『月と蟹』あらすじ・ネタバレ感想文|純粋で残酷な子供たち|道尾秀介
- 『月と蟹』あらすじと感想文
- 危うい心のバランス
- 純粋で残酷な子供たち
純粋で残酷な子供たち。
道尾秀介さんの小説『月と蟹』感想です。仲が良かった子供たちの心の変化に戸惑いを覚えつつも、先が気になって後半は一気読みでした。
道尾さんが描く少年は純粋で残酷。
すごく好きといえる本ではないけど、途中ヒヤリと怖くなりました。
納得の直木賞受賞作品だった。
『月と蟹』あらすじ
直木賞受賞作品
主人公の慎一、友達の春也と鳴海は、ヤドカリを神様に見立てて願い事をする。その願いとは・・・。
『月と蟹』ネタバレ感想文
『月と蟹』で描かれている子供心は、不安定に揺れ動いて危うい感じがしました。
『向日葵の咲かない夏』も少年を主人公にしていて、その時も危うさを感じたんですよね。
道尾さんが描く子どもは、独特の怖さがあるな。
少年の危うい心のバランス
3人の少年・少女が描かれていました。主人公の慎一、友達の春也と鳴海です。彼らの遊びが微笑ましい。
ヤドカリを神様に見立て願い事をする。
小さな子ならではの遊びに懐かしさを感じます。ただヤドカリの儀式の様子は受け入れ難く、私には無理でした。
『月と蟹』は、慎一の心理描写が中心に描かれていました。
嫉妬や憎しみ、疑い・・・。物語が進むにつれてねじれていきます。そういう感情は人間であれば、みんな持っていますよね。
歳を重ねて様々な経験をしていけば、いろんな感情と折り合いをつけられるようになるのだけど。
ここで描かれているのはまだ小さな小学生。セーブできない感情がとめどなく溢れてきて、おかしな方向へいくのが怖かったです。
一歩間違えれば犯罪者になりうる危うさだった。
純粋で残酷な子供たち
小さな子に抱くイメージというと、純粋や無邪気という言葉が思い浮かびます。でも本当は悩みもあれば人を羨んだり憎んだりもする。
『月と蟹』の慎一は、純粋や無邪気では括れない感情が膨らんでいました。クラスメイトから孤立していたのです。
仲間はずれは、小学生には一番こたえることだね。
唯一仲の良い春也は、父親から虐待を受けて心に大きな傷を負っていました。ヤドカミ様に残酷な願い事をする慎一。
子どもの純粋さも描きつつ、徐々に残酷さが顔をだすのはヒヤリとします。
前半は慎一と春也が楽しそうにしているところもあったよ。
秘密の場所でポテトチップスを食べたり、甘いイチゴを食べて笑いあったり・・・。
アンバランスな心がリアル感ありました。今回は騙され感がないお話だったけど、これはこれとして面白かったです。