- 森見登美彦さんの小説『熱帯』あらすじと感想
- 小説を読む醍醐味
- 『熱帯』の世界
- 『千一夜物語』について
- 好きな文章と共感した言葉
少しだけネタバレあります。
幻の本をめぐる物語。
森見登美彦さんの小説『熱帯』感想です。ミニチュアアートで有名な田中達也さんの表紙が目をひきます。
装画を担当させていただいた、
森見登美彦さんの「熱帯」が本日発売です!https://t.co/6qqPrVjHET#熱帯の装画を撮ったカメラで熱帯を撮る pic.twitter.com/iWvWGP594O— 田中達也 Tatsuya Tanaka (@tanaka_tatsuya) November 16, 2018
小島の浜辺に座り込んで途方に暮れている男の人。隣にはダルマくん。森見さん『熱帯』の登場人物です。
もくじ
『熱帯』あらすじ
マボロシの本をめぐる大いなる追跡!
沈黙読書会で見かけた幻の本『熱帯』。誰も最後まで読んだことがないという、ふしぎな小説だった。謎を解き明かそうとする「学団」。森見登美彦さん、渾身の1冊!!
『熱帯』感想
1度読んだだけでは全部理解しきれない。後半は 何がなんだか? こんがらがってしまいました。
でもとても楽しく読めました。面白い!とひと言では語りきれない、ある種の魅力に満ちたお話です。
最後まで読んだ人がいない幻の本をめぐる物語。
恩田陸さんの『三月は深き紅の淵を』を連想します。こういうナゾに満ちた設定にひかれるんですよね。・・・それにしても沈黙読書会に参加したい。

小説を読むという醍醐味

『熱帯』を読んで 強く感じたことがあります。本を読むという醍醐味についてです。
本を読むことは 登場人物たちと一緒にその世界を生きること。
私もその世界を経験したかのような気持ちになりました。
森見さんは 物語と物語の境目を感じさせない描き方をする人ですね。すぅっと自然に気づいたら奥の奥へと入り込んでる。その心地良さがたまらなく良かったです。
たまに始めと終わり、もしくはあらすじだけ読んで本を読み切ったという人がいます。でもそれって本当の読書の楽しみを理解していないんじゃないかな。・・・小説なら特に。
『熱帯』は それを感じさせてくれる小説でした。
『熱帯』の世界
『熱帯』の世界がなぞに満ちていました。
前半は 佐山尚一が書いた『熱帯』をめぐるお話です。最後まで読んだ人はいないという不思議な本。
やがて若者は佐山尚一と出会う。・・・どうやら書いた本人が物語に登場するようです。
『熱帯』を途中まで読んだことある人たちが集い、本のサルベージをしていく。「満月の魔女」 に、「砂漠の宮殿」 。ファンタジーでホラーのような怖さがあります。
以前によんだ『夜行』に通じる世界観に懐かしさを感じました。

1冊の本をめぐり追われる者と追う者。気づくと読み手は知らずのうちに『熱帯』の世界に入っている・・・。
ほんとうに、ふしぎな感覚です。物語の中に物語があって深みにハマっていく。
中盤から『熱帯』の世界に突入して、「これだから小説を読むのをやめられないんだよね」 と思いました。
魔王がでてきたり、突然 島が現れたり・・・。その世界に浸るのが楽しかったです。
それぞれの『熱帯』と『千一夜物語』

『千一夜物語』がでてきます。
そこに収められたたくさんの物語は、シャハラザードがシャハリヤール王に語ったものとして語られているようです。
どれがホンモノというわけではなくて、どれもが独立したもの。本の数だけまた違った『千一夜物語』を楽しめる。
幻の本『熱帯』もそんな要素があります。森見登美彦さんの『熱帯』、佐山さんの『熱帯』、千夜さんや池内さんの・・・。
1冊の本がたくさんの表情をみせる。コンプリートしたくなりました。
広がるのは想像の世界
森見さんの想像力がすさまじい。作家さんという人は 想像力豊かですごいなと思います。想像することこそが小説の極み。作家さんも読者も。
『熱帯』を読んでいると、想像することが楽しくなりました。
文字を目で追いながら情景を想像する。表紙の田中達也さんのミニチュアアートも『熱帯』のふしぎな世界観にぴったりです。
この文章が好き!
何もないということは何でもあるということなのだ。魔術はそこから始まる。
「何もないということは何でもあるということ」 。自由な発想で何でも作れてしまう。白紙の何も書かれていない紙に自由に何でも描くことができるように。
何もないからと諦めるのではなくて、何でもできると思い込むのも大切。・・・そんなことを思えるこの文章が好きです。
共感した言葉、あらゆることすべてが伏線
私は 自分におきる出来事すべてに意味があると思っている人です。・・・だからというわけではないのですが、共感したことばがありました。
あらゆることが『熱帯』に関係している。この世界のすべてが伏線なんです
物ごとには必ず意味があって、それを突き詰めていくとヒントが散りばめられているものです。
1度読んだだけではこの小説を理解するのは難しい。すべてを理解しないままレビューを書いていますが たくさんの言葉が胸に響きました。
『熱帯』は 森見登美彦さんの思いがつまった小説
森見登美彦さんのインタビュー記事を目にしました。
『熱帯』は 7年以上前に連載されていた作品だったようですが途中で頓挫。それから7年の時を経て完成した物語ということです。
小説を書くのがイヤになった森見さん。彼にとって特別な思いがこもった作品なんですね。
『熱帯』には小説を書くのがイヤになった森見さん自身も登場するんです。
「自分にとって小説とは何か?」 を、とことん突き詰めて描いた作品。作者の思いが伝わってきました。
読者の目線で 「小説をよむ」 ということの楽しさを存分に味わえた1冊でした。


