『黒鳥の湖』ネタバレ感想文・あらすじと結末|人間の悪が描かれた驚愕のミステリー|宇佐美まこと
- 『黒鳥の湖』あらすじと感想文
- テーマは「因果応報」
- 肌身フェチの殺人者
- 彰太の罪
- 「黒」が暗示する人に言えない秘密
- タイトルの意味を考察
- ブラック・スワン理論
ネタバレあります。ご注意ください。
悪い黒鳥は、罰を受けないといけない
宇佐美まことさんの小説『黒鳥の湖』読書感想です。面白くて一気読みでした。かなりダークなミステリーといったところ。
明るい展開ではなかったけど、続きが気になって止まらなくなったよ。
悪いことをしたら、必ず自分に返ってくるのですよね。登場人物がみんな「悪」過ぎて胸が悪くなりました。・・・でも、面白かったです。
『黒鳥の湖』あらすじ
驚愕のミステリー小説
拉致した女性の体の一部を家族に送り付け楽しむ、醜悪な殺人者。突然、様子のおかしくなった高校生のひとり娘。全ては自らが過去に犯した罪の報いなのか―!?
『黒鳥の湖』テーマは「因果応報」
『黒鳥の湖』テーマは、ひとことで言うと「因果応報」です。
良いことをすれば良い報いがあり、悪いことをすれば悪い報いがある。自分がしたことは、巡り巡って自分に返ってくるのです。
いけ好かないキャラばかりだった。最後には悪い報いが返っていたよ。
自業自得のような気もしました。悪い行いは必ず自分にも返ってくるから、やらない方が身のためですね。
『黒鳥の湖』ネタバレ感想文|「善」と「悪」は隣り合わせ!?
『黒鳥の湖』を読んで強烈に印象に残ったのは、様々な人の「悪」の部分です。
みんな善人ぶっているけど、心の内は違うんですよね。よくもまぁ・・・、上手く隠していたものです。最後は因果応報、しっぺ返しをくらいました。
主人公の彰太も過去の罪を後悔しながら生きている人。彼の周りの人々や「肌身フェチの殺人者」、清水皐月など「悪」にまみれたキャラ多数です。
彼らを見ていると「善」と「悪」は隣り合わせなんじゃないかと感じました。
無邪気で残酷。狂気に近い好意。信念。いったい清水皐月とはどういう人間なのだろう
無邪気で残酷、狂喜に近い好意・・・。ズレた人ほど怖い。
彰太の周りの人々が「悪人」だったというのはびっくりです。「肌身フェチの殺人者」や清水皐月が誰なのかは想像がつきました。
清水皐月に当てはまりそうな人、一人しかいなかったし・・・。そうすると、おのずと「肌身フェチの殺人者」も誰か推測できてしまうんですよね。
肌身フェチの殺人者
『黒鳥の湖』では「肌身フェチの殺人者」と名付けられた犯罪者が出てきます。
被害者の家族に、被害者の持ち物を送りつける・・・。劇場型の犯罪とも言えますね。
「ザイゼン」の社長・財前彰太は、18年前、「肌身フェチの殺人者」と似た事件の調査をしていました。調査会社で働いていた頃のことです。
心配していると、娘の持ち物が届けられるようになった。最初はハンカチ、次に赤い革のキーケースに入った鍵束、手袋、髪飾り
被害者の家族にとっては、気が狂いそうな犯罪。
家庭でイザコザの末、娘・美華の行方がわからなくなり慌てる彰太。美華は「肌身フェチの殺人者」に連れ去られてしまったのではないかと・・・。
被害者の家族を翻弄させる犯罪者といえば、宮部みゆきさんの『模倣犯』を連想しました。こちらも面白いのでおすすめです。
彰太の罪
なぜ、彰太は必要以上に「肌身フェチの殺人者」を恐れているのか。18年前、彼はその犯罪を利用して自分の利益を優先したからです。
自分の伯父が「肌身フェチの殺人者」であるかのように見せかけて依頼者に伝えた。全ては伯父の財産を相続するため。その結果、伯父は何者かに殺害される。
伯父は「肌身フェチの殺人者」だと思われて、依頼人に殺されたんだろうか・・・。
誰も知らない、知られてはならない彰太の罪。守りたいもの(家族)ができて、過去の罪を後悔している彰太をみてると切なくなりました。
財産や会社などは、全て伯父が亡くなったことで手に入れたものです。
