『オーダーメイド殺人クラブ』あらすじとネタバレ感想|悲劇の末に・・・|辻村深月
- 『オーダーメイド殺人クラブ』あらすじと感想文
- 軽視される命
- アンバランスな心
- 自分の居場所
少しだけネタバレあります。
悲劇の末に・・・。
辻村深月さんの小説『オーダーメイド殺人クラブ』感想です。自分の殺人を依頼する―。頭をガツンと殴られたような衝撃を受けました。
成長期の少年少女の苦い青春が描かれた小説。
リアル感があってヒヤリとしたよ。
『オーダーメイド殺人クラブ』あらすじ
少年少女の苦い青春
「リア充」な生活を送る中学生・小林アンは、自分の環境に苛立ちを感じていた。そんな中、同級生の徳川に自分の殺害を依頼するのだが・・・。
『オーダーメイド殺人クラブ』ネタバレ感想文
辻村さんならではの痛切な心理描写に心が乱されました。正直、主人公の気持ちにはあまり共感することが出来なかったです。
途中で読むのを止めようかと思いつつ最後まで読んだのは、2人の結末が気になったから。
軽視される命
最も悩まされたのが「軽視される命」についてでした。
主人公の中学生・小林アンは冴えない昆虫系・徳川に自分の殺人を依頼します。アンは自殺願望が強い女の子。
読んでいて悲しくなりました。死にたいと思ったことは私にもあります。たぶん誰しも一度くらいはあるのではないかな。
今は生きていて良かったと思う。
中学生や高校生の時って見えている世界はまだほんの少しなんですよね。これから人生経験を積んでいくことで視界も広まります。
彼女たちにとって、その小さな世界が全てだということは分かるけど、あえて言いたい。死なないでと。
アンバランスな心
理解に苦しんだ箇所がありました。アンが抱く死への憧れです。
徳川と2人で起す事件の内容を話しあっていました。「新しいパターン」にこだわり、世間を騒がしたい、自分は他の人とは違うという気持ち・・・。
中学生というと中二病という言葉があるように、思春期で難しい年頃。
自己愛など自由な発想をしてしまいがちな時期です。「自分は他人とは違う特別な存在」という意識は、中学生であるアンも抱いていました。
辻村さんは少女の自己愛に満ちた心理描写が上手いですね。中学生だからこそ抱いてしまうアンバランスな心が伝わってきます。
でも殺人で話題になることを望むなんて馬鹿げてる。
誰も尊敬なんてしないし、どんな事件を起こしても語り継がれることなんてありません。一線を超えることと超えないことでは大きな違いがあるんです。
自分の居場所
なぜ主人公はそんなに自殺願望がつよいんだろう?
周りからはリア充のように見える彼女。でも本当は自分の居場所がなくて苦しんでいました。
女子ってグループを作って行動しますよね。トイレに行くのも一緒。私の中学時代を振り返ってみても確かにそうでした。
群れていないと不安な気持ちになるのはわかるんだ。
アンは仲間はずれにされます。現実から逃れたいがために死への憧れは強まる一方・・・。『ゲド戦記』の翻訳者・清水真砂子さんの言葉が思い浮かびました。
「給食を一人で食べてかわいそうと新聞は言うが、そうなのか。一人だからこそ豊かな時間を過ごせるという価値観があることを 周りの大人が知らせていたら、あの子どもは苦しまずにすんだのに」
初めて読んだ時、グッときたのを覚えています。大人になった今だからこそわかる1人の豊かな時間。
アンにも伝えたくなった。
『オーダーメイド殺人クラブ』悲劇の果てに・・・
『オーダーメイド殺人クラブ』は中学生が過ごす狭い世界でくり広げられるお話。
あまり共感ができなかったのは、私が大人だからかもしれません。
途中まで読むのが苦しかったです。でも読み終わってみると意外にも読後感が良いことに気づきました。
この結末は好き。
当事者である中学生に読んでもらいたいかと聞かれると悩みます。良い方向に考えてくれればいいけど、逆だったら少し怖いから。