IQ161の少年には、戸籍がなかった―。
薬丸岳さんの小説『神の子』(上) 感想です。『神の子』(単行本) は上下巻合わせて相当なボリューム。
『神の子』上巻 あらすじ
孤独な少年は救われるのか―。
逮捕されたIQ161の少年には、戸籍がなかった―。彼に救いはあるのか。
『神の子』感想
面白いですね。またいいところで終わるんです。薬丸さんの2冊に渡る長編は初めて読みますが、やはり人物を描くのが上手いです。
戸籍がない少年

戸籍がない少年
主人公・町田博史は戸籍がありませんでした。戸籍がないってどういうこと!?・・・と目を見張りました。結婚はおろか運転免許も取れません。そして学校にも行けないんです。
ネットで検索してみると、日本にも数多くの無戸籍の人たちがいることに気付き あ然としました。私が今まで何不自由なく暮らしてきたことが出来なくて苦しんでいる人たちがいる事実。
町田は頭の良さはピカイチでした。最も優れていたのは記憶力です。
見たものを、そのまま写真撮影したように記憶に焼きつける能力。
直観像記憶というものらしいですね。素晴らしい能力です。学校にも行けず友達もいない彼は、本を見て知識を得ていました。
彼の生きてきた世界は 孤独でゾッとしてしまうくらい過酷なもの・・・。唯一の救いがあるとすれば、ミノルという少年の存在です。
闇の世界
町田は闇の世界に足を踏み入れていました。振り込め詐欺グループです。
ボスである室井という人物はいったい何者なのか? 上巻では組織の執念が怖いほどに描かれています。
自分の理想の社会を作るために町田を取り込もうとする室井。野望のために犠牲になっていく人たちを見ていると悲しくなります。
雨宮は組織を裏切ろうとします。上巻はそこで終わってしまったので続きが気になりました。彼はどうなってしまうのでしょう。
欠けている心

気になったのは町田の心です。18年間 戸籍もなく、ただひたすら本の知識を頼りにして生きてきた少年の心。
誰にも心を開かず自分の頭だけを頼りにする彼は救われるのか。
傍からみると冷たいように見えてしまう少年ですが、読んでいると優しい面もあることに気づきます。
確かに何か決定的に欠けているのかもしれません。でも救われて欲しいと願わずにはいられないのです。
『神の子』はまるでヒューマンドラマ
薬丸さんが描く『神の子』はミステリーであり、人を描いたヒューマンドラマでもあります。
全ての人が町田の周りをくるくる回っている。彼らがどう繋がっていくのかと楽しみながら読んでいました。主人公を取り巻く人たちの今後の行方も気になります。


