『銀河英雄伝説8 乱離篇』ネタバレ感想文・あらすじ|常勝と不敗、最後の決戦|田中芳樹
- 『銀河英雄伝説8 乱離篇』あらすじと感想文
- 常勝と不敗の最終決戦「回廊の戦い」
- 不敗の魔術師ヤンについて
ネタバレあります。ご注意ください。
おそるべきはヤン・ウェンリーという男の智略だ。
田中芳樹さんの小説『銀河英雄伝説8 乱離篇』読書感想です。「イゼルローン回廊の戦い」が描かれた〈乱離篇〉。ラインハルトとヤンの最後の戦いとなりました。
乱離(らり)とは、国が乱れて人々が離散することの意味だよ。
この言葉はイゼルローンを見かぎって離脱しようと望む人たちを指してるのかな・・・。
8巻は命を落とす人が多かったです。
帝国軍では、シルヴァーベルヒ、ファーレンハイト、シュタインメッツなど。ヤン不正規隊では、パトリチェフ、フィッシャー、そして彼が・・・。
『銀河英雄伝説8 乱離篇』あらすじ
宿敵ヤン・ウェンリーと雌雄を決するべく、帝国軍の総力をイゼルローン回廊に結集させた皇帝ラインハルト。ついに“常勝”と“不敗”、最後の決戦の火蓋が切って落とされた。激戦に次ぐ激戦の中、帝国軍、不正規隊双方の名将が相次いで斃れる。ようやく停戦の契機が訪れたその時、予想し得ぬ「事件」が勃発し、両陣営に激しい衝撃を与えた。
『銀河英雄伝説8 乱離篇』ネタバレ感想文「回廊の戦い」常勝と不敗の最終決戦
「回廊の戦い」は迫力満点、読み応えがありました。常勝(ラインハルト)と不敗(ヤン)の最終決戦です。
ラインハルトとヤンが対決するのは「バーミリオン星域会戦」以来だね。
ラインハルトだけじゃなく、ミッターマイヤー、ロイエンタール、ミュラー、アイゼンナッハ、メックリンガー、ビッテンフェルト、ファーレンハイト、シュタインメッツ・・・など歴戦の名将たちも勢揃いでした。
これだけでもテンション上がる。
「回廊の戦い」の目的は、ただひとりの名将・ヤンを討つことです。
彼ひとりのために帝国軍の強者を集めるのだから、ヤン・ウェンリーはとてつもなく大きな人物ですよね。
一足先にイゼルローン回廊へ到着していたビッテンフェルト&ファーレンハイトがヤンに挑み、「回廊の戦い」が幕を開けます。
ヤンvsビッテンフェルト、ファーレンハイト|「回廊の戦い」幕開け
ビッテンフェルト&ファーレンハイトの攻撃は凄まじかったです。ひたすら前進し、攻撃を仕掛けた両提督。
でもそれが、ヤンが仕掛けた罠だったのです。最初から帝国軍を回廊内に誘いこむように仕向けていた・・・。
「おそるべきはヤン・ウェンリーという男の智略だ。それと承知していながら、ついに奴の術中にはまるとは、おれの武勲の鉱脈もつきたか」
ファーレンハイトがもらした言葉が印象的でした。ほんとうに、ヤンの智略はすごいです。
『アルスラーン戦記』の登場人物で例えるなら、ナルサスと言ったところかな。
智略を駆使して「不敗」の名を誇るヤンは、軍人には見えなくて不思議な人物。惜しくも、ファーレンハイトはここで命を落とすことになります。
前線に出た「疾風ウォルフ」ミッターマイヤー
ロイエンタールの作戦の元、イゼルローン回廊に進入を開始したラインハルト。アイゼンナッハ、ミッターマイヤー、シュタインメッツ、ロイエンタールも周辺を固めていました。
「疾風ウォルフが最前線にでてきたぞ!」
ミッターマイヤー、
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
〝疾風ウォルフ〟の異名を持つミッターマイヤーは、ロイエンタールとともに『銀英伝』では外せない人物。前線に出てきたときはテンション上がりました。
カッコイイんだよね、ミッターマイヤーもロイエンタールも。
キルヒアイスが殉職してから、存在が際立ってきた彼らです。
停戦申し入れ|ラインハルトを諌めたキルヒアイス
