『三体Ⅱ黒暗森林』あらすじ・ネタバレ感想文【解説】フェルミのパラドックス
- 『三体Ⅱ黒暗森林』あらすじと読書感想
- タイトルの意味とフェルミのパラドックス
- 面壁計画
- 羅輯と想像の中の彼女
- 章北海の逃亡計画
- 三体探査機「水滴」
- 生き延びた〈青銅時代〉と〈藍色空間〉
- 結末と羅輯の呪文
ネタバレあります。ご注意ください。
面壁者が欺く対象は、敵も味方も含めた全世界。
劉慈欣さんのSF小説『三体Ⅱ黒暗森林 上下』読書感想です。前作『三体』の続き、3部作の第2部(上下巻)を読みました。下巻がめちゃめちゃ面白かったです。
「水滴」が出てきたあたりから面白くて止まらなくなった。
そしてタイトルの意味を理解したとき、鳥肌がたちました。「黒暗森林」は宇宙を指してるんですよね。タイトルの意味についても解説しています。
『三体』シリーズ他のレビューも書いてるよ。
『三体Ⅱ黒暗森林』あらすじ
中国SF小説『三体』第2部
人類に絶望した天体物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)が発信したメッセージを受け、侵略艦隊を地球へ送り出した三体人。太陽系到達は四百数十年後。未曾有の危機に直面した地球人類は、防衛計画の柱となる宇宙軍を創設。そして「面壁計画」を発動した。人類の命運は、4人の面壁者に託される。面壁者に選ばれた羅輯(ルオ・ジー)の決断とは?
『黒暗森林』タイトルの意味を解説|フェルミのパラドックス
三体シリーズ第2部では、フェルミのパラドックスが取り上げられていました。
フェルミのパラドックスとは、宇宙の年齢や膨大な恒星の数を考えると、地球のような惑星が存在している可能性が高いのに、宇宙人と全く接触した証拠がない矛盾。
タイトル『黒暗森林』はフェルミのパラドックスに対する答えを表しています。
攻撃されることを恐れているから。相手が自分の惑星を侵略しようと考えていなくても、文化も文明も違う異星人とはコミュニケーションがとれないから疑ってしまう。・・・だから接触しない。
居場所を明かさないか、もしくは明かしてしまえば最終的に相手を滅ぼしてしまった方が安心・・・という訳だ。
登場人物・羅輯(ルオ・ジー)の言葉が胸に刺さりました。
宇宙は暗黒の森だ。あらゆる文明は、猟銃を携えた狩人で、幽霊のようにひっそりと森の中に隠れている
宇宙は森で、そこに存在している文明は猟銃を携えた狩人。居場所がバレてしまえば攻撃されるから、幽霊のようにひっそり隠れている。・・・まさに暗黒の森ですね。
これがフェルミのパラドックスの答えでもあり、「黒暗森林」はフェルミのパラドックスの答えを暗示したタイトル。
自らの文明を三体世界に発信してしまった地球人。すでに地球に向かっている三体艦隊の目的は、侵略です。
『三体Ⅱ黒暗森林 上下』ネタバレ感想文|面壁者・羅輯と章北海
第1部『三体』は異星人とのファーストコンタクトが、第2部 『三体Ⅱ黒暗森林 上下』では、終末決戦に向けた防衛策が描かれています。
第2部まで読んで、第1部は序章にすぎなかったんだと気づいた。
『黒暗森林』、めちゃめちゃ面白かったです。第1部『三体』よりも。
- 羅輯(ルオ・ジー)・・・大学教授。面壁者に選ばれる
- 章北海(ジャン・ベイハイ)・・・宇宙艦〈自然選択〉艦長代行
私は、ジャン・ベイハイと読まずに、しょう・ほっかいと読む人です。同じく、羅輯はルオ・ジーじゃなくて、ら・しゅう。・・・その方が読みやすい。
史強(シー・チアン)も登場したよ。
『三体』シリーズの中では、一番好きなキャラです。前作の主人公・葉文潔(イエ・ウェンジエ)と汪淼(ワン・ミャオ)は、ほとんど登場しませんでした。
ファーストコンタクトを経て、地球侵略のため約450年後にやってくる三体艦隊。『黒暗森林』では、終末決戦に向けた防衛策が描かれています。
面壁計画(ウォールフェイサー・プロジェクト)。
