『楽園(上)』宮部みゆき|あらすじと感想|前畑滋子ふたたび!『模倣犯』続編
- 『楽園』(上) あらすじと感想文等が描いた不思議な絵
- 気になる謎
- よみがえる『模倣犯』山荘の記憶
- 思わず泣いたところ
- 他人の記憶を「見る」力
少しだけネタバレあります。
「模倣犯」から9年―。少年が描いた絵の真相とは・・・。
宮部みゆきさん『楽園』(上) 感想です。『模倣犯』から9年。続編というよりはスピンオフのような物語でした。
この間『模倣犯』のドラマを見て、続編である『楽園』も読みたくなりました。以前に読んだのがかなり前だったので、ほとんど忘れていた私。新鮮な感じで読めました。
まずは上巻のレビューだよ。
『楽園(上)』あらすじ
ライター・前畑滋子、再び
『模倣犯』から9年。ライター・前畑滋子は、未だ事件のダメージから立ち直れずにいた。そんなときに、彼女の元に奇妙な依頼が・・・。
『楽園(上)』ネタバレ感想文
前作『模倣犯』で見事にピースの悪事を暴いたライター・前畑滋子、再び。
上下巻と読み終わったけど、悲しみが後をひきますね。
最後の東雅夫さんの解説を読んで、これは彼女の・・・いや彼女だけではなく、誠子や土井崎夫妻、そして荻谷敏子、登場人物それぞれの「喪の仕事」なのではないかということに気づきました。
それについては、下巻のレビューで触れてるよ。
等が描いた不思議な絵
『楽園』は、一つの大きな事件を軸に展開されます。
きっかけは、ある奇妙な依頼でした。荻谷敏子の亡くなった一人息子・等には超能力があったのではないか、それを調べてほしいというものです。
等が描いた不思議な絵には、家の中で眠っている女の子が描かれていました。
顔は灰色に塗りつぶされていて女の子は生きていないような絵。その家の屋根には「バットマン」のマークのような蝙蝠の風見鶏がついていました。そしてその家は人殺しがあった家だといいます。
等は事件が発覚する以前から行ったこともないこの家の絵を描いていたようでした。まるでそこに少女が埋められているのを知ってるかのように・・・。
『模倣犯』ではヒロミが姉の幽霊を見たりしてたよね。今回は超能力。
現実とはかけ離れてるような気もするけど、面白くて読むのをやめられないんです。このことがきっかけとなり、滋子はその事件を調べることに・・・。
気になる謎
等が描いた絵の眠っている少女は土井崎茜です。土井崎夫妻が殺して埋めた実の娘。
上巻では様々な謎が描かれています。気になったことをまとめました。
すべては下巻で明らかになります。茜の事件は思いもよらない真相で、途方もなく悲しくなりました。
茜のように上手く折り合いがつけられずに非行に走ってしまう子供はたくさんいるんだろうな。
ほんの少しのすれ違いがとんでもない事になってしまう。『模倣犯』もわりと残酷な物語だったけど『楽園』もでした。
よみがえる『模倣犯』山荘の記憶
あの誘拐事件は悲惨すぎた・・・。9年経った今も、立ち直れない滋子の心情が描かれていました。
不安定な気持ちを抱えたままの彼女が目にした1枚の絵。それもまた等が描いたものでした。
あの “山荘” です。『模倣犯』の舞台になった、ピースの母が所有していた別荘の絵。
この部分を読んだ時、ヒヤリとしたよ。
『模倣犯』はかなり衝撃的な作品でした。残酷な物語だけど、宮部さんの作品の中では好きな作品上位に占めるほどです。
やっぱり、前作『模倣犯』は切り離せないよね。
でも本作のメインは、あくまで茜の事件と等の不思議な能力です。”山荘”については、ほんの少しの描写でした。彼女があの誘拐事件とどう折り合いをつけていくのかも上巻の読みどころです。
ひとり残された者
土井崎夫妻の次女・誠子の思いが書かれているシーンに泣きました。
親からは何も真実を教えて貰えないまま、ひとり残された誠子。知りたいと思うのは当然の心境ですね。
土井崎夫妻が警察に告白したことで殺人者の娘となってしまった彼女は、それが元で離婚をしなければなりませんでした。
姉のことも、どうしてそんな事に至ったのかも知らないままに・・・。
どうして両親は茜を殺されなければならなかったんだろう?
他人の記憶を「見る」力
等には他人の記憶を「見る」能力が本当にあったのか?
子供のためのボランティア団体・あおぞら会に目をつけた滋子。そこで話を聞くうちに等の能力は本当にあったのではないかと確信に至ります。
彼はだれの記憶から茜が埋められているのを知ったのかな?
もしも等に特殊な能力、他人の記憶を「見る」力があったとしたら・・・。
山荘の記憶や茜事件の記憶のような怖いものばかりじゃなくて、例えばお母さんと共有するような楽しいものもあるだろうけど辛いですね。
上巻はまた良いところで終わるんです。結末が気になりました。