家族を守るために、俺が持っているものは、すべて伯父からもぎとったものじゃないか
後悔している彼の気持ちに寄り添いたくなりました。平然としているよりは、罪の意識があって良いとも思います。
罪の意識すらも全くない登場人物が多すぎるから・・・。
「黒」が暗示する、人に言えない秘密
気になった言葉がありました。
黒はあらゆる色が重なり合った色である。一つ一つの色を見つけ出すことはもはやできない
赤や青、黄などいくつもの色を混ぜると黒っぽくなりますね。ピリッとしていてカッコイイけど、反面、ダークなイメージもある「黒」。
『黒鳥の湖』では、罪や誰にも言えない秘密など後ろ暗いイメージを抱きます。
きっと誰にでも、大なり小なり人に言えない秘密はある。
登場人物たちのような「黒」は怖いけど、人は様々な顔を持っているんですよね。ある人には「善人」(白)に見えても、違う人には「悪人」(黒)に見えたり。
悪人ほど、秘密を悟られないように白の仮面をつけるのかもね。
田部井や八木、大黒様に若院様・・・。白に見えた登場人物が一転、黒に変化する後半は、人の闇の部分を見せつけられて気分が悪くなりました。
『黒鳥の湖』ではダークなイメージの黒だけど、好きなカラーだよ。
黒は他のカラーを引き立ててくれる色でもあります。
『銀河鉄道の夜』(ジョバンニなどが猫のアニメ)を見たときに黒が好きになりました。暗闇(黒)に光るリンドウの花(青)の描写がキレイで幻想的。
あの世界観、今でも憧れます。
『黒鳥の湖』タイトルの意味を考察
タイトル『黒鳥の湖』と聞くと、おのずと連想するのが『白鳥の湖』です。疑問が浮かびました。
人に言えない秘密を持つ登場人物が黒鳥に見える(人間の怖さがメインに描かれている)から。
黒鳥は「物事を一変させる」という象徴でもあるのですよね。「ブラック・スワン理論」というらしいです。
登場人物のほとんどが黒鳥に見えたラスト|見えないものほど怖い
『黒鳥の湖』を読んでいると「白鳥」ではなくて「黒鳥」がしっくりきます。登場人物のほとんどが黒鳥に見えました。
善人に見えた人に、こんな面が? ・・・人間って怖い。
白が黒に一転したのはびっくりです。人の隠れた内面ってわからないものですね。笑顔や親切の裏には「悪」が潜んでいたのだから・・・。
悪い黒鳥は、罰を受けないといけない
その言葉どおり、悪い黒鳥は何かしら罰を受けたわけだが・・・。
バレエの発表会で黒鳥のオディールを演じた彰太の娘・美華が、この中では一番黒鳥には見えませんでした。
ブラック・スワン理論|黒鳥はいないと思われていた!?
『ブラック・スワン理論』の下地になったものですが、黒鳥は「物事を一変させる」という象徴でもあるようです。
「ありえないと思われていたことが突然発生すると、予想されていた場合よりも影響が苛烈になる」
無駄な努力を表す言葉として、英語にはあることわざがありました。
「黒い白鳥(ブラック・スワン)を探すようなものだ」
黒い白鳥はいないと信じられていたけど、実は存在していて、発見された当時はみんなびっくり。黒鳥は「常識を疑うこと」、「物事を一変させること」、「自分を絶対視しないこと」の象徴として使われるようになったと言います。
人間の隠された「悪」が垣間見える『黒鳥の湖』は、白に見えて実は黒だったという怖さが描かれていました。
いないと思われていた黒鳥が存在するように、人間にも何かしら「黒」が存在するということだ。
『黒鳥の湖』一転する人間の悪にヒヤリ
「善」が「悪」に一転する『黒鳥の湖』は、程よいミステリー感があり良い作品でした。ラストに人間のダークな部分が表にでてきます。
「肌身フェチの殺人者」や清水皐月の正体よりも、あの双子に潜んでいた「悪」の方にびっくりしたよ。
人間って、見かけによらずわからないものですね・・・。
ダークな小説だったけど、崩壊しかけた彰太の家族が良い方向へ向かっていくラストに心が和みました。