『三体Ⅲ 死神永生』ネタバレ感想文・あらすじ|タイトルの意味、宇宙の真相を解説|劉慈欣
- 『三体Ⅲ 死神永生』あらすじと感想文
- タイトルの意味を考察&解説
- 階梯計画と天明の贈り物
- 崩壊した三体
- 暗黒森林攻撃回避のプロジェクト
- マジック・リングの崩壊
- 紙切れと暗黒森林攻撃
- 宇宙の真相
ネタバレあります。ご注意ください。
発動された暗黒森林攻撃
劉慈欣さんの小説『三体Ⅲ 死神永生』読書感想です。三体シリーズ(「地球往事」)3部作にして完結篇。超スケールがでかい!圧倒されました。
これはすごい。まさに次元を超えた宇宙スケール。
SF小説だから宇宙スケールなんてびっくりすることじゃないじゃん。・・・と思うかもしれないけど、完全に想像の上をいっていました。
前作『三体Ⅱ 黒暗森林』で物語にひと区切りついていたから、この後どんな展開になるのか不思議だったんです。(正直、『黒暗森林』が面白かっただけに不安でした)
心配無用、『黒暗森林』とはまた違った面白さがありました。
『三体Ⅲ 死神永生』あらすじ
三体シリーズ、ついに完結
三体世界の太陽系侵略に対抗すべく立案された地球文明の切り札「面壁計画」。その背後で極秘の仰天プランが進んでいた。侵略艦隊の懐に、人類のスパイをひとり送る―奇想天外な「階梯計画」を実現に導いたのは、若き航空宇宙エンジニアの程心(チェン・シン)。計画の鍵を握るのは、学生時代、彼女の友人だった孤独な男・雲天明(ユン・ティエンミン)。この2人の関係が人類文明の、いや、宇宙全体の運命を動かすとは、まだ誰も知らなかった・・・。
『死神永生』タイトルの意味を解説|三体(地球往事)シリーズ最終巻
『死神永生』というタイトルは、本書の中の文章に由来するようです。
人間、どこへ航海しようと、結局いつかは、この灯台が示す方角に向かうことになる。すべてが移ろいゆくこの世の中で、死だけが永遠だ
死だけが永遠。生きている限りどこにいても、いつかは平等に訪れるということ?
この文章を読むとそう思うけど、もう一つ、タイトルに関係ありそうな文章がありました。
あらゆる文明とあらゆる記憶は、未来永劫、この果てしない墓に葬られたままとなる。こうして、死だけが永遠につづく
「果てしない墓」は膨張し続ける宇宙を指しています。
つまり「死だけが永遠」(死神永生)というのは、膨張し続ける宇宙の中では「死だけが永遠とくり返される」という意味。
・・・そう考えると「死神永生」は「宇宙」を指しているとも言えますね。
ちなみに、英語版のタイトルは『Death’s End(死の終わり)』です。
膨張し続ける宇宙が終わる(かもしれないラストを考えると)→新宇宙を暗示した明るい未来をイメージできるタイトルに感じました。
「三体」3部作は、原題だと「地球往事」3部作なんです。
往事とは過去の意味だよ。
三次元世界で存在していた過去を指しているのか・・・。『死神永生』を読み終わったあとでは哀愁を感じますね。
最終巻においては「地球往事」シリーズというのが、しっくりきました。「三体」シリーズの方がインパクトあるけど。
『三体Ⅲ 死神永生』ネタバレ感想文
『三体Ⅲ 死神永生』は前2作よりも、SF要素がてんこ盛りでした。
次元、低高速ブラックホール、光速、宇宙都市、光墓、長方形膜状物体、小宇宙空間・・・。
ちょっと盛りすぎてて、まとまりに欠ける気がしないでもない。それでも面白いのは確かです。
四次元空間、三次元→二次元の崩壊がドキドキだった。
想像すると恐ろしいのだけど、読むのを止められませんでした。この辺り、映像で見てみたいです。
ラストは宇宙の真相まで追求してた。本当にスケールが大きいよね。
階梯計画(ラダー・プロジェクト)と天明が贈った星
前巻『黒暗森林』で三体世界を抑止することに成功して、危機紀元は終わりを迎えました。
『死神永生』は少しだけ時期が重なるんです。面壁計画とともに、実は裏で違う計画が進行していました。
三体に人類をひとり送り込む計画、階梯計画(ラダー・プロジェクト)です。
「われわれは、脳だけを送る」
ゾッとするけど、可能なんだよね、この世界では。
選ばれたのは、病で余命わずかの雲天明(ユン・ティエンミン)でした。主人公・程心(チェン・シン)の大学時代の友人です。
学生のときから程心に恋心を抱いていた天明は、かなりのロマンチスト。彼女に星をひとつ、最後の方では小宇宙空間までプレゼントするのだから・・・。
天明が程心にプレゼントした星(DX3906)は、最後の方で彼女の道しるべとなります。
『死神永生』は本格SF小説だけど、最後はラブストーリーのようにも思えたよ。
階梯計画後、人工冬眠に入った程心。月日は流れ、目覚めたときには彼の脳は行方不明・・・。階梯計画は人々から忘れ去られていました。
天明、どうなったの?
