『黄金の王 白銀の王』ネタバレ感想文・あらすじ|骨太ファンタジー小説|沢村凜
- 『黄金の王 白銀の王』あらすじと感想文
- 統べる王と囚われの王、共闘の道
- 薫衣(このえ)の戦略
- 穭(ひづち)の葛藤
- 迪学(じゃくがく)のおしえ
- 憎い相手が一番分かり合える相手
ネタバレあります。ご注意ください。
そなたは私が、何を、なぜ、なしてきたか、知っている
沢村凜さんの小説『黄金の王 白銀の王』読書感想です。今までファンタジー小説をあまり読んでこなかったけど、実はかなり好きなジャンルなのでは?と今更ながらに気づきました。
そういえば、ハマった小説ってファンタジーが多いかも。
ちなみに私がめちゃめちゃハマったのは『図書館の魔女』、『アルスラーン戦記』、そして『黄金の王 白銀の王』です。
ファンタジー小説って良いですね。
『黄金の王 白銀の王』あらすじ
骨太ファンタジー小説
翠(すい)の国は百数十年、鳳穐(ほうしゅう)と旺厦(おうか)という2つの氏族が覇権を争い、現在は鳳穐の頭領・穭(ひづち)が治めていた。ある日、穭は幽閉してきた旺厦の頭領・薫衣(このえ)と対面する。生まれた時から「敵を殺したい」という欲求を植えつけられた2人の王。彼らが選んだのは最も困難な道、「共闘」だった。
難しい漢字が多いけど、Kindle版はルビが振ってあるよ。
漢字が出てくるたびにルビ付でした。戻って読み仮名を確認しなくても良いから嬉しい。おすすめはKindle版です。
『黄金の王 白銀の王』ネタバレ感想文|魅力あふれる頭領、穭(ひづち)と薫衣(このえ)
初めて読んだ沢村凜さんの小説。壮大な物語ですが、一冊で完結していて気軽に読んでみようという気になりました。
読んで大正解!めちゃめちゃ面白かったです。骨太なファンタジー小説。
『黄金の王 白銀の王』は、翠の国で百数十年かけて争ってきた2つの氏族の頭領が「共闘」して国を作っていく物語
言葉でいうのは簡単だけど、百数十年もの間、顔を合わせれば闘う関係だったのです。「共闘」するのはとても困難だと想像ができますね。
2つの氏族とは、鳳穐(ほうしゅう)と旺廈(おうか)です。現在、鳳穐が翠(すい)の国をおさめていました。
登場人物に魅力あって良かったよ。
統べる王と囚われの王、共闘の道
共闘するのは、鳳穐の頭領・穭(ひづち)と旺廈の頭領・薫衣(このえ)です。
2人は仇同士で義兄弟。でも彼らの境遇は天と地ほどの差がありました。穭(ひづち)が翠国の王で、薫衣(このえ)は囚われの身だったからです。
穭(ひづち)が王さまで良かったと思うよ。
彼は翠国のことを第一に考えていました。・・・イヤ、やっぱり自分の氏族・鳳穐のことかな。翠国を外敵から守ることは、結果、鳳穐の民を守ることでもありますからね。
このままでは翠は滅ぶ。翠のためにも、鳳穐のためにも、旺廈のためにも、争いがこれ以上起こらないようにしなくてはならない
ちなみに穭(ひづち)が危惧している外敵は、海を挟んだ向こうの国々です。百数十年たたかってきた旺廈の氏族ではありません。
百数十年かけての闘いが終わりを迎え、新しい時代がくるかもとワクワクしました。でも話はそう簡単にはいかず・・・。
- 旺廈の頭領・薫衣(このえ)に、穭(ひづち)との共闘を承諾させる
- 顔を合わせば殺し合う2つの氏族(鳳穐と旺廈)に争いをやめさせる
実行する穭(ひづち)も、彼の話にのる薫衣(このえ)も尋常じゃなくすごい。
特に薫衣(このえ)は囚われの身。穭(ひづち)の妹と政略結婚をしたものの、周りは鳳穐しかいなくて切なくなりました。素敵なキャラだったからよけいに・・・。
