怖さ60%、切なさ40%のミステリー小説
道尾秀介さん『スケルトン・キー』
かなりダークなお話でした。でも、最後はやはり道尾さん。切ない中でも温かいラストです。
少しだけネタバレあります。
『スケルトン・キー』あらすじ
道尾さんが描く切ないサイコパス
【あらすじ】
サイコパスの自覚がある坂木錠也は、週刊誌記者のスクープの手伝いをしていた。この仕事を選んだのは、自分の狂気を抑え込むことができるから・・・。ある日、1本の電話から日常が変わりはじめた―。
『スケルトン・キー』感想
読みやすかったです。展開がスピーディ。ほぼ、一気読みでした。でも途中、えっ!?・・・となって、思わず戻って読み返してしまいました。
・・・そうだった、騙しのプロ・道尾さんの本なんだよね。なんの疑いもなく読んでいたら、途中で衝撃を受けます。迂闊でした。
もしも・・・だったら
最近、「もしも・・・だったら」 というパラレルワールドものが続きました。道尾さんの『鏡の花』、今野さんの『遠い国のアリス』、今ハマっているアニメ『シュタゲ』。
『スケルトン・キー』は、パラレルワールドではないのですが、「もしも」 を思わせる小説です。
そんなことを考えてしまいました。結末は変わらなかったかな。それとも変わっていた?
錠也の心情
小説のテーマ
テーマはサイコパスです。
サイコパスを描いた本というと、真っ先に思い浮かぶのが貴志祐介さんの小説です。『悪の教典』と『黒い家』。・・・この2冊は本当に怖かった。
正直に言うと、サイコパスものだったらこの2冊の方がピカイチです。
でも道尾さんのはちょっと違う。貴志さんの小説は怖さ100%で、道尾さんの小説は怖さ60%、切なさ40%といった感じです。
興味深かったのは、サイコパスの要素を持った主人公・錠也の心情が痛いくらいに描かれていること。
怖いという感情を、僕は持ったことがない。
感情が欠如しているため、罪悪感や他者への思いやりがなく自分本位に振る舞う。心拍数を上げることで、自分の狂気を抑え込むことができる・・・というのは初耳でした。
錠也は自分が危険な人物であると認識したサイコパスです。心拍数を上げるために薬を服用したり、自分がなぜこのようになってしまったのかと悩んでいました。
- 自分がこうなったのは、鉛の影響なのか
- サイコパスは遺伝するのか
少しだけ余談
心情が描かれている小説って、登場人物に肩入れしてしまいます。反対にそれが描かれていなければ不気味さを感じたりする。
東野圭吾さん『白夜行』が特殊な描かれ方をしていて、ふと頭に思い浮かびました。
ドラマ&映画にもなっています。小説は心情が描かれていないのに対し、ドラマは心情を重視していました。(←描かれ方でこんなにも変わるんだとビックリした作品です)
- 小説 → 作家・東野圭吾の手腕を大いに感じられる
- ドラマ → 切なくて涙がかれるほど感動する
小説もドラマも大好きな作品です。本書とは全く関係がないのですが、『スケルトン・キー』はサイコパスの心情が描かれている小説だったので。
・・・余談でした。では、レビューに戻ります。
あるかもしれない!?サイコパスの要素
衝撃の怖さ
先ほど怖さ60%、切なさ40%と言いましたが、60%でも衝撃の怖さがあります。
錠也以外の登場人物たちが怖かったです。でもそういう人って、案外身近にいたりするものなのかなとヒヤリとしました。
例えば、過去の歴史の中で大きな事を成し遂げた人たちには 「サイコパスが多い」 と言われています。
良心が薄いから、他者の気持ちを無視して自分本位に物事を考える。その結果、成功するわけです。・・・傍目には人気者のように見えたりするようですね。
そう言えば、貴志祐介さん『悪の教典』の蓮実聖司もそうでした。

ハスミンの爽やかキャラに面食らいましたが、徐々にサイコパスぶりが発揮されます。
サイコパスと一括りにしましたが、実際は 軽度から重度までさまざまです。錠也みたいな人だっているし、全く良心を感じない人だっている。
聖人君子みたいな人ってなかなかいない。誰だってサイコパス要素を持っているのかもしれません。ひだまりさん。も、自分の気持ちを最優先にしてしまうことあるから・・・。
スケルトン・キーと鍵穴
道尾さんの小説を読むと、必ず意識してしまうのがタイトルです。道尾さん、タイトルに意味を含ませるのが上手いですよね。
錠也が亡くなった母から託されたスケルトン・キー。・・・実は同じ鍵がもう一つありました。
丸い軸に四角い歯がついたシンプルな鍵。ほとんどのウォード錠は、スケルトン・キーで開けることができる。
英語では “合い鍵” の意味でも使われるとか。
鍵がある・・・ということは、どこかにその鍵にぴったりな鍵穴のついた錠もあるということになりますね。そうすると人の心理として鍵穴を探したくなる。そこには何があるのかとワクワクします。
鍵のかかった小箱の中身
ミステリー小説は鍵のかかった小箱のようなもの
いろんなところに謎やヒントが散りばめられていて、読者はその鍵を拾いながら小箱を探し、やがて結末に行きつく。
錠也に託されたスケルトン・キーは、最後にぴったりハマる鍵穴に行きつきます。そこには道尾さんが仕掛けた感動が待っているんです。
・・・それは書きませんので、ぜひ本を読んで余韻に浸っていただけたらと思います。