『三体X 観想之宙』ネタバレ感想文・あらすじ|宇宙を駆けめぐる雲天明&ハマれなかった理由|宝樹
『三体Ⅲ 死神永生』の空白部分が明らかに!
- 『三体X 観想之宙』あらすじと感想文
- 印象に残った雲天明と艾AA
- 三体世界での雲天明
- 壮大な世界観
- 終章「プロヴァンス」と程心について
ネタバレ&辛口レビューあります。本編『三体』シリーズにもふれますので、未読の方はご注意ください。
宝樹(バオシュー)さんの小説『三体X 観想之宙(かんそうのそら)』を読みました。劉慈欣さんのSF小説『三体』のスピンオフという位置づけの本です。
『三体Ⅲ 死神永生』で描かれなかった裏側、謎がすべて明かされる。
公式が認めたスピンオフだから期待して読んだのだけど。・・・正直にいうと、読まなくても良かったかな。
面白かったには、面白かったよ。
ただ、あくまで三体ファンが描いた二次創作ということを念頭において読んだほうがよいですね。これを認めた劉慈欣さんの懐の深さを感じました。
『三体X 観想之宙』あらすじ
『三体』二次創作
太陽系侵略をもくろむ三体文明の懐に、人類のスパイを送るという「階梯計画」の主人公となった孤独な男・雲天明。彼はいかにして三体文明のもとで過ごし、程心の前に現れたのか?シリーズ完結篇である『三体III 死神永生』で描かれたさまざまなできごとの裏側、知りたかった事件がすべて描かれる。
『三体X 観想之宙』ネタバレ感想文|印象に残ったのは、雲天明と艾AA
あらかじめ断っておきますが、『三体X 観想之宙』は決してつまらなくはないんです。しっかりとした内容になっているし。
パラレルとして、「こういうこともあったかもしれない」と思わせるのはさすがだったよ。
ただ、読まなくても良かったなと。賛否が分かれるというのに納得でした。できれは、劉慈欣さんが描いた『三体』の裏側が読みたかったです。
『三体X』を読む前に、『三体Ⅲ 死神永生』を読みなおしたんですよね。『三体Ⅲ』はめちゃめちゃ面白くて、再読しても楽しめました。
この興奮のままに『三体X』を読むと、なんか違うというか、違和感が残る結果に・・・。(←作者が違うから、当たり前なんだけど)
『三体X』で一番印象に残ったのは、第一部「時の内側の過去」でした。
第一部「時の内側の過去」と『三体Ⅲ 死神永生』のおさらい
一番印象に残ったのは、雲天明(ユン・ティエンミン、うん・てんめい)と艾AA(あい・えいえい)が描かれた第一部「時の内側の過去」です。
少しだけ『三体Ⅲ 死神永生』のおさらいをしておきますね。
『三体Ⅲ 死神永生』では、暗黒領域化した青色惑星(プラネットブルー)の外側を光速でくるくる回っていた程心(チェン・シン、てい・しん)と関一帆(グァン・イーファン、かん・いっぱん)のその後が描かれていました。
プラネットブルーの外側と内側では、時間の流れがちがうんだ。
程心と関一帆が再びプラネットブルーに降り立ったときは、内側の時間で1890万年後だったという・・・。この時点で内側に残された雲天明と艾AAは、もういません。
雲天明と艾AAがプラネットブルーでどのように過ごしていたのかを描いたのが、第一部「時の内側の過去」です。
暗黒領域化したプラネットブルーでの雲天明と艾AAの物語なんだね。
ちなみにプラネットブルーは、恒星DX3906の惑星のひとつです。以前、雲天明が程心にプレゼントした星。
かつてふたりは、その星で再び会おうと約束していたのだけど・・・。
次元攻撃により太陽系崩壊後、運命のいたずらか、くっついたのは雲天明と艾AA、程心と関一帆の組み合わせなのだから何があるかわかりませんね。