多くの犠牲を伴った「回廊の戦い」は、思わぬカタチで幕を閉じました。ラインハルトが停戦を申し入れたのです。
・・・らしくない。
でもラインハルトの言葉に納得でした。彼の中には、今もキルヒアイスがいるんです。
「キルヒアイスが言ったのだ、これ以上ヤン・ウェンリーとあらそうのはおよしください、と。あいつは死んでまでおれに意見する……」
キルヒアイスが生きてその場にいたら、ラインハルトを諌めていただろうね。
最初からこの戦いには反対していたヒルダ。でも彼女の願いはラインハルトに聞き入れられず、死んでいてもなお、彼の心を動かすことができるのはキルヒアイスただひとり。
キルヒアイスの存在は、ラインハルトにとっては今も大きいんだ・・・と実感せずにはいられません。
魔術師、還らず
ラインハルトとヤンの会談は行われませんでした。その前にヤンが暗殺されてしまうからです。
「魔術師、還らず」
目次を見て嫌な予感がありました。その予感は的中したわけですが、無念です。
悲しかったけど、心の準備はできていたよ。
田中芳樹さんの巧みなところは、いずれ登場人物が死んでいくということを、あらかじめ察知できる点。
ところどころ、「後世の歴史家が・・・」というような描き方をされているんですよね。
今生きている登場人物に対して後世の歴史家が評価した言葉などが書かれていたりします。
あぁ、いずれは、みんないなくなるんだ・・・と感じる。
不敗の魔術師ヤン・ウェンリーの死は、仲間にも敵にも大きな衝撃を与えました。その中でもユリアン、ラインハルト、ミュラーが印象に残っています。
泣き叫ぶユリアン
ヤンの被保護者であるユリアンが一番苦しそうでした。ヤンの元へ駆けつけるも間に合わなかったのです。
泣き叫ぶユリアンが不憫でなりません。
「赦してください、赦してください。ぼくは役たたずだ。一番肝腎なときに提督のお役にたてなかった……」
ヤンはユリアンにとって大きな存在なんだよね。
ユリアンが軍人になったのも、ヤンを見てきたからです。・・・最も、ヤンはユリアンを軍人にはしたくなかったのだけど。
ラインハルトの怒りと絶望
ヤンの死は、ラインハルトにも重くのしかかりました。
「予はあの男に、予以外の者に斃される権利などをあたえたおぼえはない。あの男はバーミリオンでもイゼルローン回廊でも、予を勝たせなかった。予の貴重な将帥を幾人も斃した。そのあげくに、予以外の者の手にかかったというのか!」
普通、敵が倒れるのは喜ばしいことだけど、ラインハルトは悔しそうだ。
常勝のラインハルトは、ヤンに勝てなかった苦い思いがあります。不敗のままヤンは逝ってしまったから、これからも勝つことはなくなりました。
強い敵と戦うのは、ラインハルトの望むところ。彼は戦っているときが、一番輝いているんですよね。
彼にもヤンは大きな存在だったことを改めて感じます。
ミュラーの言葉|ヤンは最強で最良の敵
帝国軍の中では、もしかしたらミュラーが一番ヤンの人となりを理解していたのかもしれません。
鉄壁のミュラー。
彼が使者としてヤンの弔問のためにイゼルローン要塞を訪れたとき、フレデリカに言った言葉が素敵なんです。
あなたのご主人は、わが軍にとって最強の、そして最良の敵でした
最強で最良の敵。・・・本当にそうですね。仲間だけでなく敵にも認められたヤン。
ミュラーの言葉に胸が熱くなったよ。
登場人物に思いを馳せた『銀河英雄伝説8 乱離篇』
『銀河英雄伝説8 乱離篇』を読んで、改めてヤンという人物を偉大だと感じました。彼がいなくなって気が抜けた・・・というか。
田中芳樹さんの小説は、登場人物に愛着がわくよね。
今までもそうですが、8巻は、より登場人物に思いを馳せたくなる1冊です。ヤンとヤンの周りの人々の気持ちがたくさん描かれていました。
ヤンが不在のまま、本伝あと2冊。彼がいなくなった影響がどう描かれるのか楽しみです。
別館ではアニメのレビューも書いてるよ。