- 辻村深月さんの小説『オーダーメイド殺人クラブ』あらすじと感想
- 軽視される命
- アンバランスな心
- 自分の居場所
少しだけネタバレあります。
悲劇の末に・・・。
辻村深月さんの小説『オーダーメイド殺人クラブ』感想です。成長期である少年少女の苦い青春が描かれていました。自分の殺人を依頼する―。頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。
『オーダーメイド殺人クラブ』あらすじ
少年少女の苦い青春
「リア充」な生活を送る中学生・小林アンは、自分の環境に苛立ちを感じていた。そんな中、同級生の徳川に自分の殺害を依頼するのだが・・・。
『オーダーメイド殺人クラブ』感想
辻村さんならではの痛切な心理描写に心が乱されました。正直、主人公の気持ちにはあまり共感することが出来なかったです。
途中で読むのを止めてしまおうかと思いつつも最後まで読んだのは、2人の結末が気になったからです。
軽視される命

最も悩まされたのが「軽視される命」についてでした。
主人公の中学生・小林アンは 冴えない昆虫系・徳川に自分の殺人を依頼します。アンは自殺願望が強い女の子でした。
読んでいて悲しくなりました。死にたい―と思ったことは私にもあります。たぶん誰しも一度くらいはあるのではないでしょうか。
三重県で起こった悲しいニュースを思い出しました。女子高生に頼まれて18歳男の子が殺人を犯してしまったという事件です。自殺願望があった少女。
中学生や高校生の時って見えている世界はまだほんの少しです。これから人生経験を積んでいくことで視界も広まる。
彼女たちにとっては その小さな世界が全てだということは分かりますが、あえて言いたいです。死なないでと。
アンバランスな心
理解に苦しんだ箇所があります。アンが抱く死への憧れです。
徳川と2人で起す事件の内容を話しあっていました。「新しいパターン」にこだわり、世間を騒がしたい、自分は他の人とは違うんだという気持ち・・・。
自己愛など自由な発想をしてしまいがちな時期。「自分は他人とは違う特別な存在」という意識は、中学生であるアンも抱いています。
辻村さんは 少女の自己愛に満ちた心理描写が上手いですね。中学生だからこそ抱いてしまうアンバランスな心。
誰も尊敬なんてしない。どんな事件を起こしても語り継がれることなんてありません。一線を超えることと超えないことでは大きな違いがあります。
自分の居場所

なぜ主人公はそんなに自殺願望がつよいのか?
周りからはリア充のように見える彼女。でも本当は自分の居場所がなくて苦しんでいました。
女子ってグループを作って行動します。トイレに行くのも一緒。私の中学時代を振り返ってみても確かにそうでした。
アンは仲間はずれにされてしまいます。現実から逃れたいがために死への憧れは強まる。『ゲド戦記』の翻訳者・清水真砂子さんの言葉が思い浮かびました。
「給食を一人で食べてかわいそうと新聞は言うが、そうなのか。一人だからこそ豊かな時間を過ごせるという価値観があることを 周りの大人が知らせていたら、あの子どもは苦しまずにすんだのに」
初めて読んだ時、グッときたのを覚えています。大人になった今だからこそわかる1人の豊かな時間。アンにも伝えてあげたくなりました。
悲劇の果てに
『オーダーメイド殺人クラブ』は中学生が過ごす狭い世界で繰り広げられるお話です。あまり共感ができなかったのは、私が大人だからかもしれません。
途中まで読むのが苦しかったです。でも読み終わってみると意外にも読後感が良いことに気づきました。
当事者である中学生に読んでもらいたいかと聞かれると悩みます。良い方向に考えてくれればいいけど、逆だったら少し怖い。


