『鍵のない夢を見る』あらすじ・ネタバレ感想|転落していく女たち|辻村深月
- 『鍵のない夢を見る』あらすじと感想文
- 日常に潜む落とし穴
- 心がザワつくリアルな女性心理
- 「石蕗南地区の放火」自意識過剰な女・笙子
- 「芹葉大学の夢と殺人」未玖の彼氏・雄大の転落人生
少しだけネタバレあります。
ささやかな望みが転落に拍車をかける―。
辻村深月さんの小説『鍵のない夢を見る』感想です。日常にありそうな「些細な事」が描かれていました。
誰にでも起こりうる事で、一歩道を踏み外すと大惨事になったりする。そんな日常の落とし穴。
リアル感があってヒヤリとしたよ。
『鍵のない夢を見る』あらすじ&目次
転落していく女性たち
どこにでもある町に住む、盗癖のあるよそ者の女、婚期を逃した女の焦り、育児に悩む若い母親・・・。彼女たちの疲れた心を待つ落とし穴。私たちの心の奥底を静かに覗く傑作集。
『鍵のない夢を見る』ネタバレ感想文|日常に潜む落とし穴
『鍵のない夢を見る』は、リアルにありそうで怖い日常が描かれています。
全てにおいて後味が悪いけど、最後まで読まずにはいられない面白さがありました。魔がさして泥棒したり、放火、さらには殺人にまで発展して巻き込まれてしまう・・・。
ボタンをひとつかけ間違えて、最悪な結末になった人々が登場するんです。
私も一歩間違えれば、人生が最悪なものになっていたかもしれない。
今まで幸せに生きて来れたのは、ただ運が良かっただけなんじゃないか。『鍵のない夢を見る』を読んで、日常に潜む怖さを目の当たりにしました。
リアルな女性心理に心がザワつく
ここで描かれているのは5人の女性たち。年齢設定はだいたい20~30代くらいかな。彼女たちは悩みながらも必死に生きています。
読後感がザワザワするのは「リアルな女性心理」が描かれているから。
辻村さんは女性心理を書くのが上手いよね。
私に年齢が近い笙子(しょうこ)と、印象に残った物語の未玖(みく)の2人にスポットを当ててのレビューです。
「石蕗南地区の放火」自意識過剰な女・笙子
「石蕗南地区の放火」の主人公・笙子は36歳の独身OL。
笙子は仕事で関わるかもしれないからという理由で、NOとは言えない人でした。
行きたくない合コンに行ったり、好きでもない男と電話番号を交換したり、デートの誘いを受けてしまったり・・・。
読んでいてイライラしてしまうくらいだった。
実家の近所でおこった放火事件。犯人は笙子の身近な人物でした。
彼女の妄想が始まります。―犯人の動機は、私ではなかったか?・・・と。動機は全く違うものだったのだけど。自意識過剰な笙子に痛々しさを感じました。
笙子の心の叫びにザワザワと心が反応する。
悔しさと焦りが入り混じった叫びです。周りの人たちが結婚していく中で自分だけが取り残されたような焦り。それでも一生懸命、生きているのですよね。
自分の思い通りにいかない、もどかしさを感じて切なくなったよ。
「芹葉大学の夢と殺人」未玖の彼氏・雄大の転落人生
「芹葉大学の夢と殺人」は、恋と夢と挫折が描かれています。
同じ大学の雄大と付き合い始めた未玖。2人にはそれぞれ夢がありました。未玖はイラストレーター、雄大は医者。・・・でも彼にはもっと大きな夢があったのです。
夢と現実のギャップにより殺人を犯す雄大と、そんな男を好きになってしまう未玖の悲劇。
夢を見るのは良い事だよね。ただし、現実をしっかり生きていれば。
未玖はしっかり現実を歩み、美術教師になりました。けれど雄大は些細なことで殺人を犯してしまったのです。
転落していく人生にヒヤリとしました。どうしてこんなことになってしまったんだろう。何がいけなかったか。
ホントに後味悪すぎる。でもこのストーリーが1番好きだな。
『鍵のない夢を見る』は魔がさす瞬間と悲劇を描いた物語
夢の扉を開ける鍵がないから叶わない。それでも叶えるために魔がさしてしまう瞬間を描いた物語でした。
望むことは罪ではありません。誰だって幸せになりたい。でもこの本の登場人物のように、痛い思いをすることもあるかもしれません。十分にご用心を・・・。
『鍵のない夢を見る』というタイトルがピッタリな一冊だった。