- 宮部みゆきさんの小説『楽園』(下) あらすじと感想
- 土井崎夫妻の動機
- 苦しむ家族たち
- 「楽園」と「代償」について
- ほっとした結末
少しだけネタバレあります。
少年の目には何が見えていたのか。少女の死は何を残したのか。
宮部みゆきさん『楽園』(下) 感想です。前回に続き下巻のレビューです。『模倣犯』から9年。上巻では 等の他人の記憶を「見る」能力を認めた滋子ですが・・・。
下巻では土井崎夫妻が茜を手にかけなければならなかった理由、そして等がだれの記憶からそれを「見た」のかが明らかになりました。
前回のレビューはこちら
『楽園』(下) あらすじ
土井崎家を襲った悲劇の真実とは―。
16年前、土井崎夫妻はなぜ娘を手にかけたのか。そして等はなぜその光景を描いたのか。理由を探っていく滋子。その結果、たどり着いた驚愕の結末とは・・・。
『楽園』(下) 感想
とても悲しくてやり切れない。土井崎夫妻の理由が書かれた部分では心が沈みました。
だからと言って許される訳ではないけれど「じゃあ、どうすればよかったのか」と問われたら答えに詰まってしまいます。
それぞれの「喪の仕事」

上巻のレビューで、この作品はそれぞれの「喪の仕事」だと書きました。
荻谷敏子は亡くなった等に対しての。滋子は敏子と等を通して9年前の誘拐事件に対しての。土井崎夫妻は自らが手にかけた娘に対しての。誠子は今まで知らなかった姉に対しての・・・。
それぞれの「喪の仕事」です。
滋子にとっても、あの “山荘” を描いた等くんの短い人生をたどっていくことで、ようやく折り合いをつけれたんじゃないかな。
浮かび上がる土井崎夫妻の動機
下巻も一気に読んでしまいましたが、私が知りたかったのはただ1つです。
土井崎夫妻が娘の茜を手にかけたのはどうしてか?
調べていくうちに浮かび上がる「シゲ」と「三和明夫」という人物。そして もう1つの時効―。
頭をガツンと殴られたような衝撃が走りました。(再読なのに再び衝撃を受けた私です。) ・・・そうだった。
やっと事件が1本の線で繋がったというのに気分が晴れないのは、夫妻の絶望と苦しみが想像するに余りあるからです。
最後の方に書かれていた土井崎尚子 (茜の母) の告白に目を離せませんでした。・・・こんな結果になってしまったけど、2人の娘を愛していたゆえの行為だったのでしょうね。
苦しむ家族たち

2冊通して印象に残ったこと。
もしも身内のなかに罪を犯してしまった者がいたら?
「あおぞら会」の荒井事務局長が言った悲痛な叫びを聞いていたら切なくなりました。
東野圭吾さんの『手紙』を思い出しました。自分の家族を守るために罪を犯してしまった兄と縁を切った弟が描かれています。

『楽園』の荒井事務局長の言葉に、もしも身内に犯罪者が出てしまったら・・・と考えずにはいられませんでした。
幸いなことに 私はそういった立場に立ったことがありません。でも本の登場人物たちの戸惑いとやり切れなさは充分すぎるほど伝わってきました。
全く趣旨のちがう『楽園』と『手紙』。共通しているのは、そのために苦しむ家族たちがいることです。
世の中の人の数だけ対応もある。1つ言えるのは 自分が犯罪を犯すことで周りの人の人生も狂わせてしまうということです。
それだけは避けたいですよね。
「楽園」と「代償」
罪を犯しても人間は幸福を求める生き物なのかもしれません。でもそうして求めたものが必ずしも「本当の幸福」とは限らない。
こんな文章がありました。
誰かを切り捨てなければ、排除しなければ、得ることのできない幸福がある。
悲しいことですが確かにそれは存在します。娘を手にかけた土井崎夫妻のように。「模倣犯」のヒロミやピースのように。
等が描いた「楽園」と「代償」。
幸せを得るには 小さくも大きくも何かしら犠牲が生じるもの。でもそこまでして得たものは本当に彼らが求めた「楽園」だったのかどうか・・・。
それでも求めてしまうのが人間というものかもしれません。
ホッとした結末
『模倣犯』よりは衝撃を受けませんでしたが、ため息をついてしまうほど苦しい物語でした。でもラストは 救われました。
WOWOWでドラマ化されました。主人公の前畑滋子を演じるのは 仲間由紀恵さんです。原作を壊さず描かれていたので良かったです。



他にもあります
