- 上田早夕里さんの小説『夢みる葦笛』あらすじと感想
- 謎の生物・イソア
- 神秘的な異星生物・プテロス
- 夢みる人工知性
- 生命と知性 「アステロイド・ツリーの彼方へ」
少しだけネタバレあります
すべてが味わえるSF短編集
上田早夕里さんの小説『夢みる葦笛』感想です。初めて読む作家さんですが、かなりハイレベルな小説でした。ジャンルで言うとSF。10編からなる短編集です。
『夢みる葦笛』あらすじ
驚異の世界がここに!
妖しくも宝石のごとく魅力を放つ珠玉の傑作短編集。人工知性、地下都市、パラレルワールド、人の夢―。想像を超える全10編を収録。
- 夢みる葦笛
- 眼神 (マナガミ)
- 完全なる脳髄
- 石繭 (いしまゆ)
- 氷波 (ひょうは)
- 滑車の地
- プテロス
- 楽園 (パラディスス)
- 上海フランス租界祁斉路三二〇号
- アステロイド・ツリーの彼方へ
『夢みる葦笛』感想
10編すべて読みましたが とにかく素晴らしい。何が素晴らしいかというと重厚な世界観です。
SF、ホラー、ファンタジー。全く違う世界観がここに。

SF、ホラー、ファンタジー、パラレルワールド・・・。すべてが味わえる!!
1冊でまったく違う世界観が楽しめます。甲乙つけがたいくらいにどれもが完璧。表紙も幻想的で素敵ですが、本当にそのイラストのような世界が浮かんできます。
世界観に魅せられながらも すんなりとけ込めました。想像を超えていました。ひとつひとつ長編で読みたいくらいです。
謎の生物・イソア
表題作 「夢みる葦笛」 はSFホラー。
イソギンチャクのような生物が世界中に発生して歌を歌っている。想像するとちょっと怖い・・・というか気持ちわるい。
謎の生物、イソア。
それの歌声を聴くと不思議な感覚になるようです。おだやかに、次第に魅せられていく・・・。ゾクッとしました。
最後までそれに抗おうとしていた亜紀と イソアになっていく人々。
果たして狂っているのはどちらなのか?
人と怪物。かなりのインパクトで1話目から衝撃をうけました。人の代わりに増殖していくイソアの恐怖を感じます。
神秘的な異星生物・プテロス

神秘的なプテロス
1番好きなのが 7話目 「プテロス」 です。
地球ではない宇宙のどこか。異星生物・飛翔体 (プテロス) と、それを研究する人間の物語でした。
プテロスは 地球生物でいう昆虫のような外見をしている飛翔体。でも人が背中に乗れるくらい大きくて。
本のテーマというか全体を通して見えてくるものがあります。
それは 「知性」。
全話ではないのですが、例えば 「プテロス」 では 「異星生物の知性」 を取り上げていました。
飛翔体が落下して 凍石柱を目指して地表を進んでいくのを一緒に見守る志雄。宇宙生物にも知性があるのではと不思議な感覚になるんです。
表題作 「夢みる葦笛」 のイソアもそう。人間には理解することが不可能で 神秘的な気持ちになります。
「プテロス」 の最後に凍石柱の正体がわかり、生命の営みと力強さを感じました。不思議な心地。人間の理解や常識を超えているけど晴れ晴れします。
夢みる人工知性
宇宙生物と、もう一つ
10編の物語の中には 人工知性が出てくるものもいくつかありました。「完全なる脳髄」、「氷波」、「楽園」、「アステロイド・ツリーの彼方へ」 です。独立した世界観を持つ物語。
「完全なる脳髄」 では 人間に近づこうとするシムと呼ばれるロボットがでてきます。人間の思考や視覚を身につけるために殺人を犯すシム。ロボットを平気で改造する人間と、人間を殺めていくロボット。
果たして、怪物はどちらか?・・・心にズシンとくる物語でした。
「氷波」 は ちょっと素敵なラストです。
土星の観測をしている人工知性が主人公。最後は人間たちから身体感覚をシミュレートできるプログラムを心待ちにしながら幕を閉じます。「喜び」 などの感情がいつか備わるのを夢見て。
心がほんのりと温まりました。
生命と知性 「アステロイド・ツリーの彼方へ」
「アステロイド・ツリーの彼方へ」 は 猫型の人工知性がでてきます。可愛いんですよね。名前をバニラといいます。
人間とは何か・・・と問うバニラに対し、主人公の杉野は一緒に過ごしながら人間の本質を教えていく。
最後にバニラの正体が明らかになります。ガツンときました。
人間の好奇心や探究心は留まることがありません。もしも身体感覚を持つ知性がいたら、それはどのように発達していくのか・・・。
ロボットにはない身体感覚。そして五感。
『夢みる葦笛』は、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を感じられる物語になっています。
人間にあって AIにはないもの。それを求めるAIと人間の関係・・・。本当にすべてが重厚な世界でした。