彼らがやることは周りに理解してもらえない。そもそも翠国の未来図を周りの人々に話さないから、理解も何もないんですけどね。
旺厦の頭領・薫衣(このえ)の戦略
旺厦の頭領・薫衣(このえ)が好きです。
鳳穐に敗れ囚われの身となったけど、穭(ひづち)と一緒に翠国、ひいては旺厦の民を守るべく闘う。「なすべきことをなす」人物です。
海を挟んだ他国が翠国に攻めてきて、闘うシーンを夢中でよみました。
総大将を任された薫衣(このえ)。彼に仕える鳳穐の武将たちは、薫衣(このえ)を信用していないんです・・・。それでも闘いに勝ったのは彼の戦略ゆえでした。
「副将殿。私は、敵を陸に上げたくないのだ」
薫衣(このえ)が考えたのは、敵を陸にあげず海にいるあいだに退治する戦略です。敵の戦艦を浅瀬に誘導して座礁させる。
みごとだった。こういう闘いシーンって面白いよね。
最初はうさんくさく思っていた武将たちも一丸となって闘っていました。薫衣(このえ)は近隣の村の農民たちにまで闘いに参加させていたのです。
上に立つ素質があるというか、彼はやはり旺廈の頭領なんだなと。魅力的なキャラです。
鳳穐の頭領・穭(ひづち)の葛藤
同じ未来図に向かって進みながら、穭(ひづち)も薫衣(このえ)も、心の中では葛藤しているんですよね。
百数十年にわたり覇権をあらそってきた氏族たちです。翠国を守るためとはいえ、共闘の道はかなりの覚悟が必要。
「薫衣殿。私は何度も、そなたを見に行った。あの丘にいる、そなたを見に。そのたびに、この胸には相反する思いがわきたち、せめぎあった。〈殺せ〉〈殺したい〉〈殺すべきではない〉〈殺したくない〉」
穭(ひづち)の葛藤は、共闘の話を持ちかけたときからずっと続いていました。心は正直ですね。
自分の進む道は間違ってないか。薫衣(このえ)を斬るべきなのではないか。
結果的には穭(ひづち)の判断は間違っていませんでした。薫衣(このえ)と共闘することで外敵に備え、みごとに翠国を守ったのだから・・・。
薫衣(このえ)は旺厦が勝ち、未来も安泰と思える機会があれば、いつでも鳳穐と闘う覚悟を持ち合わせています。
2人の頭領の覚悟を感じたよ。
迪学(じゃくがく)のおしえ
『黄金の王 白銀の王』で目をひいたものに、「迪学(じゃくがく)のおしえ」というものがあります。
迪学は「迪(みちび)く者」の学問。
簡単にいうと、王の心構えをおしえる学問です。穭(ひづち)と薫衣(このえ)は、迪学のおしえ通りにすべてを決め、行動していました。
「なすべきことをなせ」
この「なすべきことをなせ」というのが、深くて難しいんだ。
「なすべきこと」というのは、すべてを統べること。すべてを守り、育むことです。そのために2人は共闘の道を進む。一切の私情を断って・・・。
上に立つ人の心構えを教わった気分になりました。
穭(ひづち)も薫衣(このえ)も、すさまじいまでの覚悟を持って「なすべきこと」をなしているんですよね。
すごい。なかなか、彼らのようにはできないや。
通じ合う心|憎い相手が一番分かり合える相手
共闘しながらも、薫衣(このえ)が不審な動きをしたら斬るつもりでいる穭(ひづち)。鳳穐を滅ぼせる機会がめぐってきたら覇権を奪う気でいる薫衣(このえ)。
薫衣(このえ)、損な役回りなんだ。悲しくなるくらいに。
そんな2人が心を通わせるシーンにほっこりしました。
そなたは私が、何を、なぜ、なしてきたか、知っている。一人いればじゅうぶんだ
皮肉なことに、殺したいくらい憎い相手が一番分かり合える相手でもあるんです。穭(ひづち)にとっても、薫衣(このえ)にとっても。
「なすべきこと」をなしてきた2人は、とても魅力あふれるキャラ。哀愁を感じながらもラストの一行が素晴らしかったです。ジーンとしました。