『告解』あらすじ・ネタバレ感想|号泣!加害者の罪と罰|薬丸岳
- 『告解』あらすじと感想文
- もしも自分が加害者になったら
- 罪から逃げ続ける翔太
- 被害者の夫・法輪二三久の真意
- 号泣!父の手紙
- 印象に残った言葉
ネタバレあります。ご注意ください。
心から笑える日は来るのだろうか。あの日、人を殺してしまった僕に―
薬丸岳さんの小説『告解』感想です。久々に薬丸さんの本を読みました。相変わらず重いけど読みやすい。・・・そして泣ける。
特に後半はヤバかった(泣)
もしも自分が同じ立場になってしまったらと考えずにはいられません。恐怖を感じながら読みました。さすが薬丸さん。ハズレませんね。
『告解』あらすじ
自分が加害者になったら?
飲酒運転中、何かに乗り上げた衝撃を受けるも、恐怖のあまり走り去ってしまった大学生の籬翔太。翌日、一人の老女の命を奪ってしまったことを知る。自分の未来、家族の幸せ、恋人の笑顔―。失うものの大きさに、罪から目をそらし続ける翔太に下されたのは、懲役4年を超える実刑だった。一方、被害者の夫である法輪二三久は、“ある思い” を胸に翔太の出所を待ち続けていた。
『告解』ネタバレ感想文
『告解』は、加害者の翔太と被害者の夫・二三久を通して、罪と罰について考えたくなる小説です。
薬丸さんの加害者本人の気持ちをメインに描いた小説は初めてかも。
今まで読んだのは被害者やその家族、加害者の父視点での小説でした。今回は加害者本人の気持ちがたくさん描かれています。
だからですかね。もしも自分が加害者になってしまったらと想像してしまうんです。
誰にでも起こり得る恐怖|もしも自分が加害者になったら
『告解』を読んでいて、もしも自分が加害者になってしまったらと怖くなりました。
主人公・籬翔太は飲酒運転中に事故を起こして逃げ、結果、一人の老女の命を奪ってしまう。彼に下されたのは懲役四年十ヵ月の実刑でした。
もしも自分が加害者になってしまったら?
翔太を通して身近に起こり得る恐怖を感じました。薬丸さんの小説は、誰でも起こり得るかもしれない恐怖を感じることが多いです。
加害者の父親を描いた『Aではない君と』、少年犯罪を描いた『悪党』や『天使のナイフ』など。
薬丸さんの本を何冊か読んだけど、「贖罪」 について書かれているのが多くて深い。
刑期を終えれば、罪を償ったことになるのか。でも自分の罪が消えるわけではないし、やっぱり苦しみは続くんだろうな。
罪から逃げ続ける翔太
刑期を終えても自分は運が悪かっただけと思っている翔太に身勝手さを感じました。
たとえ飲酒運転していたとしても、雨が降っておらず、あのときナナが鳴き出したりしなければ、あんなことにはならなかった。自分は運が悪かっただけなのだ
イヤイヤイヤ、そもそも飲酒運転の時点でダメでしょ。
被害者の命を奪ってしまったことに罪の意識は感じないのかな。
反省しているように見えない翔太に嫌気がさします。結局、裁判でも事実とは違う証言をして、そのまま刑期を終え出所しました。
でも彼は知ることになるんです。自分の犯した罪は 被害者の人生を奪うだけでなく、その家族や加害者の周りの人の人生も狂わせていたことを。
彼はこれからどういう風に生きていくのか。
1つの犯罪が周りの人の人生を奪うこと。そのことについて深く追求した小説と言えば、東野圭吾さんの『手紙』も絶品です。
被害者の夫・法輪二三久の真意
被害者の夫・法輪二三久が描かれることで、より小説に深みが増していました。彼は加害者・翔太のことを知るために探偵に調査を依頼していたのです。
その探偵というのが「ホープ探偵事務所」経営者・木暮正人。薬丸さんの小説『悪党』にも登場したキャラです。
木暮さんの事務所、こういう加害者の調査ばかり請け負ってたよね。
二三久が翔太の出所を待ち続けたのは、妻の復讐を果たすため?