計画のために、羅輯を含めた4人の面壁者が選ばれました。
面壁計画と4人の面壁者|ヒヤリとする「精神印章」
終末決戦に向けた防衛策・面壁計画がまた厄介なものでした。
・・・というのも、地球は智子(ソフォン)の出現により、全ての情報が三体世界に筒抜け状態なんですよね。
唯一、悟られないのは言葉にしない思考。
面壁者が欺く対象は、敵も味方も含めた全世界です
この人、何考えてるのかわからない・・・と思わせることができる人が面壁者に向いているのかも。
面壁者に選任されたのは4人。彼らが行った面壁計画を簡単にまとめました。
- フレデリック・タイラー・・・蚊群計画を発案
- マニュエル・レイ・ディアス・・・水星に水素爆弾の発射基地をつくる計画
- ビル・ハインズ・・・精神印章を開発
- 羅輯・・・惑星に呪文を送る
結局、羅輯以外は見破られたりして残念な結果でした。ハインズが開発した「精神印章」はヒヤリとします。
「精神印章」は、人間の思考を修正できるもの。一種のマインドコントロールですね。
例えば、戦争に必ず勝利するという信念を植えつければ、思想統制された宇宙軍をつくることができちゃう。
最強の宇宙軍かもしれないけど、人間の思想をコントロールするなんて、ちょっと怖い。人間らしさが失われるような気がしてヒヤリとしました。
面壁者・羅輯と想像の中の彼女
面壁者に選任された大学教授・羅輯。他の3人の面壁者は国の大統領だったり、政治家や科学者など大物人物だけど、彼は異例でした。
葉文潔(イエ・ウェンジエ)と接していた人物だ。
文革で家族を亡くした葉文潔。三体世界に地球人が存在することを伝えた人です。
羅輯は、三体人を支持する人々に狙われてスリル満点でした。前作では汪淼を守った史強が、ここでも大活躍。
羅輯と史強のコンビも良かった。
想像力が豊かな羅輯。私も想像することが好きなので共感できるところもあるんです。
想像の中の彼女・荘顔(ジュアン・イエン)が現実に現れたことにはビックリ。彼らの生活は幸せそうでほっこりしました。
〈自然選択〉章北海の逃亡計画
もう一人の主人公、宇宙艦〈自然選択〉艦長代行・章北海(ジャン・ベイハイ)。
彼は軍人だけど、人類は三体世界に負けるという敗北主義の思想を持つ人でした。
三体艦隊が太陽系到達まであと2・10光年に迫ったとき、「冬眠」から目覚めた章北海は、宇宙艦〈自然選択〉艦長代行として宇宙へ飛び立ちます。
「冬眠」は、SFにはよくある人体冷凍保存・・・のようなものだね。
『三体』シリーズは 約450年後に終末決戦を迎えるなど、年数も壮大な物語。異星人が地球に来る頃には、今いる人は誰も生きていないことになります。
だから重要人物はみんな「冬眠」して危機がきたときに対応できるようになっていました。
章北海は、宇宙に飛び立った〈自然選択〉と乗務員ごとジャックして逃亡。
この戦争で人類はかならず負ける。わたしは地球のために恒星間宇宙船を一隻、温存したいだけです。人類文明のために、宇宙にひと粒の種を、ひとつの希望を残したいのです
人類存続のために、自分の信念を貫く章北海に圧倒された。
逃亡した〈自然選択〉の乗務員は地球には戻らずに、移住できそうな惑星を探しながら宇宙をさまよう道を選びます。
それは、ゴールが見えない果てない旅路でした。
章北海の逃亡計画が正しかったのか、今となってはわかりません。彼らも暗黒の道をたどることになるからです。
三体探査機「水滴」がもたらした絶望
『黒暗森林』下巻。「水滴」と遭遇した宇宙でのシーンが一番ハラハラして怖く、面白かったです。
章北海の計画により〈自然選択〉が逃亡したとき、三体の探査機「水滴」が一足先に太陽系に到達していました。
水銀の雫の形から「水滴」と名付けられた三体艦隊からの贈り物。美しくシンプルで洗練されたフォルム。
「水滴」が攻撃を始めた瞬間が鳥肌ものです。
わたしがおまえたちを滅ぼすとして、それがおまえたちとなんの関係がある?
