『ナイルパーチの女子会』あらすじ・ネタバレ感想文、結末|ストーカー栄利子の恐怖|柚木麻子
- 『ナイルパーチの女子会』あらすじと感想文
- タイトルについて
- ストーカー栄利子
- 逃げてばかりの翔子
- 誰でもナイルパーチになり得る恐怖
- 希望が持てたラスト
ネタバレあります。ご注意ください。
ただ、性欲や利害が介在しない状態で、他者とくつろいだ関係を築きたいだけなのに。
柚木麻子さんの小説『ナイルパーチの女子会』読書感想です。
なんと言うか、怖いですね。でもひとこと「怖い」だけで終わらせられないものがありました。恐怖の柚木ワールド。
もう一度読みたいとは思わないけど、なかなかすごい小説だったよ。
読んでいると胸がチクチクします。「怖さ」とともに「共感」できる何かもあるからかな・・・。
『ナイルパーチの女子会』あらすじ
恐怖の柚木ワールド
大手商社に勤める志村栄利子の密やかな楽しみは、同い年の人気主婦ブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を読むこと。その「おひょう」こと丸尾翔子は、スーパーの店長の夫と二人暮らし。近所に住んでいた栄利子と翔子はある日カフェで出会う。同性の友達がいないというコンプレックスもあって、二人は急速に親しくなってゆく。理想の友人関係が始まるように思えたが、翔子が数日間ブログの更新をしなかったことが原因で、二人の関係は思わぬ方向へ進んでゆく……。
タイトルの意味|「ナイルパーチ」が暗示する惨劇と悲劇
『ナイルパーチの女子会』は、全く違う環境の女性2人が出会ったことで生まれる悲劇を描いた物語です。
ナイルパーチは、スズキ目アカメ科アカメ属の淡水魚。アフリカのビクトリア湖に放流したところ、200種類以上もの魚を絶滅させてしまったという凶暴で肉食の魚です。
人間の手で湖に放たれなければ、ナイルパーチも一生、自分が凶暴だなんて気付かなかったのにね
ナイルパーチが悪いわけではなくて、そういう生体だからしょうがないんじゃない。
・・・と言いたいところだけど、ナイルパーチをそのまま本書の登場人物に当てはめると、しょうがないでは済ませられない展開をみせます。
ひとことで言うのなら、惨劇(誰も死にませんが)。違う世界で生きていた彼女たちは出会ってしまったんですよね。
2人は全く正反対に見えるけど、実は似た者同士何じゃないかとも思ったよ。
『ナイルパーチの女子会』ネタバレ感想文
主人公は2人の女性、大手商社に勤める志村栄利子と人気主婦ブロガーの丸尾翔子。彼女たちの視点で物語は進んでいきます。
環境も性格も正反対な彼女たちの唯一の共通点は、同性の友だちがいないこと。
彼女たちを見ていると、なぜ友だちができないのかわかるんだよね。
自分本位で相手の気持ちを想像しない・・・。思い込みが激しい栄利子がストーカーと化していく様子には背筋がヒヤリとしました。
こんな人、怖すぎる。
ゾッとしながらも胸がチクチクしてしまうのは、もしかしたら彼女の気持ちに共感してしまう自分がいるからかもしれません。
ストーカーと化した栄利子の恐怖
栄利子が怖すぎました。
翔子からの連絡がないからと、一方的にメールを送り続ける彼女は、居ても立っても居られず、翔子の家まで突き止めてしまいます。
栄利子がこの数日、ろくに眠れない夜を過ごしているのだから、翔子の心も同じくらいかき乱してやってもいいはずだ
なぜ、そう思う?・・・これは、もうストーカーだよね。
傍から見るとエスカレートしていく栄利子に恐怖を感じるけど、本人はそうは思っていないんです。
栄利子の願いはただ一つでした。
ただ、性欲や利害が介在しない状態で、他者とくつろいだ関係を築きたいだけなのだ
これは贅沢な悩みではなく、ごく普通のことですよね。一緒に映画を観たり、お茶を飲みながら悩みを打ち明けたり・・・。彼女にはそれが難しかったようですが。
他人を思いやる気持ちや、他人の立場に立って考える想像力に欠けている栄利子。
でも彼女の必死さも伝わってくるから、複雑な気分になったよ。
翔子からの返信を待っていて他のことがつにつかなくなるとか。そういうソワソワする気持ちは、私にも経験があります。
だからちょっぴり共感ができる。
・・・と言って、栄利子のように周りが見えなくなることはないけれど。
栄利子の行為はだんだんエスカレートしていきます。翔子の弱みを握って、脅迫に近い感じになるのにはヒヤリとしました。
逃げてばかりの翔子
栄利子に付きまとわれるようになってしまった翔子。不憫だと思いつつも、翔子が好きになれませんでした。
女に嫌われやすいって言ってたけど、当然だよね。都合が悪くなると、すぐ逃げて、話を聞こうともせずに全部、相手のせいにする
栄利子が翔子に言った言葉が辛辣。
でも的を得ているんですよね。面倒くさいことは放ったらかしで、いつも逃げてばかりの翔子。
後半は、栄利子に脅迫されるカタチで温泉旅行に行ったりしてたけど、なんでそんなに言いなりになるんだー・・・と、イライラしちゃいました。
翔子も栄利子みたいになったときは、びっくりした。
物語の後半、今まで栄利子に悩まされてきた翔子が、今度は自らがストーカーのようになってしまうんですよね。
ああ、おかしい。面白すぎる。なんとNORIは翔子をストーカーだと思っているのだ。これではまるで、まるで―。自分が志村栄利子になったみたいではないか
同じブログ仲間のNORIに対して、何度もメールを送る翔子は、栄利子そのもの。
心を開ける相手(友だち)がいない状態が続くと、我を忘れて周りのことを考えず、突っ走ってしまうものなんだろうか・・・と、怖くなりました。
誰でもナイルパーチになり得る恐怖
2人の主人公、栄利子と翔子を見て感じたのは、誰でもナイルパーチになり得るのではないかという恐怖です。
他の魚を絶滅させてしまうほどの凶暴で肉食の魚。
ナイルパーチ本人は呑気なものだけど、周りはたまったものじゃないよ。
全く正反対の2人が我を忘れて他人に縋ってしまうのは、怖さがありました。根本的には同じものを持ち合わせているかもしれませんね。
気持ちにゆとりがないときは自分のことでいっぱいいっぱいになりがちで、つい自分本位になってしまう。
「人の振り見て我が振り直せ」じゃないけど、気をつけよう。
2人の結末|希望が持てたラスト
気持ちがドロドロしていた『ナイルパーチの女子会』。意外にも希望が持てるラストでホッとしました。
ショーウィンドウに映った自分をみて、その醜さにハッとした栄利子。それがきっかけとなり、翔子を開放します。
出会ったばかりの楽しかった頃には戻れないと、ようやく悟ったのか・・・。
翔子も、今まで放置していた自分の父親と向き合う決心をして前向きに生きていこうとします。ここにきて、それぞれが考え直したのですね。
彼女たちが出会ったことで紆余曲折あったけど、結果的には良い方向へ向かいました。ナイルパーチのように、相対した魚が絶滅することはなく・・・。
お互いが成長できて良かった。