『ソラリス』ネタバレ感想文・あらすじと解説|人間と海の奇妙なコンタクト|スタニスワフ・レム
- 『ソラリス』あらすじと感想文
- テーマは地球外知性体とのコンタクト
- 覆される概念
- かつての恋人・ハリー
- 振りまわされる人間たち
- 『ソラリス』結末
ネタバレあります。ご注意ください。
「人間」と「ソラリスの海」奇妙なコンタクト
スタニスワフ・レムの小説『ソラリス』読書感想です。以前から気になっていた作品を読みました。これは・・・、すごい。
SF小説でいて異質な作品。そして哲学的。
こういうSFははじめてかも。
ちなみに『ソラリス』は映画にもなっています。映画は見てないけど、どうやら原作とは違う雰囲気のようですね。
『ソラリス』あらすじ
地球外知性体との遭遇
惑星ソラリスを探査中のステーションで異変が発生した。謎の解明のために送りこまれた心理学者ケルヴィンの目の前に自殺した恋人ハリーが姿を現し、彼はやがて悪夢のような現実と甘やかな追憶に翻弄されていく。人間とはまるで異質な知性体であるソラリス。そこには何らかの目的が存在するのだろうか。
『ソラリス』ネタバレ感想文・解説|テーマは地球外知性体とのコンタクト
『ソラリス』は内容をひとことで言うなら、人間と地球外知性体とのコンタクトを描いた物語です。
地球外知性体とは惑星ソラリスの「海」。
知性を持つ「海」という設定が面白くてワクワクが止まりません。でも少しブキミな感じもしてソワソワ。
「海」っていうのが興味ひかれるよね。
「ソラリスの海」は人間たちのことをどう感じているんだろう?
何の先入観もなく読んでいたのだけど、「ソラリス学」のところは少し読みづらさを感じました。けっこうなページを割いています。
実は、最後まで読み終わって解説を読んだあとに、この小説ってすごいと思った作品なんですよね。
解説、先に読んでおけば良かったかな。
「人間」と「ソラリスの海」のコンタクト|覆される概念
『ソラリス』が他のSF小説と異なるのは、新しいパターンを描いたものだからです。
地球外知性体とのコンタクト(情報交換)ものというと、行き着く先は、だいたい3つのパターンに分類されるんじゃないかな。
- 侵略する
- 侵略される
- 仲良く共存する
この3つのパターンは、人間と地球外知性体の考え方が似ているから成り立つものです。
でも、もしも概念が全く違ったら?
解説に書かれた文章を読んで、ガツンと頭を殴られたような衝撃を受けました。
地球人と地球外生物とのあいだに相互理解が成り立つと考えるのは、似ているところがあると想定しているからだが、もし似たところがなかったらどうなるだろうか?
これを描いたのが『ソラリス』なんですよね。だから「人間」と「ソラリスの海」は最後まで噛み合わずにチグハグのまま終わる。
「人間」と「ソラリスの海」とのコンタクトは奇妙でした。コンタクト(情報交換)を取りたがっているのは「人間」だけで、「ソラリスの海」は意味不明だったから。
そもそも概念が違うんだね。
「人間」の概念を押しつけたままの状態で読んでいたら不気味に感じます。「ソラリスの海」が成すことに意味づけしたくなるけど、それにとってはコンタクトですらなかったわけで・・・。
「ソラリスの海」は、ただそこに存在するだけです。
そうだね、こんなパターンもあり得るんだ。
今まで異星人とのコンタクトものを何の違和感なく読んできたから、この発想はすごい。目からウロコでした。
ケルヴィンの前に現れた、かつての恋人・ハリー
ホラーなところと、恋愛要素も描かれている『ソラリス』。ちょっと怖くてミステリー感があったのは、ハリーが登場してからです。
ハリーは主人公の心理学者・ケルヴィンの元恋人。死んだはずの彼女がケルヴィンの前に現れます。
これは「ソラリスの海」のしわざなんだ。
ケルヴィンの脳をスキャンして、彼の記憶にあるハリーを作り出したのです。・・・ちょっとブキミですね。
混乱して恐怖に陥ったケルヴィンは、ハリーを宇宙の彼方に飛ばしてしまう。でも何事もなかったかのように、ハリーはまた作り出されて彼の前に現れるのです。
最初と同じものが戻って来るんだ……最初の訪問のときと同じ状態で。そいつは何も知らないだろう。いや、厳密に言えば、きみがそれを厄介払いするためにしたことなど、全然なかったかのように振る舞うだろう
「ソラリスの海」は、なぜこんなことをするのか。
読み終わってから「ソラリスの海」との概念の違いを理解したけど、このときはヒヤリとしました。
理解することが不可能な存在なんです、「ソラリスの海」って。ハリーを作り出したのも特に意味はなく。・・・良かれと思ってやったことなのかもしれませんが。
作り出されたハリーやケルヴィンが気のどくだった。
かつて恋人だった2人は、またお互いを好きになります。でも、自分が作り出された(人間じゃない)存在だと認識したハリーは自ら命を絶ってしまう。
ケルヴィンは2度も愛する人を失うのですね。・・・ちょっと残酷なラブロマンスでした。
「ソラリスの海」と振りまわされる「人間」
ただそこに悠然と存在する「ソラリスの海」と、理解できない相手に振りまわされる「人間」。
理解を超えた存在に出会ったとき、人々はただ、あたふたするしかないんだなと冷静な気持ちになりました。
それが人間っていうものなのかも。そんな人間が愛おしくもあるけど。
理解できないものは怖い。だから理解しようとするのが人の心理です。
「ソラリスの海」は、ただ成したいように成すだけ。なぜ?と問うても人々が理解するのは不可能です。どこまでもいっても「人間」と「ソラリスの海」は平行線でした。
なんだが哲学的なSF小説。
『ソラリス』結末|地球外知性体とのコンタクトは成り立つのか
ソラリスとは何だったのか。
最後に、はじめてケルヴィンはステーションを出て「ソラリスの海」と向きあいます。でも結局、理解できぬまま結末をむかえる。
ケルヴィンは気づくのです。「人間」と「ソラリスの海」では概念が違うのだから、コンタクト(情報交換)などムリな話・・・ということに。
地球外知性体とのコンタクト(情報交換)で、全く相互理解が成り立たない場合をテーマにした『ソラリス』。
あいまいな結末だったけど、これで良いんだと思うよ。
面白かったとはいいがたく人を選ぶけど、深みがある小説でした。めげずに最後まで読んで(解説も含めて)良かったです。