『百年法』ネタバレ感想文・あらすじ|命の期限と不老化社会の結末|山田宗樹

- 『百年法』あらすじと感想文
- もしも不老化社会が実現したら?
- 永遠の生を手に入れた人々の絶望
- 「百年法」をめぐる政治家の暗躍
- 蘭子とケンの生き方
- 皮肉な結末|SMOCとヒト不老化ウイルス
ネタバレあります。ご注意ください。
永遠に生きるには、人間は複雑すぎるんです
山田宗樹さんの小説『百年法』読書感想です。不老化社会を舞台にしたSFミステリー。パラレルワールドのような感覚で面白く読めました。
不老化社会が実現した世界で定められた命の期限「百年法」。そのとき、人々はー。

いつまでも若いままなんて夢のようだけど、いろいろあるんだね。
上下巻と長編ながら読みやすく、特に下巻は一気読みでした。
『百年法』あらすじ
不老化社会のSFミステリ
不老化処置を受けた国民は処置後百年を以て死ななければならない―国力増大を目的とした「百年法」が成立した日本に、最初の百年目が訪れようとしていた。処置を施され、外見は若いままの母親は「強制の死」の前夜、最愛の息子との別れを惜しみ、官僚は葛藤を胸に責務をこなし、政治家は思惑のため暗躍し、テロリストは力で理想の世界を目指す…。
『百年法』ネタバレ感想文|不老化社会の生と死
『百年法』は、不老化社会を実現したもうひとつの日本(日本共和国)が描かれた物語です。
ヒト不老化ウイルス(HAV)を、ヒトへ接種する技術(HAVI)を手に入れた世界が斬新でした。
簡単にいうと、HAVIは人を不老化する処置。HAVIを受けると老化をほぼ完全に防ぐことができるんです。病気や事故で死ななければ、永遠に生きることが可能となりました。

不老不死じゃないけど、老衰で死ぬことがなくなるなんて・・・。まさに夢のような社会。
20歳にHAVIを受ければ、実年齢が何歳になろうとも20歳の若さをそのまま保てるわけです。極端な話、中身は100歳だけど外見は20歳という・・・。ちょっと奇妙な世の中。
ほとんどの人が受けるでしょうね。たとえ「百年法」が定められていたとしても。
「百年法」定められた命の期限|もしも不老化社会が実現したら?
不老化社会が実現した世界の課題はひとつ。「増え続ける人口をどうするか」でした。
病気や事故にあわなければ永遠に生きることができるから、人口は増え続けることになりますね。解決法として定められたのが「百年法」です。
要は、HAVI(不老化する処置)を受けてから100年経ったら死ななければいけないということです。命の期限が決められるのは良い気分じゃないけど・・・。

ボクだったら「百年法」が定められても処置を受けるかも。
見た目はみんな若くて、ぱっと見、何歳なのかわからない社会が少し不思議・・・。老化しないから何歳になっても子どもを授かることもできるんですよね。
興味深かったのは、不老化社会での「家族のあり方」です。今の社会と全然ちがっていました。
子供がどんどん大きくなっていくうちはいいんだが、あいつらがHAVIを受けてこれ以上変化がないとなると、急に親としての情が薄らいでしまう
その結果、家族が自然消滅したり、親子関係を解消(ファミリーリセット)したり・・・。それが当たり前の社会は希薄な感じもしました。「もしも老いることがなくなったら」と、いろんな想像が広がります。

100年間は働き続けないといけないのか・・・。ほんの一瞬、絶望感がおしよせてきた。
「百年法」がないとどうなる?永遠の生を手に入れた人々の絶望
不老化社会を実現した日本共和国は、最初から最後まで「百年法」廃止か続行かで揉めていました。
なければないで困るし、あったらあったでみんな素直に従うのか問題も勃発します。期限が近づくにつれて死の恐怖が訪れるから・・・。