そのうち出てくるかな・・・と読みすすめていたら、上巻ラスト辺りで登場。無事に三体人が回収してくれたようで安心しました。
暗黒森林攻撃により、三体世界が壊滅!?
三体世界、崩壊してしまうのですよね。わりと早い段階で。暗黒森林攻撃がなされたのです。
暗黒森林については『三体Ⅱ 黒暗森林』のレビューで詳しく書いているよ。
羅輯(ルオ・ジー)によって攻撃は抑止されたけど、執剣者(ソードホルダー)が程心に交代したとたんに三体艦隊は重力波送信器を破壊。三体人による地球侵略が始まります。
三体が地球に危害を加えるようなら、スイッチを押して座標を公開。暗黒森林攻撃が三体に向けてなされるかもしれません。ただその場合、三体と交流のある地球の座標も知られることになります。
程心はスイッチを押さなかったんだ。
それを見越した上で送信器を破壊した三体艦隊。これで心置きなく地球を侵略できると思いきや、座標は送信され、崩壊の道をたどるのです。
座標を宇宙に向けて送信したのは、重力波送信器を搭載した地球艦隊〈万有引力〉と〈藍色空間〉の乗員でした。
焦っただろうね、三体人は。
・・・まぁ、崩壊しても艦隊で宇宙に逃げのびた三体人もいたわけで。脳だけ送った天明も生きています。
そして三体から送られてきた智子。今回は女性型ロボットとして登場しました。読み方は「ともこ」です。『三体』で出てきた智子(ソフォン)とは別物(進化系?)。
程心とは気心の知れた友人のような感じで、彼女の存在も目を引きました。
地球も危ない!暗黒森林攻撃の回避は可能か?
『死神永生』上巻の後半から、地球は暗黒森林攻撃の回避を探っていきます。三体が攻撃され、いずれは地球も・・・。
ある文明が、自分たちは無害で、だれに対しても脅威にはならないということを全宇宙に示し、それによって暗黒森林攻撃を回避することはできるのか
羅輯の問いかけに対して可能だと答える智子。ただその方法や正解を三体人は教えてくれません。
天明が語った「地球のおとぎ話」にヒントを得て、3つのプロジェクトが進んでいきます。
- 掩体計画(バンカー・プロジェクト)・・・木星・土星・天王星・海王星の巨大惑星を掩体として、暗黒森林攻撃による太陽爆発の影響を回避する。4つの惑星の近傍に、全人類を収容できるだけの宇宙都市を建設
- 暗黒領域計画(ブラック・ドメイン・プロジェクト)・・・太陽系を低光速ブラックホールに変えることにより、全宇宙に安全通知を送信する
- 光速宇宙船プロジェクト・・・太陽系を脱出する
一番攻撃されなさそうなのは、低光速ブラックホールに変える暗黒領域計画かな。
低光速ブラックホールとか、まさに本格SFでワクワクしちゃいます。(←実はよくわかってないけど)
最終的には掩体計画が進んでいました。木星にできた宇宙都市など、程心の視点で描かれた世界もSF感満載なんですよね。
絶望的だったのは、掩体計画が正解ルートではなかった点です。複雑な気持ちにもなりました。
高次元から低次元へ|発動された暗黒森林攻撃
『死神永生』で一番興味をひかれたのが「次元」です。
二次元、三次元、四次元・・・。今いる世界は三次元(または、三次元+時間)と言われていますね。
「縦」と「横」と「厚み」があるのが三次元。「厚み」がない、平面図のような世界が二次元。三次元にもう一つ「何か」をプラスしたのが四次元。(「何か」は「時間」なのかもしれないし、違う何かかもしれません)
高次元の方が要素がたくさんあって楽しそう。
上巻のはじめに描かれている第1部「魔法使いの死」は、次元が描かれていたのですね。
どう繋がるのか不思議だったけど、〈万有引力〉が四次元から「水滴」を攻撃したときに気づきました。
