- 森見登美彦さんの小説『夜行』あらすじと感想
- なぞの銅版画
- 何が起こっても不思議ではない「夜」
- 「夜行」と「曙光」
- 旅の終わりに僕が見たもの
少しだけネタバレあります
彼女が姿を消してから10年―。
森見登美彦さんの小説『夜行』感想です。森見さんの本、初めて読みました。表紙が可愛く恋愛ものなのかな?と勝手に思ってましたが、全然違いました・・・。
『夜行』あらすじ
連続する夜の世界。
鞍馬のお祭りの夜、長谷川さんが姿を消してから10年、僕たちは久しぶりに集まった。誰も彼女のことを忘れていなかった・・・。
- 第一夜「尾道」
- 第二夜「奥飛騨」
- 第三夜「津軽」
- 第四夜「天竜峡」
- 最終夜「鞍馬」
『夜行』感想
ずーっと不思議な感覚が抜けなくて、読み終わってからもその余韻に浸っていました。森見さんが描くもう一つの世界。それがすごいです。
ホラーと幻想的な世界観

『夜行』というタイトルから何を想像するでしょうか?
「夜行列車」
まず頭に思い浮かんだものです。・・・というか、それしか浮かばなかったのですが。あとは、「百鬼夜行」 とか。
ホラー感が満載じゃないですか。確かにこの本、怖いんです。でも不思議な世界観が印象に残りました。
森見さんが描く幻想的な世界観に魅了される人は多いのでしょうね。私もその1人です。
なぞの銅版画
登場人物は5人
鞍馬の火祭りの夜に 長谷川さんが姿を消してから10年。もう一度 鞍馬に集まった彼ら (中井さん、武田君、藤村さん、田辺さん、大橋さん) は、それぞれの旅の思い出を語ります。
旅の思い出には ある絵画が出てきました。全部で四八作あるという絵。
岸田道生、連作銅版画「夜行」です。
不思議な絵画。夜が永遠に続いています。この版画が、本書で起こる出来事に関係しているようなのですが・・・。
何が起こっても不思議ではない「夜」

キーワードは「夜」
長谷川さんが消えた火祭りの夜。5人が語る旅先での奇妙な出来事。まるで、どこかに存在している別の世界に紛れ込んだかのような感覚です。
何が起こっても不思議ではない感覚。たまに夜中にカーテンの隙間から外を見てみたりします。
街灯がほのかに路上をてらしていて、だれも歩いていない道路。雪が積もっていて真っ白な世界。
音も何もなく、世界が切り取られたかのような、私ひとり取り残されたような心もとなさを感じたり。車が通るとホッとします。
元いた世界から自分が消えているかもしれないけれど、違う世界でちゃんと生活していて。私にとっては今いる場所が本当の世界です。パラレルワールドみたいですね。
「夜行」と「曙光」
第四夜「天竜峡」で、前々から噂されていた岸田道生の作品「曙光」の話になります。
対をなす朝を描いた「曙光」。
絵画は見るだけでそこに描かれている物語が見えてきます。2つを描いた岸田道生の作品が気になりました。
深い夜の世界と ただ一度きりの朝。この本の世界観が描かれている版画です。
『夜行』旅の終わりに僕が見たもの
彼女はまだ、あの夜の中にいる
主人公は大橋さんということになるのかな。
彼が最終夜で見たものとは?
どんでん返しっぽい結末でした。この世界には私の知らない世界がたくさんあって・・・などと想像が膨らみます。
何が真実で何が真実じゃないのか。そんなことは関係がなくて、読む人の分だけ物語があるんだと思うラスト。
私がいる世界には夜があり、ちゃんと朝がやってくる。夜がミステリータッチで描かれていたからか、その事実があるだけでホッとしました。


