『リフレイン』ネタバレ感想文・あらすじ|人を殺めることの是非とメリエラの理念|沢村凜
- 『リフレイン』あらすじと感想文
- 無人惑星でサバイバル生活&「イフゲニア」の裁判
- 人を殺めることの是非
- 「殺人」か「正当な死刑」か|裁判の共通点
- 実は深いメリエラの理念
ネタバレあります。ご注意ください。
あのときにミラドスを処刑することが罪ならば、どうすればよかったというのだ
沢村凜さんの小説『リフレイン』読書感想です。沢村さんの本は『黄金の王 白銀の王』がめちゃめちゃ面白くてハマり、こちらで2冊目。今度はSF小説です。
前半はサバイバルSFだけど、後半は社会派小説って感じで深い。ファンタジー小説『黄金の王 白銀の王』とは、また雰囲気が違いました。
『リフレイン』も面白かったよ。
『リフレイン』あらすじ
SF&社会派小説
一隻の船が無人の惑星に漂着したことからドラマは始まった。属す星も、国家も、人種も異なる人々をまとめあげたリーダーに、救援後、母星が断じた「罪」とは!?争いは人間の本能なのか?厳格な法なくして人は拳をおさめられないのか?信念を貫き通す男と、彼を愛するがゆえ、それを阻もうとする仲間たち。2つの“正義”がせめぎあう。
『リフレイン』ネタバレ感想文|「人を殺めること」の是非
『リフレイン』は、SFでありながらも社会派テーマを扱ったシリアスな物語でした。
テーマは「人を殺めること」の是非です。
人を殺めてはいけないけど、現実には様々な法律がありますね。「正当防衛」や「緊急避難」など、自分を守るためにやむなく・・・という法律。それが認められた場合、罪には問われなかったりします。
「正当防衛」や「緊急避難」などが法律としてない惑星がでてくるんだ。
その惑星では、たとえどんな理由があろうとも人を殺めれば必ず罪に問われる。法に則って被告を裁く人々と、救おうとする人々の相反する正義に胸が痛くなりました。
後半はシリアス展開だったよ。
無人惑星でサバイバル生活!?「イフゲニア」の裁判
前半は無人惑星のサバイバル生活が描かれていて、SF感満載でした。
宇宙船「イフゲニア号」が事故により宇宙で遭難。無人の惑星に不時着するけど、乗客231人は助けがくるまでサバイバル生活を送ることに・・・。
弁護士のラビル・アンフォードが中心となり、ひとつの国家「イフゲニア」が誕生します。
人々が安全に暮らすためには、ルール(法律)が必要なんだよね。
「イフゲニア」での裁判がシリアスでした。彼に反感を持ち、イフゲニアの人々を危機に陥れたミラドスが裁かれる。
裁判の判決は死刑―。ミラドスの願いで、それを実行したのはラビルでした。
印象に残ったのは、ラビルだけが最後まで反対していたことです。
『死』というものは、決してとりかえしのつかないものなんだ。後でどんなに悔んでも死んだものを生き返らせることはできないんだ。奪われた命は決して戻ってはこないんだ。一時の激情にかられて命の問題を決めてしまってはいけない。冷静に考えてみてくれ。ミラドスが何をした?
惑星の気候や特性もわからない中での生活は人々の余裕を奪う。ミラドスがいることでイフゲニア人の生活が脅かされるなら、その判決も致し方ないんじゃないかな。
・・・正直、途中まではそう思っていました。でもミラドスの死刑執行が後に大問題となり、ラビルを含めたイフゲニア人に襲いかかるんですよね。
ラビルがミラドス殺害の容疑で逮捕されるのです。
人を裁くことの重さを、ひしひしと感じずにはいられなかったよ。
逮捕されたラビル|問われる「人を殺めることの是非」
メリエラ星の法律にのっとり、逮捕されたラビル。彼はメリエラ人でした。物語の中盤からは、メリエラの理念が重要な要素になります。
我々は、どんな状況であろうと決して人を殺さないという理念を個人個人までが徹底して貫いてきたからこそ、いままで、どこの星とも戦わない強さを保つことができたのです
メリエラ星はどこの惑星とも戦わない平和なところ。メリエラ人ひとりひとりの徹底された思想が、それを可能にしていたのです。
だからラビルは最後までミラドスを裁くことに反対していたんだ。
このメリエラの思想、極端だけど心に刺さるものがありました。
「どんな状況であろうと決して人を殺さない」という理念をメリエラ人みたいにひとりひとりが持ちあわせていたなら、犯罪は減るんだろうなと。
まさに平和な星ですね。ただ、思想が偏りすぎな気もします。「どんな状況であろうと」の部分が・・・。
「正当防衛」や「緊急避難」など、自分を守る法律は必要だと思う。
「殺人」か「正当な死刑」か|裁判の共通点にヒヤリ
ミラドスの死は「殺人」か「正当な死刑」か。
結局、ラビルは第一級殺人罪の適用で終身刑になりました。メリエラの法律では、「イフゲニアでの正当な死刑」は認められず「殺人」としての判決がくだったのです。
ラビルを救おうとしてきたフレオンの気持が切なく響きました。
あのときにミラドスを処刑することが罪ならば、どうすればよかったというのだ。なけなしの食料をすべて提供して、飢えて死ねばよかったというのか
悩ましいです。あの状況ではミラドスの死刑は仕方ないんじゃないかと思ったから・・・。でもミラドスが裁かれた裁判と、ラビルが裁かれた裁判は共通点があるんですよね。
判決ありきの裁判のように感じたこと。
ミラドスの裁判は「死刑」、ラビルの裁判は「殺人罪で終身刑」。どちらも有罪判決以外にはないという雰囲気がただよっていてヒヤリとしました。
集団心理って怖いな・・・。苦味がのこる裁判だった。
『リフレイン』実は深い?メリエラ人の理念
自分の罪を認めるラビルに胸をうたれました。彼にとってメリエラ人であることは誇りなんです。
わたしはメリエラ人だし、メリエラ人であることを誇りに思っている。そして、メリエラ人でありつづけたいんだ
メリエラ人でありつづけたいからこそ、自分の罪を認めるラビル。
メリエラ人が持つ「どんな状況であろうと決して人を殺さない」という理念は、裏返せば「死はとりかえしのつかないもの」ということを誰よりも深く理解しているということでもあります。
この思想は大切。
メリエラ人は思想が極端で頑固というイメージのまま読んでいたけど、実は彼らの理念って深いかも・・・。
SFを飛び越えて社会派テーマまで扱っている『リフレイン』、すごいです。なかなか深い小説でした。