『悪党』あらすじ&ネタバレ感想|加害者追跡調査のやるせない結末|薬丸岳
- 『悪党』あらすじと感想文
- 少年法や刑法39条に鋭く斬り込む薬丸小説の魅力
- 少年犯罪について
- 本の目次と 「悪党」 について
- 罪の代償と結末
少しだけネタバレあります。
彼らは何をもって罪を償ったことになるのだろう。
薬丸岳さんの小説『悪党』感想です。WOWOWドラマ原作小説。ハラハラの結末でした。
探偵事務所で働いている佐伯修一が「犯罪加害者の追跡調査」をしていくなかで、様々な悪党を見つめ、姉を殺害した犯人と向き合うお話。
重いテーマだけど読みやすかったです。犯罪被害者に寄り添った内容の小説。薬丸さんはこういうの上手いですね。
薬丸さんの小説は深い。心に響くものがあったよ。
『悪党』あらすじ
心の叫びが止まらない!
探偵事務所で働いている佐伯修一は、所長・木暮の命令で、ある老夫婦の依頼を受けることになる。息子を殺して社会に出てきた男の追跡調査だった。調査を進める佐伯だが、実は彼もまた姉を殺された犯罪被害者遺族だったのだ・・・。
少年法、刑法39条など法律の闇に鋭く斬り込む薬丸小説
一時期、薬丸岳さんの小説にハマりました。本のテーマはいつも重いのだけど、答えが出ない問いを描くのが上手い作家さんです。
『天使のナイフ』『闇の底』『虚夢』『死命』『神の子』『友罪』『誓約』『Aではない君と』『アノニマス・コール』『ラストナイト』
こちらはどれも良かった。
少年犯罪を扱った『天使のナイフ』『友罪』『Aではない君と』、刑法39条を扱った『虚夢』辺りが絶品でした。
被害者側からみた少年法や刑法39条。必ずしも割り切れるわけではない、やり切れない思いを正面から描いています。
読むと心が抉られるのだけど。法律は必ずしも万全ではないんだよね。
今回よんだのが『悪党』です。滝沢秀明さん主演で、1度 映像化もされている小説。こちらも少年犯罪を扱っていました。
『悪党』ネタバレ感想文
『悪党』で扱っているのは少年犯罪です。
主人公・佐伯を初め、所長の木暮、弁護士の鈴本、それから冬美 (はるか) ・・・。出てくる登場人物はほとんど何らかの事件の遺族、または被害者でした。
読みながら、何度も胸が苦しくなった。
犯罪は被害者だけではなくて、その家族や周りの人たちの人生までも狂わせてしまう。被害者側はもちろんだけど、加害者側の家族までもです。
以前よんだ東野圭吾さん『手紙』。罪を犯した人の家族の人生が描かれていました。こちらも合わせて読むと、犯罪がどれだけ罪深いものなのかが実感できます。
薬丸さんの『悪党』で描かれているのは、ほとんどが少年犯罪でした。少年法に守られていずれ社会にでてくる彼ら。
何をもって罪を償ったことになるのか。被害者遺族たちは彼らを見てどう思うのか。どうしたら赦すことができるのか。
どうしても赦すことはできないよね。罪を犯したら一生そのことを背負っていくべき。
様々な悪党たち
探偵事務所を訪れる人たちの依頼は人探し。それもほとんどが、かつて犯罪を犯した加害者たちを探してくれというものです。
『悪党』は主人公の佐伯を軸に展開される連作短編集。プロローグ、エピローグ+7つの章からなっていて、様々な 「悪党」 たちが登場しました。
どの章も胸が痛みました。自分の姉の事件を未だに消化できてない佐伯が、彼らのその後を見つめながら悪党たちと再び向き合っていきます。
覚悟を決めて生きている人、当時と変わらぬまま贖罪の気持ちがない人など様々。
悪党の覚悟
第1章から登場する坂上の言葉が印象に残っています。本書のタイトル 「悪党」 について書かれていました。
悪党は自分が奪った分だけ大切な何かを失ってしまうこともちゃんとわかっている。それでも悪いことをしてしまうのが悪党なんだ
覚悟がうかがえる。自分が奪った分だけ大切な何かを失ってしまうって、重みがある言葉だね。
世の中にあふれる犯罪は、ここで描かれている覚悟を持った人ってどれだけいるんだろう。きっと覚悟もなしに犯罪を犯してしまう人たちが大半なのかな。
誰かの大切な人を奪えば、いずれ自分の大切な人も失ってしまうのです。
世の中ってそういう仕組みだと思ってる。
坂上は、贖罪から自ら大切に思っている人と別れる決意をしました。悪いことをしているのに憎めない。不思議なキャラです。
罪の代償はあまりにも大きい
『悪党』を読んでいると、贖罪ってなんだろうと考えます。
犯罪者は何をもって罪を償ったといえるのか。刑期を終えれば償ったことになるのか。社会に出て真面目に生きれば、その罪は帳消しになるのか。
刑期を終えれば罪を償ったことになるのかもしれません。でも被害者からしたら、それで赦せるものでもないと思うし・・・。
どういう生き方をしても帳消しになんてならないんだろうな。
生きている限り自分の犯した罪を一生背負っていべきです。罪の代償はあまりにも大きいですね。
「目には目を、歯には歯を」 という言葉があります。
もしも 被害者と同じ立場になってしまったら、加害者にも同じ気持ちを味わってほしいと願うかもしれません。
小林由香さん『ジャッジメント』の復讐法だ。
読むのが苦しい小説だったけど、正論では割り切れない思いがあるのも確かなんですよね。
感動したシーン
佐伯の父親の言葉をよんで泣きました。
「いつでも笑っていいんだぞ。いや、笑えるようにならなきゃいけないんだぞ。おれたちは絶対に不幸になっちゃいけないんだ」
姉を殺害した犯人を憎むのは当然だけど、もし佐伯が復讐を遂げたら父と母は悲しむだろうなと思いました。
父や母にとっては姉と同じく弟の佐伯もまた大切な子どもだから。
【やるせない結末】姉を殺害した3人の悪党に向き合った佐伯、そのとき彼は・・・。
ラストは佐伯が姉の事件の加害者たちを探し当てます。
彼らは何も更生してませんでした。
寺田、田所、そして主犯だった榎木。結末はやるせない思いが後をひきますね。でもそれで良かったのかも。
復讐からは何も生まれないからね。3人は重い代償を支払うことになったよ。