『銀河英雄伝説9 回天篇』ネタバレ感想文・あらすじ|ロイエンタールの最期|田中芳樹
- 『銀河英雄伝説9 回天篇』あらすじと感想文
- ロイエンタールの叛意
- ウルヴァシー事件|ルッツの最期
- 第二次ランテマリオ会戦|ミッターマイヤーの覚悟
- ロイエンタールの最期
- 盛者必衰の理について
ネタバレあります。ご注意ください。
勝てぬとしても、負けるわけにはいかんのだ。
田中芳樹さんの小説『銀河英雄伝説9 回天篇』読書感想です。銀英伝(本伝)も残り2巻となりました。
2人の英雄のうち、ひとりが欠けた後も時間は止まらず流れていくー。
8巻〈乱離篇〉でヤンがいなくなり、彼が不在のまま進む残り2巻は面白さに欠けるんじゃないかと不安でした。・・・でもそれも杞憂だったようです。
めちゃめちゃ面白かったよ。ずっと涙目で読んでた。
物語は終息に向かっているのは間違いないけど、ここにきてまた面白さが加速しました。ロイエンタールが反旗を翻すー。
さすがだった。田中芳樹さんは筆力あるね。
天才という言葉では足りないくらいの筆力です。読ませる力、文章のセンス・・・、どれも抜群に上手くて物語に引き込まれました。
『銀河英雄伝説9 回天篇』あらすじ
帝国軍、双璧の対決!
前指導者の遺志を継ぎ、共和政府を樹立した不正規隊の面々。司令官職を引き受けたユリアンは、周囲の助力を得て、責任を全うすべく奔走する。帝国では皇帝暗殺未遂事件が発生、暗殺者の正体を知ったラインハルトは過去に犯した罪業に直面し、苦悩する。そして新領土総督ロイエンタール謀叛の噂が流れるなか、敢えて彼の地に向かうラインハルトを、次なる衝撃が待ち受けていた。
『銀河英雄伝説9 回天篇』ネタバレ感想文|謀叛を起こしたロイエンタール
面白すぎてあっという間に読み終わった『銀河英雄伝説9 回天篇』は、さらに激動が描かれた1冊でした。
「回天」の意味は、天下の形勢を一変させること。また、衰えた勢いをもり返すこと。
ロイエンタールの叛逆は形勢を一変させるまでには及ばなかったけど、大きな痛手になったんだ。
彼の叛逆により、ラインハルトはルッツとロイエンタールの2人を失いました。ローエングラム王朝も衰退していくのか・・・と、儚さを感じずにはいられません。
ロイエンタールの叛意
ロイエンタールが謀叛を起こすだろうことは薄々感づいていました。・・・ここにきてそれが現実となったわけですね。
ロイエンタール元帥叛逆事件の裏には、地球教と雲隠れしているルビンスキーが絡んでいます。
彼は嵌められたのだけど、途中からは自らの意志で謀叛を起こすんだ・・・。
ラインハルトを崇拝しながらも、野心も同時に抱いているかのように見えた金銀妖瞳の提督。
ロイエンタールは、なぜ謀叛を起こしたのか。彼の心情が描かれている箇所がありました。
「おれは自分がなんのためこの世に生を享けたか、長いことわからなかった。知恵なき身の悲しさだ。だが、いまにしてようやく得心がいく。おれは皇帝と戦い、それによって充足感をえるために、生きてきたのではなかったのか、と」
ミッターマイヤーに語るロイエンタールの気持ちに納得。『銀英伝』の登場人物って、戦っているときが一番生き生きしているように感じるんですよね。
これはロイエンタールだけじゃなく、ラインハルトやビッテンフェルト、ミュラー、そしてヤンにも通じるものがあります。
謀叛の理由が、ロイエンタールらしいなと思ったよ。
自分の出生や母親にコンプレックスを抱き、悶々とする姿を見てきたけど、この戦いでの彼が一番輝いていました。
ロイエンタール、カッコよかったです。
ウルヴァシー事件|ルッツの最期
ロイエンタールもかっこいいことながら、9巻ではルッツの最期にも泣けました。
ウルヴァシー事件。
ロイエンタールの謀叛により、彼がいる惑星ハイネセンに向かうラインハルト一行は、途中に立ち寄った惑星ウルヴァシーで襲撃を受けます。
その時ラインハルトと共にいたのは、ミュラー、ルッツ、シュトライト、キスリング、リュッケなど。
ルッツはラインハルトを守るために後続の敵を防ごうと、ひとり残るんだ。
