- 辻村深月さんの小説『噛みあわない会話と、ある過去について』より、「早穂とゆかり」 あらすじと感想
- 早穂と霊感少女・ゆかり
- 本音と建前
- 噛み合わない彼女たち
- 4話の共通点
少しだけネタバレあります。
自分がそうだからといって、他者も同じとは限らない。
辻村深月さんの小説『噛みあわない会話と、ある過去について』より、第4回目のレビューは、「早穂とゆかり」 です。
『噛みあわない会話と、ある過去について』あらすじ
「過去」に向きあう人物たちを描いた4つの物語
「過去」に向きあう人物たちを描く辻村深月さんの短編集。
「早穂とゆかり」 感想
自分がそうだからといって、他者も同じとは限らない。
このことを痛感した1話でした。
人気者の早穂と霊感少女・ゆかり

主人公は 早穂
県内情報誌『SONG』のライターをしている彼女は、かつての同級生・ゆかりをインタビューすることになりました。
かつて同級生だった痛い霊感少女・ゆかり。今では個人塾のカリスマ経営者です。
2人の関係を簡単に言うと、いじめっ子といじめられっ子。
早穂はクラスの中でも人気者でした。いじめた方は自覚がなくても、いじめられた方は忘れないものです。
主人公は過去に言った言葉や行動を覚えてないけど 相手は忘れていない。普段の何気ない言葉でも 場合によっては相手を傷つけてしまうかもしれません。
本音と建前
本音と建前、使い分けています。それで人間関係がスムーズに行く場合がある。でも早穂とゆかりはそうではなかったようです。
早穂に、私に会いたかった?と尋ねるゆかり。対して早穂は・・・。
会いたかったけど、迷惑かと思った―。
一見すると、どこにでも転がっているような会話です。「私に会いたかった?」 と聞かれて、「会いたくなかった」 と答える人はなかなかいない。
ゆかりは直球、対して早穂は言い訳がましい。彼女は別にゆかりとは会いたくなかった・・・という思いがにじみ出ています。
本音のゆかりに対して、どこまでも建前の早穂。会話が全然噛み合ってません。2人の会話を読んでいくと、あることに気づきました。
本音を言う相手には、こちらも本音でいくべき。
そうじゃないと 彼女たちのように会話が噛み合わなくなるかもしれません。自分が本音で話してるなら 相手も本音で話してほしい。
不器用なゆかり

物語の後半になると 早穂も本音がでてきます。彼女のキツイひとことに対して開き直るゆかり。
周りの子に嘘をつくのはいけないことだけど、そうしなければならないギリギリの状態だった。ゆかりに肩入れしてしまいます。
噛み合わない彼女たち
人の気持ちって、話してみないと分からない。
ゆかりは自分に会いたくないんじゃないかと、早穂は思い込んでいるのですが、そうじゃなかった。自分がゆかりに会いたくないと思っていたから 向こうもそうなんじゃないかという思い込み。
噛み合わない早穂とゆかりの会話を読んでいると、哀しくなってきました。私も自分を基準として物心を考えてしまうことがあるので気をつけないと。
後悔したくなる過去
辻村深月さん『噛みあわない会話と、ある過去について』。4話全てのレビューを書きましたが、どの物語にも共通していることがあります。
後悔したくなるような過去。歳をとったときに その過去と向き合う物語。
後味が悪い・・・。でも今過ごしている時も、やがては過去になるんですよね。歳を重ねて過去 (今) をふり返ったとき、果たしてどんな気持ちになるのか。
懐かしくキラキラな思い出?ヒヤリと後悔してしまう思い出?
相手と会話が噛み合わないもどかしさと、哀しさを感じた物語でした。
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