『刑事弁護人』ネタバレ感想文・あらすじ|罪と罰と苦しみの連鎖|薬丸岳

- 『刑事弁護人』あらすじと感想文
- 持月凛子&西のタッグ
- 隠された真実
- 心に響いたことば
- 『刑事弁護人』結末
ネタバレあります。ご注意ください。
真実を隠せば、その人の苦しみは癒えるんでしょうか?
薬丸岳さんの小説『刑事弁護人』読書感想です。薬丸さんといえば、少年法や刑法第39条など重めテーマのイメージが強い作家さんですね。
今回は刑事事件の弁護士にスポットを当てた物語でした。

重いけどサクサク読めたよ。
薬丸さんが描く罪と罰は深いです。加害者家族の苦しみ、被害者遺族の叫び、加害者の弁護人の思いなど、様々な苦しみが描かれていました。
重めテーマだけどキャラに魅力があるのが薬丸さんの小説の良いところです。持月凛子&西のタッグ、シリーズ化されないかな。
『刑事弁護人』あらすじ
リーガルミステリー
ある事情から刑事弁護に使命感を抱く持月凛子が当番弁護士に指名されたのは、埼玉県警の現役女性警察官・垂水涼香が起こしたホスト殺人事件。凛子は同じ事務所の西と弁護にあたるが、加害者に虚偽の供述をされた挙げ句の果て、弁護士解任を通告されてしまう。一方、西は事件の真相に辿りつつあった。
『刑事弁護人』ネタバレ感想文|罪と罰を描いたリーガルミステリー

事件を通して描かれているのは罪と罰です。
何が事実で、何が真実なのか。弁護士によって、ひとつひとつ丁寧に事実を確認していくストーリーが面白かったです。
「真実はいつもひとつ」・・・とは、アニメで有名な言葉ですね。でも、ひとつなのは真実じゃなくて事実の方だったりします。

人は嘘をついて事実をねじ曲げようとするから、ややこしくなるんだ。
事実をありのまま語らない被告人。弁護人たちは何があったのかを明らかにしていきます。彼女が犯した罪に対して、正当な罰を受けさせるために。
刑事弁護人・持月凛子&西のタッグ
主人公の刑事弁護人・持月凛子と西大輔が魅力的なキャラでした。特に元刑事で弁護士になった西の洞察がするどかったです。
人は噓をつく生き物。

それがわかってる彼は、何が嘘で真実なのかを見極めようとするんだ。
何か引っかかるものがあるとすぐ疑う西に対して、凛子は全く正反対でした。彼女は被告人を信じることからはじめます。
凛子の父親も刑事弁護人。でも、逆恨みで被害者遺族に殺されたのです。彼女が父と同じ弁護士を志した理由に心打たれました。
父がしてきたことは間違いではないと思いたい。それを証明するためには被害者の娘である自分が刑事弁護人として、被疑者や被告人のために生きる以外にないのではないか
父の影響を受けて弁護人を続ける凛子と、元刑事の西。2人のタッグが良かったです。

彼らの過去や思いが描かれていて感情移入できたよ。
隠された真実
被告人・垂水涼香の正当防衛は成り立つか、否か。
最終的には正当防衛で争うことになるのだけど、それまでが二転三転するんですよね。
はじめは被害者のホストは死んでいなかったと言っていたけど、涼香がホストの家を出た時点で死んでいたのが判明します。
彼女が被害者を殺めたのは事実。

真実をひたすら隠そうとする涼香は極めてブラックに近いグレーだった。
殺意があれば殺人罪、なければ正当防衛です。何が真実で何がそうじゃないのか、ひとつひとつ確かめていくのは根気がいりますね。真実が明かされていく過程は面白く読めました。
ただ、最後の裁判の描写は知っている事実がくり返し描かれていたから、ちょっとくどかったかな。
心に響いたことば
西のことばが心に響きました。
たとえどんなに苦しかったとしても、その人たちに事実を伝えなければいけない。それが人の命を奪ってしまったあなたの最低限の務めだと私は思います
事実をねじ曲げ、真実を語ろうとしない涼香に向けたことばです。ちなみに「その人たち」とは、遺族や被害者に関わりのある人々を指しています。
事件の被害者が亡くなっていたら、事実を語ることはできません。そして遺された人々にも何も伝えられない・・・。

涼香なりの理由があって嘘をついていたのだけど、西の考えはもっともだね。
『刑事弁護人』結末|苦しみの連鎖

『刑事弁護人』ラストは、涼香の裁判に判決が下されます。あの日、何があったのかが明らかになりました。
最後に出てきた音声テープで事件は一転。
涼香が隠したかった真実は、他の人を苦しめるものでした。それでも音声テープを証拠品として裁判に出したのは西です。彼のことばが心に刺さりました。
「真実を隠せば、その人の苦しみは癒えるんでしょうか?」
真実を知っても知らなくても、結局、遺された人々は苦しみ続けるのですね。だからと言って、真実を知らないまま被告を憎み続けるのも苦しい。

判決は良かったけど、苦しみの連鎖は続くんだ。
人の命を奪うということの重さを、ひしひしと感じるラストでした。