ルッツの覚悟を感じました。・・・と同時に、そこまでの忠誠を捧げられる皇帝ラインハルトの偉大さも。
『銀英伝』の武将たち、その多くは自らを犠牲にすることを厭わないんですよね。彼らの信念に心打たれて涙が止まらなくなります。
ルッツの最期の言葉に泣きました。
「わが皇帝、あなたの御手から元帥杖をいただくお約束でしたが、かなわぬことのようです。お叱りは天上でいただきますが、どうかそれが遠い未来のことであるように……」
無念です。願わくば、生きて元帥に昇進してほしかった・・・。
第二次ランテマリオ会戦(帝国軍双璧の戦い)|ミッターマイヤーの覚悟
ロイエンタールが謀叛を起こした事実に一番打ちのめされたのは、ラインハルトじゃなくミッターマイヤーなのかもしれません。
ロイエンタールとミッターマイヤーは帝国軍の双璧で親友。キルヒアイス亡き後、ラインハルトの元で大活躍してきました。
ロイエンタールのことを一番理解しているのがミッターマイヤーなんだ。
彼らが戦うことになる「第二次ランテマリオ会戦」は読み応えがありました。友人と戦わなければならないミッターマイヤーの心情もたくさん描かれています。
「……おれは、ロイエンタールのやつに負けてやりたい」「閣下!」「いや、こいつはうぬぼれもいいところだな。全知全能をあげても、おれはロイエンタールに勝てはしないだろうに」
ミッターマイヤーの本音がもれたバイエルラインとの会話に胸が痛みました。
本当は戦いたくなどないのです。でもラインハルトや、これからの帝国のことを考えて戦う決意をするミッターマイヤー。
「ロイエンタールとおれと、双方が斃れても、銀河帝国は存続しうる。だが皇帝に万一のことがあれば、せっかく招来した統一と平和は、一朝にして潰えるだろう」
勝てぬとしても、負けるわけにはいかんのだ。
背負うものが大きいですよね・・・。ミッターマイヤーの覚悟に目を閉じ、深呼吸してから読み始めました。
ロイエンタールの最期
ランテマリオ星域で繰り広げられる戦いは、結果的にミッターマイヤー、そしてラインハルトの勝利となります。
悲しさが後を引く帝国軍双璧の戦い。ミッターマイヤーには悔いが残り、ロイエンタールは・・・、
満足だったのかな?
華々しく散ったロイエンタールが充足感を得たのかは、よくわからなかったです。でも彼の最期は壮大でした。
グリルパルツァーの裏切りにより負傷したロイエンタールは、鎮痛剤と造血剤を打ちながも戦線を離脱します。
表情ひとつ変えずに、全軍の指揮をとりつづけた彼が強靭すぎ。
さすが帝国軍双璧と言われているロイエンタール。そのままハイネセンへ逃れるけど、もう助からないのは明白です。
ロイエンタールの最期に号泣しました。
ウィスキーが入ったグラスを2つ。ロイエンタールは、グラスの向こう側に座るべき友人に向けて声を立てずに話しかけるのです。
「遅いじゃないか、ミッターマイヤー……」
このシーン、涙が止まりません。
ロイエンタールとミッターマイヤーは、よくグラスを片手に2人で語り合っていました。時には言い合いになり、それでもお互いを理解している仲です。
「疾風ウォルフ」と呼ばれているミッターマイヤーでも間に合わなかったんだ、ロイエンタールの最期には・・・。
彼の死後、ひとり佇み泣いていたミッターマイヤーの悔しい気持ちを想像すると、やりきれなくなりました。
『銀河英雄伝説9 回天篇』盛者必衰の理
波乱に満ちた『銀河英雄伝説9 回天篇』を読み終わって、「盛者必衰の理」という言葉が頭に浮かびました。
この世は無常であり、勢いの盛んな者もついには衰え滅びるということ。
平家物語で出てくるやつだよ。
ラインハルトの絶頂期はもう過ぎ去っているのでしょうね・・・。8巻でヤンがいなくなってから、顕著に感じるようになりました。
悲しくなるけど、この世の決まりのようなものです。そうやって歴史は積み重なっていく。
田中芳樹さんの著作は、歴史に思いを馳せずにはいられないや。
本伝残り1巻。この物語がどんな風にまとまるのか、名残惜しくも楽しみです。
別館ではアニメのレビューも書いてるよ。