丁儀博士だけは、三体人の「水滴」に込められたメッセージを正確に読み取っていました。
この頃の地球は科学やテクノロジーが進歩していて、三体世界を脅威としない風潮。だから「水滴」を善意の贈り物だと思ってしまったのです。
この後の展開は、背筋が凍るほどの悪夢だった。
「水滴」は地球艦隊を次々と攻撃。たった20分間で1000隻以上の戦艦が破壊されました。・・・その描写が怖い。
全人類の宇宙兵力を壊滅させたのは、三体世界の探査機たった1機。同じような探査機があと9機、3年後に太陽系に到達します。
絶望感が半端ないんだけど・・・。
人類に残った宇宙戦艦の末路|生き残った〈青銅時代〉と〈藍色空間〉
「水滴」との戦いを経て人類に残された宇宙戦艦はわずか7隻でした。
- 「水滴」から逃げ延びた2隻〈量子〉と〈青銅時代〉
- 章北海の宇宙艦〈自然選択〉と4隻の追撃艦〈藍色空間〉〈カンパニー〉〈ディープ・スカイ〉〈アルティメット・ロー〉
宇宙空間を漂っていた2グループの艦隊は、全く同じ末路をたどります。他の艦を犠牲にして1隻ずつ生き延びるんです。
最後に残ったのは〈青銅時代〉と〈藍色空間〉。
三体世界との終末決戦を目前にして地球に望みはなく、彼らは絶望の真っ只中にいました。ホームを失った彼らは人間性を失っていく・・・。
「つまり、この環境では、人間は新人類になるということですか?」「新人類? いいえ、中佐。人間は……非人類になる」
藍西と東方延緒の会話、そしてこの後の展開に戦慄しました。「一部の人間の死か、すべての人間の死か」考えた末、前者に落ち着いたわけです。
- 〈量子〉は攻撃を受ける→〈青銅時代〉が生き延びる
- 〈自然選択〉他3隻は攻撃を受ける→〈藍色空間〉が生き延びる
2つのグループは離れているのに全く同じ末路をたどるなんて・・・。
彼らの精神状態の変化が怖かったです。帰るべき惑星を失い、宇宙に放り出されるとこんな感じになるのかな・・・。
ラスト、羅輯の呪文が三体世界を牽制!?
ラストは、面壁者・羅輯の戦略がみごとに三体世界を怯ませました。彼は、ある惑星に呪文を発信していたのです。
呪文を発したあと「冬眠」し、約185年後に目覚めて呪文の効果が発揮したことを知ります。
これはフェルミのパラドックス、そして「黒暗森林」というタイトルにも暗示されている結果です。
狩人の中で、きっとひとりくらいは、その座標に向かって、試しに一発撃ってみるという選択をする者がいるだろう
宇宙の中には地球や三体文明以外の文明が多くあるかもしれない。その中の一つくらいは、試しに一発撃ってみるという選択をする者がいる・・・ということに基づいた呪文。
宇宙に存在する誰かが攻撃したんだね。
文明が存在する場所を明かすということが、どんなに危険なことか・・・。まさに宇宙は「黒暗森林」。狩人がひしめいています。
今度は、羅輯が智子を通じて三体世界を脅すんだ。
三体世界とその周囲の恒星、合わせて30個の相対位置を宇宙に送信する。
怯んだ三体人は、地球に向かっていた三体艦隊を反らす。羅輯の脅しが効いたのです。
3部作の第2部だけど『黒暗森林』で一区切りついた感じでした。このまま終わっても大丈夫な展開。