三体世界での雲天明|地球侵略のために三体人がやったこと
第一部では今まで謎だった三体世界での雲天明が描かれています。彼が艾AAに聞かせるカタチで。・・・これがまた衝撃で胸が痛みました。
三体人は雲天明の脳にあらゆる電気信号を送り、地球人を知ろうとしていたのです。すべては地球侵略のために。
『三体Ⅲ 死神永生』で階梯計画(ラダー・プロジェクト)により、彼の脳は三体世界に送られました。
ぼくはほとんどの時間を自分の夢の中で過ごしてきた。夢の中で数千年、もしかしたら一万年以上の年月を過ごしてきたんだ
彼が受けた仕打ちが恐ろしい。楽しい夢もあったけど、最後は決まって地獄に落とされるんですよね・・・。
それは脳に送られた電気信号で実際に起こったことではないけど、その夢がすべての彼にとっては現実のようなものです。
かなりシビアな話だったよ。
ただ、『三体Ⅲ 死神永生』での謎だった部分の答え合わせ感が否めなくて、物語に深く入りこめませんでした。
これが艾AAに聞かせる回想ではなくて、リアルタイムでの三体世界が描かれた物語だったらハマれたかもと、思ったり。
智子(ともこ、ヂーヅー)のモデルについては、ネットの2ちゃんのノリですね。「これはないわー」と感じました。
三体シリーズに劣らず壮大な世界観に圧倒された|結局は雲天明が好き?
『三体X』は、本編『三体』シリーズに劣らずスケールが大きかったです。この辺り、多くの方から評価されているのに納得でした。
宇宙のことや次元攻撃者の世界など、物語の広がりを感じます。
次元(暗黒森林)攻撃者、歌い手と母世界について描かれていた第三部「天萼」は興味をひきました。
ちなみに暗黒森林攻撃については、フェルミのパラドックスが描かれた『三体Ⅱ黒暗森林』を読むと、攻撃される理由がわかります。
次元(暗黒森林)攻撃者については謎だったからね。
宇宙の終焉など大宇宙については難しくてよくわからなかった、というのが本当のところです。
「統治者」の存在が明かされたり、雲天明が「潜伏者」を探す「捜索者」になったり・・・。それで彼は、100億年以上(?)大宇宙をあちこち奔走してきたというのだから。
宝樹さん、結局は雲天明が好き?
そんな感想に落ち着いた。
やっぱり程心は好きになれなかった|終章「プロヴァンス」
終章「プロヴァンス」には、程心が登場します。
『三体Ⅲ』の主人公・程心がどうも好きじゃなかったのですよね。(キャラが好きじゃないのに物語は楽しめたのだから、『三体Ⅲ』はすごいです)
『三体X』を読んで、さらに程心が嫌いになったという・・・。
ハマれなかったのは、キャラの違いに違和感を感じたのもひとつなんです。うまく言えないのだけど、こんなキャラじゃなかった・・・。
程心だけじゃなくて、雲天明や艾AAもキャラ違くない?
ちなみに終章「プロヴァンス」は、『三体Ⅲ 死神永生』での続き(程心と関一帆、智子が大宇宙に通じるドアをくぐり抜けた後)が描かれています。
彼女たちがたどり着いた大宇宙にいたのは、雲天明と艾AAでした。
『三体X 観想之宙』は、三体シリーズ好きなら読んでよいかも
三体シリーズ好きなら読んでよいかもしれません。ひとつ、あくまで二次創作であると知った上でなら。
『三体X 観想之宙』を単体で読む人はあまりいないと思うけど、「三体」シリーズを読まないと、ついていけない内容になっています。最低でも『三体Ⅲ 死神永生』上下巻は読んでからですね。
宝樹さんが広げた世界は圧巻のスケールだった。
『三体X』を読んで、宝樹さんの他のSF小説に興味を持ちました。残念ながら『三体X』はハマれなかったけど、これだけの物語を描けるなら、他に面白い作品がありそうです。