「神家没落」あらすじ・感想文|美しく儚いラスト『秋の牢獄』恒川光太郎

- 「神家没落」あらすじと感想文
- ハウルの動く城を連想したこと
- 失ってから気づく幸せについて
- 美しくて儚いラスト
少しだけネタバレあります。
どこか懐かしいホラー・ファンタジー
恒川光太郎さんの小説「神家没落」感想です。短編集『秋の牢獄』に収められている1話。面白かったです。

「風の古道」を連想したよ。
『神家没落』あらすじ|『秋の牢獄』より
美しく儚いラスト!
春の夜、男はほろ酔い気分で歩いていると一件の民家に出くわした。そこにはこの家を守っているという翁のお面をつけた老人がいた。家守の役目から開放された老人は消え、代わりに男が家守を引き継ぐことに・・・。
『神家没落』ネタバレ感想文|『秋の牢獄』より
恒川さんが描く不思議が好きです。ホラー感ありのファンタジーのような空気感が良い。
初めは怖いけど、だんだん異世界の居心地が良くなってくるから不思議です。ずっと居着いてしまいたいほどに・・・。どこか懐かしい感じがするんですよね。

今回も魅力にあふれていたよ。
テーマは牢獄

「秋の牢獄」に続き「神家没落」もテーマは牢獄。
牢獄の役割を果たしているのは「家」でした。主人公の男は家守として、家に閉じ込められてしまうのです。
家守は家から離れられない。だが、家守の役割を交代する人が訪れれば解放される

誰かが訪ねてきて役割を交代するまで家から一歩も出られないなんて・・・。
ふいに訪れた家にいた老人(センジさん)から、とんでもなく理不尽な役目を押し付けられたわけです。不運というかなんというか・・・。
しかもその家は移動します。
移動する「神家」
神がかりすぎていて神秘的なものを感じました。
ここは特殊な家なのです。数百年も前から秘密裏に、私の村で代々守ってきた神域と心得てください
神域に建つ家。それは何日かおきに移動します。宮崎駿さんのアニメ映画『ハウルの動く城』みたいですね。ドアを開けたら別世界に通じている場面。

旅する城に憧れる。
恒川さんの小説は宮崎アニメと雰囲気が似ています。「夜市」と「風の古道」を読んだときも感じました。
小説を読むということも同じ感覚ですね。本をひらくとそこは別の世界。物語の世界にひたるのが楽しくて読むのをやめられません。
カフェ・ワラブキ

主人公の男は家守の役割を交代する人が訪れるのを待つのだけど、なかなか現れません。そこで考えたのはカフェをオープンすることです。
カフェ・ワラブキ。
神家の庭にある井戸水とマンゴーのような果実。それがまた美味しそうで、しかも若返りの効果もある!?

神域だね。
カフェを開いてお客と話す姿が和気あいあいとしていて、私も行きたくなりました。ほっこりします。
ふいに訪れたお客・韮崎進に家守の役目を押し付けた主人公の男。やっと解放されて日常の生活に戻れるのだけど・・・。
失ってから気づくこと
失ってから大切だったと気づくことがあります。
でも気づいた時にはもう遅かったりして、何ともいえない思いを引きずることになる。男にとってそれは、あの神家でした。
- 美味しい井戸水とマンゴー芋
- カフェに来るお客とのひととき
- ゆったりと流れる非日常的な時間
その時には、それらがかけがえのないものだと気づかなかった。でも譲り渡してはじめて失ったものの大きさに気づくんです。
幸せの中にいるときは、なかなか気づけないこと。幸せは永遠ではないこと。
リアル感があって物悲しくなりました。世の中って上手くいかないものですね。

今の幸せな日常を大切にしよう。
『神家没落』美しく儚いラスト
ラストはタイトル「神家没落」通りの結末でした。家守を押し付けられた韮崎はとんでもない男だったんです。「風の古道」を思わせる展開。
神家は没落します。そのことが、そこはかとなく淋しい。

美しいものこそ儚い・・・。
恒川光太郎さんが描く物語は美しく、最後は哀しみに包まれる。世界観がたまらなく好きです。