途中、国民投票で「百年法」は凍結されるんだ。
命の期限が迫った人は、やっぱり廃止を望みますね。体が若いままだから尚更かもしれません。
蘭子の言葉が心にささりました。
「なんていうかさ、百年法がなくなったら、未来永劫、この生活が続くんだよ。そう思ったら……」
未来永劫、この生活が続く。やりたいことがたくさんあるから、私にはとても魅力に感じました。でも、考えてみたらそれは死がある前提での話です。
「百年法」がなくなり、未来永劫だったらどうか。
想像すると、ちょっぴり怖くなりました。
これといった変化もなく永遠につづく人生。何かしら変化がないとダメになりそうです。生きていく上では、老いる変化も大切なことなのかもしれません。
「百年法」が凍結された日本共和国では、その後、自ら命を絶つ人が続出しました。あれだけ「百年法」凍結を願ったのに・・・。
永遠に生きるには、人間は複雑すぎるんです

ほんとうに複雑だ。
凍結されなければ、たぶんみんな生きていたんです、「百年法」の期限までは。・・・そう思うと不思議なものですね。
日本共和国が不穏な雰囲気になり、「百年法」は再び復活することになりました。
牛島&遊佐の独裁政権|百年法をめぐる政治家の暗躍「大統領特例法」
「百年法」をめぐり、政治家たちの暗躍やデモ・爆弾テロがくり広げられます。
日本共和国のために行動する官僚・遊佐がステキでした。牛島&遊佐の独裁政権で国がめちゃめちゃになるのだけど・・・。
独裁政権の始まりは「大統領特例法」が可決されたときです。
その結果、牛島大統領のお気に入りだけが100年を過ぎても生きられる変な世の中になりました。彼にたて突く人はターミナルセンター(安楽死)行きとなってしまう・・・。これが独裁政権の誕生です。

恐ろしい。
あたり前だけど、政治家がそんな風だと国民も納得しませんよね。命の期限が過ぎても安楽死を逃れようとする人(拒否者)があとをたたなくなります。
国民が望むのは「百年法」の凍結もしくは廃止。拒否者が暮らす「拒否者ムラ」での、ケンと加藤医師のやり取りは面白く読めました。
命の期限を迎えるとき|蘭子とケンの生き方
「百年法」の凍結&再開という激動の時代を生きた蘭子は、やがて命の期限を迎えます。自らターミナルセンターに赴き、安楽死処置をうける。
蘭子の生き方(考え方)に好感が持てました。
「身体が衰えていくと、物事に対する考え方や感じ方も、変わっていくんじゃないかとは思う。HAVIを受けたあたしは、そういう機会を失ったまま、生きてきたけど。でも、死ななきゃいけない日がはっきりと見えてからは、いままでと違う感じ方、生き方ができたような気がするんだ」
命の期限が近づいてきて「死」を意識することで、いままでと違う感じ方や生き方ができたと言う蘭子。彼女の潔さが好きです。

終わりがあると意識することで、日常のありがたさがわかったりするよね。
山田宗樹さんの物語のつなぎ方が美味くて引き込まれました。章が変わると時間が飛んで、その間のことが他の人から語られたりするんです。
蘭子は結婚をして、息子(ケン)を授かっていました。
HAVIを受けずに老化していくケンの生き方も好きです。母をターミナルセンターまで見送った彼は、最後まで法律によって決められる「命の期限」に納得していないようでした。

「百年法」について、さまざまな人の考えが見えて深いんだ。
蘭子やケンの生き方、拒否者になって国造りを決意した先生、死ぬのが怖くて逃げた警官、同じく政治家・・・。命の期限を定めた「百年法」をめぐり、いろんな感情がうずまいています。
『百年法』皮肉な結末|SMOCとヒト不老化ウイルス
これまで政治家たちの暗躍や、さまざまな人々の思いが描かれていました。あれやこれやと試行錯誤を続けてきたのに、その結末は・・・
HAVI(不老化する処置)を受けない方が長く生きられるという皮肉なもの。
HAV(ヒト不老化ウイルス)が原因でSMOC(突発性多臓器ガン)を発症してしまい、結局「百年法」期限まで生きられない人々が続出。・・・HAVIを受けない方が長く生きられるという結果になりました。

うまい話には裏があるものだ。
HAVI(不老化する処置)で若さを保っている人々はガンの発症を避けられません。人の手に余る技術は、使うべきではなかったということですかね。
「百年法」をも使いこなせない人類は、まだ手を出すべきではなかったのです。不老不死なんて、まさに神の領域でした。


