心が痛んだりもしたけど、全体的には面白くて壮大な物語でした。リアル感を感じるんですよね。・・・こんな歴史がほんとうにあったのではないかと。
中盤からは一気読みだったよ。
なかでも際立っていたのがアマヨク・テミズ、ひとりの軍人です。
完璧じゃないから良い!?英雄アマヨク・テミズ
『瞳の中の大河』は、英雄アマヨク・テミズの生涯が描かれた物語といっても過言ではありません。
アマヨクは国内の内戦を終わらせるために戦う軍人です。たくさん経験を積んでからは、まさに英雄でした。
ここで描かれているキャラは完璧な人がひとりもいないんですよね。軍人になりたてのアマヨクは世間知らずで、子どもっぽさが残る青年という感じだし・・・。
人間味があって、架空のキャラなのに実在しているような感覚になったよ。
最後まで読むとアマヨクが素敵な人物に思えました。最初から最後まで彼の正義(信念)は揺らがないんです。
そういう人って、かっこいいですよね。
アマヨクの正義|すべては祖国、内戦を終わらせるために
アマヨクの成長を読んでいて、一番気になったのは、彼がつらぬく正義(信念)でした。
彼の行動はすべて、祖国のために内戦を終わらせることだったのです。
最初は彼が何に信念を抱いているのかわからなかったのですよね。「国軍は正義の存在」としていたけど、その国軍もダークな(正義らしからぬ)部分が多々あるし・・・。
最初のころのアマヨクをみていると、国軍の実態がわかってないんじゃないかと思った。
でも、アマヨクの正義が「内戦を終わらせるため」だと理解してからは腑に落ちました。国軍ではそれができないとなったときに、あっさり野賊になる彼が素敵なんです。
「私はこれまで祖国のために戦ってきた。これからもそうだ。祖国のために、この内戦を終わらせることが私の目的だ。国軍の側からそれができないのなら、おまえたちとともに成し遂げるまでだ」
国軍の側からできないのなら、野賊の側から・・・。国軍で大佐にまで登りつめた英雄が一転、転落した人生を歩むことになります。
それでも平和を願って、内戦を終わらせようとする姿は眩しいものがありました。
アマヨクの信念の元|父子、愛情のすれ違い
野賊になってまで信念を貫いたアマヨクだけど、彼のそれはどこからきたのか。
アマヨクのかつての部下・セノンの言葉が私の心にすとんと落ちました。
あの人はただ、〝伯父さんのいい子〟になりたかっただけじゃなかったのかな
アマヨクの伯父さんとはファダティザフ南域将軍です。アマヨクと父ウザク・テミズの気持ちはすれ違ってばかり。愛情はあるのに、伝え方がうまくないんですよね。
自分を気にかけてくれた伯父に認められたいという一心だったのかな。
アマヨクの信念の元は、民衆の平和のためというより、自分自身のためという方がしっくりきました。
『瞳の中の大河』に出てくる登場人物はみんな、どこか哀愁を感じるんです。愛情がすれ違っていたり、壮絶な人生を歩んでいたり・・・。
ちょっぴり胸が痛む。
カーミラとシュナン|ほっこりしたシーン
『瞳の中の大河』で、アマヨクの他に好きなキャラは2人いました。カーミラとシュナンです。
- カーミラ・・・野賊。オーマの仲間
- シュナン・・・カーミラの子ども
このふたりの人生もまた壮絶なんだけど。絶望のどん底に落とされても這い上がる強さを感じました。
アマヨクとの関係には、ほっこりもしたよ。
カーミラとのラブロマンス
『瞳の中の大河』で、アマヨクと同じくらい重要人物のカーミラ。オーマの仲間である彼女は野賊です。軍人のアマヨクとは敵対する関係でした。
「おまえは、私を殺しに来たのだったな」
ふたりの間では、こんなやり取りがチラホラと。アマヨクはカーミラを二度も撃ち、カーミラはアマヨクを救うけど、次は命を奪おうとしたり・・・。
でも、ふたりは強くひかれあうんだ。
絶望の中にも光というか、温かいものがあって。このふたりの関係が物語に深みを増していました。
シュナンとの旅路
屛風山に向かうアマヨクとシュナンの旅路シーンが好きです。一番ほっこりしました。
「大佐がいそがないのなら、ぼくは何か月この旅をつづけたっていいよ」
カーミラの息子シュナンもまた壮絶な人生を歩んだ子なんですよね。
一時期、アマヨクに保護されて親子のように接していたけど・・・。アマヨクを殺そうとし、そして助けるんです。
アマヨクと父親はすれ違ったまま終わってしまって悲しかったから、そうならずホッとしました。
気持ちがすれ違ったままにならなくて良かった。
『瞳の中の大河』は、何かが欠落している英雄の物語
『瞳の中の大河』は壮大な歴史ファンタジーでした。さまざまな登場人物が繋がっていくのはワクワクします。
そして、アマヨク・テミズです。
何かが欠落している、完璧じゃない英雄が良かった。
完璧じゃないからこそ魅力を感じたよ。
ただ、本の表紙は、ちょっぴり損しているような気もしました。このイラストじゃなければ、もっと手に取る方が増えるんじゃないかな。