『琥珀の夏』ネタバレ感想文・あらすじ|ミライの学校をめぐる心理ミステリー|辻村深月
- 『琥珀の夏』あらすじと感想文
- 〈ミライの学校〉について
- 大人になった子どもたち
- 琥珀に閉じ込めた時間
- 発見された白骨死体と隠された真実
- 中と外、子どもと大人の視点
- 感動の結末
ネタバレあります。ご注意ください。
『ずっとトモダチ』って言ったのに。罪を記憶に閉じ込めて、私たちは大人になった
辻村深月さんの小説『琥珀の夏』読書感想です。ミステリー小説というより、子ども時代を起点にして心理描写に重きをおいた物語。心理戦ですね。面白かったです。
たくさん号泣したよ。
2人の登場人物を主軸として心理描写が描かれていました。感情が揺れ動きます。
『琥珀の夏』あらすじ
あの夏、何があったのか?
かつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見された子どもの白骨死体。弁護士の法子は、遺体が自分の知る少女のものではないかと胸騒ぎをおぼえる。小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿。そこには自主性を育てるために親と離れて共同生活を送る子どもたちがいて、学校ではうまくやれない法子も、合宿では「ずっと友達」と言ってくれる少女に出会えたのだった。もし、あの子が死んでいたのだとしたら……。
『琥珀の夏』ネタバレ感想文|琥珀の中の時間〈ミライの学校〉
美夏(ミカ)と法子(ノリコ)です。
この小説での重要な要素〈ミライの学校〉で2人は出会いました。
〈ミライの学校〉は、ある団体が経営する「学び舎」。子どもの自主性を伸ばすために、両親から切り離して「先生」と呼ばれる人たちが育てる場所です。
一見、宗教団体のようにも感じてヒヤリとした。
そこで育つ子どもはみんな賢いんですよね。でも一番親が必要な幼少期を親なしで育つのはどうなんだろ・・・と、危うい感じもしました。
〈ミライの学校〉で育てられたミカと、合宿のようなカタチで夏に一週間を過ごしたノリコ。幼少期と大人になってからの彼女たちが交互に描かれています。
大人になった〈ミライの学校〉の子どもたち
〈ミライの学校〉で育った子どもたちが大人になったとき、浮かび上がった問題に戦慄しました。
成長しても、そこから出られなくなること。
学び舎は閉鎖的な環境です。義務教育を受けるために麓の小中学校には通うけど、基本的に〈ミライの学校〉の世界で育つ。
外の世界を知らないから、そこを出るのにはとても勇気がいりますね。
美夏もそうでした。彼女は両親と会いたいと願っていたのに、母親になったときに自分の子どもを〈ミライの学校〉に入れたのです。
幼少期のミカは、あれだけ寂しがっていたのに、なぜ?
大人になっても〈ミライの学校〉の運営に携わり、そこから離れられない彼女を見ていると切なくなりました。
琥珀に閉じ込めた時間
夏休みに学び舎で合宿として一週間を過ごしたノリコも大人になります。彼女の中で〈ミライの学校〉は、キラキラした思い出の場所でした。
でも、後に発覚した「水の問題」や学び舎で見つかった女児の白骨遺体が美しい思い出に影をさす・・・。
大人になった美夏と思わぬカタチで再開した法子。想像していたミカとは全く違う人物になっていたことに驚きます。
〈ミライの学校〉という組織の中に彼女たちを閉じ込め、時を止めて、思い出を結晶化していたのと同じことだ。琥珀に封じ込められた、昆虫の化石のように
〈ミライの学校〉は、法子にとって琥珀のように美化された思い出だったんだね。
過去の思い出ってキラキラした宝石のようなものかもしれません。全部が美化されて、切り取られた別空間に感じる。・・・実際は、その後も時間は流れているんですけどね。
『琥珀の夏』というタイトルに美しさと切なさを感じました。
大人になった法子や美夏にも、あの閉鎖的な学び舎の環境が大きな影響を及ぼす。特に美夏は、自分の罪を閉じ込めて大人になってしまったのだから・・・。
事件か事故か、発見された白骨死体|隠された真実
〈ミライの学校〉で発見された女児の白骨死体をめぐり、ミステリー感もある『琥珀の夏』。弁護士になった法子は白骨死体の身元調査をすることになります。
見つかったのは、ミカちゃんなんじゃないか。私も、あの夏、あそこにいた
心配になるよね。
結論を書くと、ミカではありませんでした。白骨死体はミカと時を同じくして学び舎にいたヒサノちゃんです。
久乃の死は、事件か、事故か。
一部の子どもたちの間で起こったトラブルにより、井川久乃は命を落とし、視察から戻ってきた大人たちは、躍起になってその死を隠蔽したのではないか
大人たちが不在のときに起こったことだけど、遺体を埋めた大人がいたことになります。これは立派な隠蔽ですね。
子どもの未来を守るためと言っても、守れてないし・・・。
遺体を埋めることを「埋葬」と表現している大人たちの感覚にヒヤリとしました。・・・それは犯罪だからね。
〈ミライの学校〉中と外、子どもと大人の視点
『琥珀の夏』で強く印象に残った〈ミライの学校〉について、中と外が描かれているのも面白かったです。
- 学び舎の中での子どもたちの視点
- 白骨死体が発見されてからの外の視点
中で育った子どもたちは、大人になっても学び舎を否定してないんだ。
親と離れて暮らすことに寂しさを感じてはいるけど、問答や学び舎の生活は楽しかったと言う成長した子どもたち。
彼ら彼女らにとっては〈ミライの学校〉はホーム同然です。否定されると、それはそれで悲しい。
一方、外の視点は厳しいものでした。水の問題、白骨死体が見つかっては当然かもしれません。
ボクも中の様子を知らなければ、胡散臭く感じるかも。
子どもの視点と大人の視点も交互に描かれていてたくさん感情移入しました。
- ミカ(幼少期)→美夏(大人)
- ノリコ(幼少期)→法子(大人)
カタカナのミカ、ノリコは〈ミライの学校〉で過ごした幼少期の美夏と法子です。彼女たちが成長して子どもを産み、母親目線でみた〈ミライの学校〉。
母親になった法子が、自分の子と離れて暮らすことなんてできないと思うのは普通の感情でホッとしました。
〈ミライの学校〉の理念は紙一重ですね。良い部分もあるけど、宗教みたいな怖さもあってヒヤリとします。
感動の結末|ずっとトモダチ
美夏は久乃の両親から訴えられ、法子が彼女を弁護するラストに号泣。・・・ラストだけでなく、後半はほとんど泣きながら一気に読みました。
責任を負わなければいけないのは大人たちです。あなたは何も悪くない!
信じられないけど、子どもたちを放置して数日不在にしていた〈ミライの学校〉の大人たちが悪い。
法子の力強いことばに美夏は救われたに違いありません。離れていたけど、心のどこかに引っかかっていた美夏と法子の友情がまた復活しました。
「ずっとトモダチ」と約束した学び舎での夏。紆余曲折あったけど素敵なラストでした。