『未明の砦』ネタバレ感想文・あらすじ|共謀罪で逮捕!?非正規社員vsブラック企業|太田愛
- 『未明の砦』あらすじと感想文
- 非正規社員vsブラック企業、労働者の悲痛な叫び
- 「共謀罪」労働組合結成の裏で画策された陰謀
- 〈夏の家〉でのひととき
- 心に響いた言葉
ネタバレあります。ご注意ください。
俺たちは、心と感情を持った生きた人間なんだ
太田愛さんの小説『未明の砦』読書感想です。太田さんの本は『犯罪者』に続き、『幻夏』『天上の葦』『彼らは世界にはなればなれに立っている』と読んできました。どれもメッセージ性があり面白い。
『未明の砦』は非正規社員とブラック企業を扱った物語です。
ここで描かれた会社は超ブラック企業。非正規社員を使い捨てとしか思ってなくてムカついたけど、ラストは良い余韻が残りました。
今回もズン・・・と心に響いたよ。読み応えがあっておすすめ。
『未明の砦』あらすじ
非正規社員vsブラック企業
その日、共謀罪による初めての容疑者が逮捕されようとしていた。動いたのは警視庁組織犯罪対策部。標的は、大手自動車メーカー〈ユシマ〉の若い非正規工員・矢上達也、脇隼人、秋山宏典、泉原順平。四人は完璧な監視下にあり、身柄確保は確実と思われた。ところが突如発生した火災の混乱に乗じて四人は逃亡する。誰かが彼らに警察の動きを伝えたのだ。所轄の刑事・薮下は、この逮捕劇には裏があると読んで独自に捜査を開始。一方、散り散りに逃亡した四人は、ひとつの場所を目指していた。千葉県の笛ヶ浜にある〈夏の家〉だ。そこで過ごした夏期休暇こそが、すべての発端だった―。
『未明の砦』ネタバレ感想文|非正規社員vsブラック企業
『未明の砦』は、大手自動車メーカー〈ユシマ〉で働く非正規工員の過酷な環境(待遇)が描かれていました。
しかもここで描かれた大手自動車メーカーが超ブラック企業なんだ。
労災を認めない、死人まで出る過酷な労働環境。・・・ブラックすぎて、めまいがしてきます。非正規だから言いたいことも言えず、企業の良いように扱われる。
自分たちのような非正規社員は、その時々の景気や企業の都合、換言すればどう転んでも自分ではどうすることもできない状況によって雇われたり切られたりする存在だ
この文章、心にズンときます。
私は超就職氷河期世代だから当時は就職難でした。今は正社員として働いてるけど、派遣や契約社員などであふれていたときもあって・・・。
『未明の砦』で描かれたことが、心にグサグサと刺さったよ。
労働者の悲痛な叫びに共感!
主人公は〈ユシマ〉の若い非正規工員・矢上達也。他に脇隼人、秋山宏典、泉原順平が中心となって物語は進んでいきます。
太田さんが描くキャラは人間味があって、感情移入できるんですよね。4人とも個性あふれていて好感が持てる人物でした。
あまりにも〈ユシマ〉がブラック企業すぎて、彼らに共感しまくりだった。
「俺たちはユシマ仕様の消耗品じゃない。労働者は、企業の利益のために生きてるんじゃない」
まるで彼らに人権がないような酷い扱いが目を引きました。しかもこの〈ユシマ〉は警察にもツテがあって、事実のもみ消しなんかも行われているからタチが悪いんです。
人が何人死んでもユシマは何の罪にも問われない。
これって恐ろしいことだ。
4人と親しくしていた工場の班長・玄羽昭一が過労で命を落としたときから、4人は動き始めます。
「共謀罪」労働組合結成の裏で画策された陰謀
4人が中心となり立ち上げた労働組合。彼らのひたむきな思いには胸を打たれました。でも目立ちすぎた彼らは、なぜか事件の容疑者にされてしまうんです。
共謀罪の適用。
「共謀罪」って、犯罪の相談をしていたら逮捕されるやつだ。そんなことしてないのに。
働く人の待遇を良くしようと労働組合を立ち上げ、活動をしただけなのに共謀罪とは・・・。何かおかしなことになっていますよね。
これは労働運動を潰すための陰謀でした。
こんなの適用されたら、やってられないです。裏で陰謀をめぐらす輩もいれば、この事件はおかしい!と、裏の裏を探る刑事たちもいて。
4人の行方を追う薮下&小坂刑事がカッコよかったよ。
太田さんが描く刑事たちも好きです。
2人の刑事と彼らは最後の方で出会うのだけど、ずっと彼らの気持ちに寄り添いながら捜査してきたから、出会う前から4人のことを理解してるところとか。
ブラック企業や陰謀が渦巻くなかで、薮下&小坂刑事の捜査も描かれていたから安心して読むことができました。
〈夏の家〉でのひととき|読後にもう一度読みたくなったシーン
読後にもう一度読みたくなったシーンがあります。
玄羽昭一に招待され、4人が絆を深めた〈夏の家〉でのひとときです。
労働組合を立ち上げた〈ユシマ〉非正規工員・矢上、脇、秋山、泉原の4人は同じ工場で働いているけど、一緒につるむ仲ではありませんでした。でも〈夏の家〉で過ごしたときから絆が深まる。
全体的に重いストーリー展開ながら、第2章のはじめはほのぼのとしていて心安らぐんです。
バーベキュー、お墓参り、文庫のねえさん・・・など。
バーベキュー、楽しそうだったな。
彼らの辛い過去が明かされて、一番心打たれたのも夏の家での出来事です。なんとなく読後にもう一度、夏の家での描写を読みたくなりました。
この感覚、『幻夏』でも味わったかも。
同じく太田愛さんの小説『幻夏』を読んだときに感じた切なさとほろ苦さ。そして、ひと夏が輝いていたこと。読後にもう一度、彼らのひと夏に思いを馳せたくなる感覚。
そういうものを、この『未明の砦』でも感じました。
全く違う物語なんだけど、しっかり心に残った。
『未明の砦』心に響いた言葉
主人公・矢上が工員に呼びかけた言葉が胸に響きました。
「俺たちは、心と感情を持った生きた人間なんだ」
今まで使い捨て同様に扱われてきた工員の待遇や大切な人の死など、やるせない思いがこの言葉から伝わってきます。
入社したらブラック企業だった・・・なんて話はよくあるけど、そんな会社を作らせないことも大切だ。
非正規社員vsブラック企業を描いた『未明の砦』、心に刺さる良い物語でした。おすすめです。