『龍神の雨』あらすじ・ネタバレ感想文|雨と哀しい結末|道尾秀介
- 『龍神の雨』あらすじと感想文
- 雨に翻弄された蓮と楓
- 龍を見た辰也と圭介
- 楓の後悔と真実
- 哀しい結末
- 心に響いた言葉
ネタバレあります。ご注意ください。
雨が彼らの運命を狂わせる
道尾秀介さんの小説『龍神の雨』感想です。始終もの悲しさがただよう物語でした。読後の余韻がハンパなく切ないですね。
片方は救われたかもしれないけど、もう片方は・・・。ひとつ歯車が狂うと恐ろしいことになります。
道尾さんの小説だから、覚悟して読んだ。
騙しのプロ・道尾秀介さんです。そのまま信じると騙されます(←私のように)。『カラスの親指』のような爽快感はなくて哀しくなりました。
『龍神の雨』あらすじ
道尾秀介『龍神の雨』
添木田蓮と楓は事故で母を失い、継父と3人で暮らしていた。溝田辰也と圭介の兄弟は、母に続いて父を亡くし、継母とささやかな生活を送る。やがて蓮は 妹を酷い目に遭わせた継父の殺害計画を立て、継父は死んだ・・・。降り続く雨が4人の運命を狂わせていく。果たして彼らは救われるのか。
『龍神の雨』ネタバレ感想文
『龍神の雨』は2つの家族の物語でした。どちらも血の繋りがない片親に育てられています。
- 継父・睦男と暮らしている蓮と楓
- 継母・里江と暮らしている辰也と圭介
視点は子どもたちです。蓮は高校を卒業して働き、楓と辰也は中学生、圭介は小学生でした。
道尾さんが描く子どもは少し影がある・・・。
『向日葵の咲かない夏』や『月と蟹』ほどではなかったけど、家庭の事情で屈折した子どもが描かれています。
『龍神の雨』での重要なキーワードは2つ。「龍」 と 「雨」 です。
辰也と圭介は 「龍」 を見て、蓮と楓は 「雨」 に翻弄される。明るい雰囲気の小説ではないけど、こういう展開も面白いですね。
もしも雨が降らなかったら、彼らの運命は変わっていただろうか。
雨に翻弄された蓮と楓
継父と一緒にくらしていた蓮と楓。彼らの母親は雨の日に亡くなっていました。
また、雨だ。七ヶ月半前、雨のせいで母が死んでしまったように、また自分たちは雨に人生を狂わされることになった
残されたのは兄妹と、母の死にショックを受けたまま働かず家にいる継父です。
蓮は楓が彼に汚されたことに怒り、殺害計画を実行。その計画は未遂に終わったけど、楓が継父を殺してしまったのです。
全てが雨の日の出来事。
「雨」 というのが、また鬱々とした気分に拍車をかけますね。
龍を見た辰也と圭介
継母と一緒にくらしていた辰也と圭介。父は家を出ていき、血の繋がった母は亡くなっていました。
蓮の家族同様、辰也と圭介も継母・里江との関係が微妙です。辰也はもろに反発しているし、圭介は里江のことを受け入れているけど、兄の手前、遠慮している。
こういうのって難しいよね。里江に同情してしまう。
ほとんどが小学生の圭介の視点で描かれてるから、心情が見えない辰也が不気味に感じました。
圭介の視点には 「龍」 が出てきます。・・・始めはリアル感に欠けると思ったけど、圭介や辰也の心の問題なんですよね、これは。
誰かを恨みながら水の中で死ぬと龍になる。
辰也も圭介も千葉の海で死んだ母は龍になったと思い込んでいました。辰也は継母を疑い、圭介は母が死んだのは自分のせいだと思い込む。
龍と聞くと怖いし、あまり会いたくはないけど、最後に辰也が見た龍は辰也を助けるために現れたのかなと。
龍は辰也に言っていた。聞こえない声で語りかけていた。行動しろ。行動しろ。行動しろ
もしも行動を起こさなかったら、どうなっていただろうとヒヤリとしたよ。
楓の後悔と真実
楓のひとことが切なく響きました。
「何で、こんなことになっちゃったのかな」
本当に何でこんなことになっちゃったんだろうね・・・。すれ違いが招いた結果でした。
蓮や楓、継父の睦男がもっとコミニュケーションをとっていれば、こんなことにはならなかったかもしれません。
全てはひっくり返るんですよね、清々しいくらいに。
- 楓は睦男を殺してはいなかった
- 睦男は楓を汚してはいなかった
- 脅迫状の差出人は辰也ではなかった
- そして、狂っていたのは半沢だった
最後の半沢のひとことがガツンときました。睦男を殺したのは蓮―。
救われないなぁ・・・。半沢の最後の言葉、道尾さんらしい。
『龍神の雨』哀しい結末|もしも雨が降らなければ、運命は変わっていたのか?
蓮と楓の運命の歯車が狂いだしたのは、母の死がきっかけでした。それも全てが 「雨の日」 です。
- 母は交通事故を起こさずにすんだ
- 睦男は家に居らず、死ぬことはなかった
- 楓は死んだ睦男を発見しなかった
- 半沢は、あのビルに楓や辰也を連れていかなかった
タラレバだけど、そう考えてしまう蓮の気持ちも分からなくはないです。でも行動をを決めたのは蓮なんですよね。
「雨」 のせいではない。たまたま 「雨」 だっただけです。
蓮もそれは分かっていて。それなのに、もしも・・・と考えずにいられない彼の気持ちに切なくなりました。
『龍神の雨』心に響いた言葉
最後に心に響いた言葉です。
何が正しいかなんて誰にも判断することはできない。しかし行動の結果は思わぬかたちとなって牙を剥き、人の運命を一瞬でコントロールしようとする
行動を起こすとき、何が正しいのかは誰にもわかりません。その行動によって良い方に転べばいいけど、逆に転ぶこともあるわけで。・・・だから悩む。
行動によって伴うことは、誰のせいでもなくて自分の責任なんだよね。
『龍神の雨』での蓮の行動、楓の行動は良い方に転ぶどころか真逆に転んでしまいました。結果、思わぬ形で牙をむき、蓮や楓の運命を一瞬のうちに狂わせてしまった。
人を殺めた罪は償わなければなりません。哀しい結末です。
唯一の救いは辰也と圭介の家族かな。うまくいってほしいね。