今後の展開を思うとドキドキしました。やがて翔太が住んでいるアパートの隣の部屋に住み始めます。
自分が被害者の夫だということを隠したままで、翔太も気づかずにいる描写は心臓に悪い・・・。
二三久には、果たさなければならない思いがありました。でも認知障害が進み、自分の妻のことや、果たさなければならないことも忘れてしまうのです。
二三久が翔太に近づいた真意は何なのか。
ラストに判明するのですが、切ない告白(告解)でした。やはり自分の犯した罪は消えることはなく、いつまでも苦しみ続けねばならない。
人の命を奪うことは、そういうことなのかもしれませんね。
号泣!父の手紙
翔太の父の手紙に号泣
翔太が刑務所に入っていた頃、酒浸りになり母と離婚した父が亡くなりました。父の葬儀で翔太は、やっと自分が奪った命について「贖罪」の気持ちを持つことができたんです。
自分はどれほど罪深いことをしてしまったのだろう。そのことによって自分は五年近く刑務所に入れられることになったが、その罪深さに釣り合うものなのだろうか
尊敬する父がいなくなって初めて気づいた命の尊さ。もう父と話すことも謝ることも出来ない。そしてそれは、そのまま翔太が命を奪ってしまった法輪家にも当てはまります。
もう少し早く気づけたらよかったのにね・・・。
父は翔太に手紙を遺していました。翔太が逮捕されてから面会にも訪れず、出所した翔太も会いに行かず、言葉を交わさなかった父息子。
手紙の内容に号泣。
翔太が事故を起こしてからずっと息子と向き合わずに逃げ続けた父。でも息子に対する優しさが感じられる言葉が綴られていました。
親としては子どもの幸せを1番に願うよね。父の言葉が温かい。
父の言葉は翔太の道しるべになりました。彼は自分の罪から逃げ続けるのをやめ、法輪二三久に贖罪の気持ちを伝えに行きます。
印象に残った言葉|贖罪について
翔太を最後まで支えてくれた彼女・綾香の言葉 (気持ち) が印象に残りました。
罪を犯した人がどれほどの償いの気持ちを持っているのかは他人にはわかりようがない。口ではどんなことでも言えるし、一時であれば反省の態度を示すこともできるから
「贖罪」は その人の気持ちの問題なのかもしれません。結局のところ当人以外には分からない。
この言葉を読んだとき、中山七里さんの小説 「悪辣弁護士・御子柴礼司シリーズ」 の御子柴を連想しました。
幼少期に猟奇殺人を起こし、日本中を震撼させた死体配達人で弁護士という、かなり異例な経歴の持ち主。
御子柴は言葉で贖罪の気持ちを伝えることはしない人。
言葉では嘘偽りが言えることを知っているからです。本当の「贖罪」になり得ないと思っているから。彼は違う方法で、彼なりの「贖罪」の気持ちを持っています。
「贖罪」って難しい。どれが正解っていうの、ないよね。でも気持ちがこもった言葉だったら相手に伝わるかな。
『告解』は罪と罰について考えたくなる小説
『告解』は、加害者の翔太と被害者の夫・二三久を通して罪と罰について考えたくなる小説です。
事故を起こしてからずっと苦しんでいた翔太。そして父が亡くなったとき、これも自分に与えられた罰だと思う。
自分の行いは自分に返ってくる。そう思ってるから、翔太の気持ちは理解できる。
これからもずっと、大切な人を失うたびに自分に対する罰だと苦しみ続けることになる。これが人の命を奪ってしまった翔太が背負う本当の罰なのかもしれません。
人の命を奪った代償は とてつもなく大きいですね・・・。