『闇に香る嘘』あらすじ・ネタバレ感想文|反転する疑惑と愛|下村敦史
- 『闇に香る嘘』あらすじと感想文
- 盲目の主人公と暗闇の中で生きること
- 疑惑
- 中国残留孤児の苦しみ
- 無言の恩人と闇に潜む謎
少しだけネタバレあります。
彼はほんとうに兄なのか?
下村敦史さんの小説『闇に香る嘘』感想です。第60回江戸川乱歩賞受賞作。選考の評価が高く読むのが楽しみでした。
最後の清々しさは絶品。
すごいのが、全盲の主人公の主観で物語が進んでいくことです。これには頭が下がりました。
面白かったよ。
『闇に香る嘘』あらすじ
第60回江戸川乱歩賞受賞作
孫の腎臓移植のため、兄に頼むが頑なに拒む姿に違和感を覚える村上和久。彼はほんとうに兄なのか? 疑問を持った和久は調べ始めるが・・・。
『闇に香る嘘』ネタバレ感想文
正直に言うと、どっぷりとハマれたわけではないのだけど・・・。前半はローペースでなかなか進まず、後半から最後にかけては一気読みでした。
すぐ疑心暗鬼に陥る主人公が好きになれなかった。
でもそれが吹き飛ぶくらいラストが良かったです。多少ムリがあるんじゃないか、この設定・・・と感じる場面はあったけど、読んで良かった本でした。
盲目の主人公と暗闇の中で生きること
主人公・村上和久は目がみえません。その生活がいかに大変であるかを思い知りました。
全盲であること。
想像を絶する暗闇の世界です。視力に頼れない分、その他の五感を常に意識しながら道を歩かなければならなくて。
隣に人がいることの安心感ってあるよね。
その人が突然いなくなっしまうと、不安な気持ちになります。下村さんは、そんな主人公の生活を詳細に描いていました。
隣にいる人は本当にその人物なのか。
他に誰かいる気配はするけど、喋ってくれないと誰がいるのか彼には判断ができないんです。
目が見えていれば恐怖でもなんでもないことが、全盲の彼には脅威になる。
ジワジワと怖さを感じました。人の表情が見えない分、聴覚や嗅覚などをフル動員して嘘を見破らなければなりません。
疑惑
『闇に香る嘘』を手に取った理由は、帯の一文を読んで面白そうだと思ったからです。
27年間兄だと信じていた男は何者なのか?
偽者なのか、それとも・・・。
和久は疑惑を持ちます。きっかけになったのが、孫娘・夏帆の腎臓移植を兄に頼んで検査すらも断られたから。
それで疑う主人公に少し違和感を抱いたけど、一旦わきあがったものは大きくなるばかり。彼は兄の竜彦を調べ始めます。
兄は残留孤児でした。
中国残留孤児の苦しみ
中国残留孤児について描かれていて、一つ一つの言葉が胸にささりました。
兄の竜彦は中国に置き去りにされた日本人。和久は満州にいた頃の知人や、兄の身近にいる残留日本人を訪ね歩くのです。
今もなお苦しんでいる人たちがいるんだよね。
日本に帰国した方は、ほとんどが当時40代~50代。その多くは学校にも行かせてもらえず、帰国しても言葉の壁など様々な問題が山積みでした。
そのことについて、少しでも知ることが出来たことが良かったです。
無言の恩人と闇に潜む謎
多くの謎が描かれていました。
気になったのは「無言の恩人」。
主人公がピンチになったとき、そっと手を差し伸べて彼を助けてくれるんです。一言もしゃべらないから、目が見えない彼はそれが誰だかわからないのだけど・・・。
「無言の恩人」は、最後の方で全てが明らかになるよ。
『闇に香る嘘』清々しい結末と愛
結末は清々しくて、様々な人の愛を感じました。
キーマンは「無言の恩人」と「コンテナから消えた人物」です。
世界がひっくり返るのがすごい。納得の江戸川乱歩賞受賞作品でした。