「魔法使いの死」の彼女は、四次元から攻撃していたんだ。
三体シリーズ最終巻は、次元がひとつのポイントになっています。
- 【崩壊するマジック・リング】四次元空間→三次元空間へ
- 【次元攻撃】三次元→二次元へ
崩壊していくところは悲しくもあるけど、スリリングで息が止まるくらいハマりました。
四次元宇宙「魔法の指輪(マジック・リング)」の崩壊
宇宙に三体の座標を公開した〈万有引力〉と〈藍色空間〉は、四次元空間の入口が存在していることに気づきます。
関一帆の例え話が興味深い。
「三次元に二次元が含まれるように、四次元空間には三次元空間が含まれる。たとえて言えば、いまわれわれは、四次元空間の中の、三次元の紙の中にいる」
ただ見えないだけで、もしかしたら、この世界は高次元なのかも。
四次元空間で見つけたドーナツ形の物体、”魔法の指輪”(マジック・リング、光墓)との会話にワクワクしました。
我是墓地(わたしは墓だ)
かつては宇宙船だったマジック・リング。でも、いまは死んで墓になっています。四次元宇宙に浮かぶお墓。
なんとも奇妙な光景だね。
あと少しで四次元宇宙から三次元宇宙に落ちてくる・・・。四次元にあるものは全て崩壊していきました。
ちょっぴり切なくなるけど、このシーン、好きです。
小さな紙切れと暗黒森林攻撃
下巻の後半はヒヤリとしました。『黒暗森林』で水滴の攻撃を受けたときのようなヒヤリ感。
恐るべきことに、地球に対して暗黒森林攻撃がなされます。
それは一枚の小さな紙切れでした。太陽系を目指して進む〝長方形膜状物体〟。クレジットカードよりやや大きいサイズで、きわめて薄く厚みは測定できません。
紙切れの正体は二次元空間です。
四次元が三次元に崩潰するように、三次元空間も二次元空間へと崩潰するのかもしれません。ひとつの次元が量子レベルに小さく折り畳まれるのです
紙切れは急速に拡大し、多くの三次元空間がそこに落ちていく・・・。太陽系の崩壊です。
太陽、地球、他の惑星・・・。太陽系にあるもの全てが一枚の紙切れ(二次元空間)へと落ちていくのは怖くもあり、あ然としました。
三次元のモノが、二次元に落ちたら生きてはいられないよね・・・。
厚みがなくなるから、紙に描かれた絵のようになってしまうんです。恐るべき暗黒森林攻撃。太陽系崩壊のところは目が離せませんでした。
『黒暗森林』が一件落着な終わり方をしていたから、こんな展開が待ち受けているとはつゆ知らず。
衝撃だったけど面白かったよ。
宇宙の真相|改変され続ける宇宙
宇宙の真相がまたパンチが効いていました。・・・『死神永生』は驚きが詰まったビックリ箱のような本ですね。
宇宙は、生命によってすでにどれだけ変わってしまっているのだろう? どれほどのレベル、どれほどの深度で改変がなされているのだろう?
最初の方で、楊冬(ヨウ・ドン)が疑問に思ったことの答えがラストに明かされます。
一度放たれた次元攻撃は止まらないのです。〈万有引力〉と〈藍色空間〉が遭遇したマジック・リングも宇宙の真相を理解していました。
海を干上がらせた魚は、海が干上がる前に陸に上がった。ひとつの暗黒森林からべつの暗黒森林に移動した
- 「海を干上がらせた魚」→暗黒森林(次元)攻撃者
- 「陸」「べつの暗黒森林」→低次元宇宙(低次元宇宙で生き延びられるように自らを改造)
- 「ひとつの暗黒森林」→今いる高次元宇宙
怖いなぁ・・・。結局、どの次元でも暗黒森林攻撃は続いていくのか。かつてのエデンの園のような美しい楽園、十次元の宇宙に行ってみたいです。
宇宙の真相、次元攻撃、崩壊・・・。全てに圧倒された。
面白かったのでオススメです。